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放課後の魔少女——楽園は次の角に  作者: 結城コウ
第二章「偶像と背中の煤けたその相棒」Des Idols rußig rückige Schwester.
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2-終

 詩都香がこの一週間のことを思い返していると、

「帰るよ、エマ!」

 戦闘態勢を解いたノエシスがひと声叫んだ。

 その場にいる全員が魔法で感覚を向上させている。魅咲と伽那が動きを止めて顔を見合わせ、その隙にノエマが飛翔した。

 姉の隣に降り立ったノエマは、相変わらずの無愛想さで詩都香をひと睨みしてから口を開いた。

「少しヒヤヒヤしましたよ、姉さん」

 それを聞いて、ノエシスががっかりと肩を落とす。

「あたしってほんとに信用ないのな」

「これに懲りて今までの言動を反省してください」

 そう言うノエマは、体のあちこちをさすっている。痩せ我慢なのか痛そうな素振りこそ見せないものの、魅咲の打撃をいくつかもらったようだ。

 そこへ、魅咲と伽那がやって来た。

 二人ともダメージこそ見えないが、肩で息をしている。

 二対一でも容易には勝てない相手——それがこの年下の双子魔術師なのだ、と詩都香もあらためて認識する。

 いつか彼女たちとも真の意味での死闘を演じなければならないのだろうか。

「だって姉さんがなかなか〈魔法剣ツァウバーシュヴェルト〉を収めないものですから」

 詩都香の想いをよそに、ノエマはノエシスにぶちぶちと文句をこぼしていた。

「仕方ないじゃない。なんか詩都香ってば、前より少しマシになってるんだもん」

 打ちのめされた気分だった詩都香は、お、と眉を動かした。

 嬉しいこと言ってくれるじゃない。

 ノエシスは今まで会ったことのある魔術師の中で二番目に強い。戦った相手としては間違いなく一番だ。「少しマシになった」——そんな上から見たような言葉でも、いくらか救われる心地がする。

 ノエシスがそこで詩都香たちに向き直った。

「でも、こんな運頼みみたいなやり方、詩都香らしくないね。あんたの持ち味は剣を振り回すことじゃないでしょ」

 と、今度は冷水を浴びせられる詩都香。

 たしかに詩都香の役割はこの三人——〈放課後の魔少女〉の司令塔だ。特にゼーレンブルン姉妹のように実力的に上の相手には、正攻法で勝とうとしてはならないはずだった。

 百も承知している。

 だが——

「ううん」だが、詩都香はかぶりを振った。「わたしだって、やるときはやる。いつまでも弱いままじゃいられない」

 ほお、とノエシスは相好を崩した。

「それなら、次は一対一でも楽しませてくれるってわけ?」

「すぐには無理かもしれないけど、近い内にその余裕、消しとばしてあげるわ」

 それを聞いたノエシスは、大きく頷いてみせた。

「よし、それなら少し待ってあげる。——んじゃ帰ろうか、エマ」

「はい、姉さん」

 ノエシスが地を蹴って軽やかに飛び、ノエマがその後に続いた。

 それを見送っていた詩都香に、傍から声がかかった。

「うちらも帰ろうか。反省会しなきゃね」

 魅咲である。

 その表情は少しばかり硬い。魅咲も、伽那と協力しての二対一でノエマを退けられなかったことに、思うところがあるのだろう。

 アポートした箒を掴んで飛ぶ体勢に入りながら、詩都香は背後の魅咲に小声で尋ねた。

「あれ使わなかったのね?」

「だって詩都香が使うなって」

「ん、正解。まだダメ」

 魅咲が後ろから詩都香の下腹に両腕を巡らせてから、詩都香は箒を上昇させた。

「なぁに? 二人して何の話?」

 同じく飛び立って隣に並んだ伽那が、ひとりのんきに訊いてきた。

「何でもない」

 とそれに応じてから、詩都香は箒を前に進めた。

 先日手に入れたばかりのこの箒は、以前所有していたものに比べると、性能が高い分魔力も余計に使う。戦闘で消耗した後だと負担も大きい。おまけに今夜は二人乗りである。

 それでも、山を下りるまでの辛抱、と詩都香はヒリヒリと痛む両手に力を込めた。



 十月四日、金曜日、晴れ!

 とうとう詩都香にバレた。

 まーったく。他の学校まで来るなんて、柿沼さんってば強引なんだから。

 ま、隠し通せるとも思っていなかったし、そもそも隠す気もなかったんだけど。

 いつ知られてしまうんだろうってニヤニヤしてたってのが正しいかな。

 これで私たちの関係は第二ステージ。

 第三ステージはきっと、私が詩都香を「知った」ときに始まる。

 さて、どうなるかな。

 コーチの方は、社長が連絡しておいてくれたおかげで問題なし。だから言ったのに、柿沼さん。

 社長はもうすぐアメリカか。たった一週間だけど、ちょっと寂しいし不安。

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