表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

FINAL LOVE

作者: 天使

 中学校の放課後。


 他の生徒は帰宅し、誰も居なくなった教室。


 夕日で橙色に染まる教室で一人ぼんやりとする男子生徒の目線は、黒板の上の丸い時計に向けられる。


 静かな教室で、時間だけが過ぎていく。


「……そろそろかな」



 ◆◆◆



 生徒の向かった先は体育館の教官室。


 ドアをノックして開ける。


「失礼します」


「あら」


 机に向かっていた女性が椅子ごと振り向いた。


 長い黒髪の美人だ。ジャージ姿で体育の教師らしい。


「遠藤君じゃない。まだ残っていたの?」


「あ、はい。帰っても、一人ですから……」


 淋しそうに言った生徒に教師の表情も曇る。


 そうよね。まだ中二なのに一人暮らしなんて……




 生徒は母を病気で亡くし、父は他に女を作って家を出てしまい一人暮らしだった。




 暗い雰囲気になってしまった事に気づいた生徒はハッとする。


「あの、先生は何をしてたんですか?」


「来週の期末テストの問題を作っていたの。遠藤君、調子はどう?」


「あ……」


 問われてうなだれる生徒に教師はくすっと笑う。


「がんばってね」


「はい」



 ◆◆◆

 


 机に向かう教師を生徒は見つめる。


 ……やっぱり気になる。思い切って聞いてみよう。


「あの、先生」


「ん?」


 教師が生徒に顔を向ける。


「せ、先生は……こ、恋人っていますか?」


「え?」


 意外な問いに教師は呆気にとられた。


 生徒は恥ずかしくなって顔が赤くなる。


「どうしてそんなこと聞くの?」


「えっ! あ、い、いるに決まってますよね! すみません、変なこと聞いて」


 赤い顔でうつむく生徒。


「……強いて言うなら、いないわ」


「え!?」


 驚いて生徒が教師を見る。


「いたんだけど、この前フラれちゃったの。彼に他に好きな人ができて」


「え……」


 先生がフラれた?

 

 信じられなくてショックを受ける生徒。



 ◆◆◆



 生徒の回想。



 中学に入った僕は、ずっと一人だった……


 クラスに馴染めなくて、暗い僕はクラスメイトに気味悪がられて


 そんな時――


『あら、綺麗ねー』 


『え?』


 花壇の花に水をあげていると気が紛れた。そんな僕に声をかけてくれたのが大塚先生だった。


『きっと遠藤君のおかげね』


『え、どうして僕の名前』


『知っているわ。いつも花壇にお水をあげてくれているでしょう』


 見てくれていたなんて知らなかった。


 僕はすごく嬉しかった。


 そして二年になった時――


『このクラスの担任になった大塚明美です。よろしくお願いします』


 大塚先生が担任!? 信じられなかった。


 すぐに僕に気づいて笑いかけてくれた。


『同じクラスになれたわね。よろしくね遠藤君』


『はい!』


 本当に、すごく嬉しかった。

   


 ◆◆◆



「先生?」


 すすり泣く教師に生徒が声をかけた。


 教師は涙を拭って生徒に笑いかける。


「やだ、ごめんね。みっともないところ見せて。ちょっと思い出しちゃって」


「先生」


 いたたまれなくなった生徒が立ち上がる。


「僕は、僕は先生が好きです!!」


 唐突な告白に弾かれるように生徒を見る教師。


「僕なら、先生を悲しませるようなことはしません!!」


「え、遠藤君」


「先生!」


 生徒が教師の両肩を掴み顔を近づける。


「や! 遠藤君やめて!」


 抵抗する教師の唇を生徒は強引に奪う。


 平手打ちの音が響いた。


「遠藤君。どうしてこんなこと」


「先生のことが好きだから」


 真っ直ぐ教師を見て生徒が答えた。


 ジンジンとする頬が熱い。


 きっとこうなる事は予測していた。


「ダメよ、こんなこと。私達は教師と生徒なのよ!」


 ああ、その答えも予測していたものだ。


 やっぱり……


「……そうですよね。すみませんでした。先生、さようなら」


 走って出て行く生徒。鞄を置いたままで。


 遠藤君……。え、今さよならって?


 教師がハッとする。



 ◆◆◆



 教師の回想



『先生、また明日!』


『さようなら、遠藤君』


 私がそう言うと遠藤君は嫌な顔をした。


『やめてくださいよ先生。さようならって、もう会えないみたいで嫌いなんです』


 言われてみればそうかもね。


『だからまた明日』


『そうね、また明日』


 それから私達はさようならと挨拶した事はない。



 ◆◆◆



 遠藤君、どうしてさようならなんて。


 居ても立ってもいられず教師は飛び出した。


 校舎へ向かう途中、何気なく屋上を見上げた教師は目を見開く。


 生徒がフェンスを登っていた。


「遠藤君!!」


 まさか、やめて!


 血相を変えて屋上へ急ぐ。



 ◆◆◆



 教師が屋上に辿り着いた時には、生徒の姿はなかった。


 生徒が登っていたフェンスの下に靴だけが揃えて置いてある。


 教師の目から涙が流れる。


 ごめんね、遠藤君……


 教師はフェンスに手をかける。


 あなたを、もう一人にはしないわ……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] けれど、設定は好きです。(私も教師と生徒の話しは書いた事があります。)冒頭の描写が分かりやすく、イメージがすぐに浮かびました。すごく偉そうに書いてしまいすみません。不快な気分にさせたと思いま…
[一言] こんばんは。以前、ですぷりの評価をさせていただきました叶愛夢です。今回は短編の評価をしました。すみません、ちょっと辛口な感想になってしまいますがご了承下さい。私は長編でも短編でも必ずテーマを…
[一言] ナイスバッドエンド!!(?) なんか良いですね こーゆーのは!!
2008/04/03 22:35 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ