もう一人の魔装女神
いつもと変わらない教室。
新しい学校にも慣れてきたが、一つ気になる事があった。
それは右隣の席の女の子と一度も会話をした事がなかった。それどころか、その子が他の子と会話をしているところも見たことが無い。
イジメを受けている訳ではないみたいだが、理由は知らないが誰も彼女と関わろうとはしなかった。
そこで挨拶をしてみる事にした。
『おはよう』
ただ遥をチラッと一度見ただけで何も返っては来なかった。
すると、左隣の席の美結ちゃんがヒソヒソと話し掛けてきた。
『やめておきなよ。空野さん成績が良いからって私達の事見下してるのよ』
(空野さんっていうんだ。そういえば名前も知らなかった)
美結ちゃんは見下してると言っていたが遥にはそうは見えなかった。
上手く言えないが、わざと距離を置いている気がした。
それからは、事あるごとに遥は空野さんに話し掛けてみる事にした。
班決めの時、体育の時、給食の時、休み時間の時。
全て無視され続けたがようやく空野さんは口を開いたのだった。
『貴女何なの?しつこい!ウザイ!キモイ!貴女の事私嫌いだから近づかないで!』
初めて聞いた彼女の声は冷たい言葉の塊だった。
それでも遥は何日も話し掛けるのをやめなることは無かった。
空野は学校から帰宅した。
家はとても大きな屋敷でメイドや執事などが住み込みで働いている。
空野は屋敷に入ると最初に叔父の部屋へと向かった。
叔父の部屋の扉をノックして帰宅した事を報告するのが義務付けられている。
『叔父様、ただいま帰りました』
この時、扉を開ける事は無かった。
彼女は産まれてすぐ両親を亡くし、母の兄である叔父に引き取られた。
しかし、叔父の元へ引き取られる前に親戚中をたらい回しにされていた。
彼女の両親は両家から結婚を反対されていたが、それを押し退け結婚したのだ。
その二人の子は厄介もの扱いされ5歳の時にようやく今の叔父の元へと引き取られたのだった。
報告を終えると自分の部屋へと行き、二つに結んだ髪を解きベッドへ横たわった。
『あの子一体何なのよ…』
彼女がボヤくとフワフワとピンクのモコモコが寄ってきた。
『学校で何かあった?』
ピンクのモコモコは喋った。
『何でもないわよ。それよりアッチの方はどうなってるの?』
『うん、有ったよ〜』
『そ、じゃあ行きましょう』
彼女はベッドから立ち上がり再び髪を結んで屋敷の外へと出ていった。
その頃遥はエンジェルキーが街のデパートに有る事がわかったとピエールから報告を受け、デパートへと向かった。
デパートに着くと建物から煙がモクモクと立ち上っていた。
デパートの周りには人が沢山居て近づく事が出来なかった。
『もしや…キーが覚醒したのか?』
『どうしよう…これじゃ近付けないよ』
困り果てる遥。
『前回は人が居なかったから使わなかったんだが、今回は仕方ないか』
ピエールがそう言って両手を広げると空は茜色に染まり人の姿が消えていた。
『結界を貼って次元を切り離した。これで行けるぞ』
遥は首を傾げて何が何だか理解出来ていない様子だ。
『要するにだ、この空間なら好きなだけ暴れても平気って事だ』
『おぉ!分かりやすい』
難しい御託を並べるより理解してもらえると思い簡潔に説明するピエールだった。
デパートの中へと入るとやはりキーは覚醒していた。そこには炎に包まれた馬が暴れていた。
『新しい物って試したくなるんだよね』
そう言って遥は前回手に入れたキーを掲げた。
『ヘブンズゲートオープン!マテリアル転回!』
変身しようとしたその時何者かに邪魔をされ変身する事が出来なかった。
『アレは私の獲物、貴女に邪魔はさせない』
『空野…さん?』
そこに居たのは空野さんだった。
空野は遥を睨み付けた後、手を掲げた。その手にはエンジェルキーを持っていた。
『ヘブンズゲートオープン!マテリアル転回!』
ヘブンズゲートは開き空野を光で包んだ。
空野は水色の服に蒼い髪。手には槍を持っていた。
【魔装女神 タイプ:アクア】
『属性型の魔装女神!?』
『属性型?』
ピエールが何を言っているのか遥は理解出来なかった。
空野は槍を構え水を足から放ち、その勢いで突進した。
炎に包まれた馬は一撃で仕留められキーは空野の元へと渡った。
『空野さ…』
遥が声を掛けようとすると何処からかピンクのモコモコが飛んできた。
『彼方〜!無事にエンジェルキーを手に入れたんだね〜』
(【彼方】ちゃんっていうんだ。)
『よ、【ドーラ】久し振りだな』
ピエールはピンクのモコモコに話し掛けるとピンクのモコモコはピエールの元へと猛スピードで近づいてきた。
『会いたかったよー!ま…じゃなくてピエール〜』
ドーラはピエールに抱きついたがピエールはドーラを引き剥がした。
『そんなにくっつくな!』
『行くよドーラ』
彼方はその場を去ろうとする。
『待って彼方ちゃん!』
遥が呼び止めようとするが彼方は振り向きもせず去って行ってしまった。
『それじゃ待たねピエール』
そう言ってドーラは彼方を追いかけていった。
『彼方ちゃん…』
遥は寂しそうな顔で彼方の去っていった方向を見つめていた。