二年後、その先の“道”へ
~あらすじ~
魔獣との最終決戦から二年が経過し、王太郎たちは卒業のときを迎えていた。
幼かった少年少女はときを経て成長し、魔王も同じく過去から解放された。
彼らが進む道はまだ続く。これは、“一旦終わる”。それだけの物語。
“原初”との最終決戦から二年が経過し、ときは201Z年。
季節は移り変わり、蕾を名一杯に蓄えた桜の木が一迅の風に靡く。気の早い花が所々で花弁を開かせ桃色が揺れるものの、駆け抜ける風の冷たさはまだ冬のそれだった。
『大和学園高等学校 卒業式』
この別れと旅立ちの季節に、俺は掲げられた看板の横を車椅子を押しながら通過する。
皮肉にも卒業式代表を任された俺たち二人はリハーサルのために朝早く呼び出された。その割にリハーサルは手早く終わり時間を持て余した俺たちの元に、一通の呼び出しがかかったのだ。
「予報では小雨だったみたいだけど、晴れてよかったね」
「俺の日頃の行いのおかげだな」
「ま、そう言うことにしておいてあげましょう」
舗装された道を滑る車椅子に揺られ、紗耶は快晴に笑顔を向けた。
俺たちは穏やかな気候に温もりを感じながら、他愛のない会話を交わした。互いに小言を呟き嫌味を溢し、そして最後は笑い合う。
車椅子の車輪がカラカラと音を立ておよそ十分間歩き続けると俺は脚を止める。
俺の元へ届いた“呼び出し”が指定した場所に到着した。この学園に入学したその日に訪れた、『研究棟』と書かれた看板の前で差出人を探す。
少し辺りを見回すと、差出人の特徴的な白髪が眼に留まった。紗耶も同時に気付いたようで、手を挙げ声をかけたのは紗耶からだった。
「おーい! クロエちゃん、こっち!」
「久しぶりー!」
駆け寄ってきたクロエは紗耶と手を取り合った。この二人は“最終決戦”の後から治療などを通して交流を深め、今や親友と呼び合う仲になっている。
紗耶は制服に身を包み胸ポケットには一輪の造花を挿している。真紅のガーベラを型どった造花は肩まで伸びた紗耶の茶髪に栄え、彼女の快活な笑顔を一層明るく飾っている。
クロエは相変わらず絹のように流麗な白髪を自然に靡かせ風に任せて乱している。服装は童顔に見合わず仕立てられたスーツ姿だが、動作は一つ一つが小動物のような愛らしさを秘める。
俺は再開を喜ぶ二人に華麗にスルーされている。これでは紗耶の秘書扱いなので、わざとらしく大きな咳払いをした。
「んんん゛っ!!」
ちょっと喉を痛めたが、お陰で二人が振り向いた。視線が俺に集まったところで本題を切り出す。
「急に呼び出して、何か用があるんだろ?」
「あぁ、そう! 忘れるところだった。
……はいコレ」
クロエが内ポケットから一包みの封筒を取り出した。差し出された封筒を受け取って、中身が一通の手紙であると分かる。
白い封筒の表と裏を紗耶と確認したが差出人の名も宛名も記されていない。陽光に透かしてみるも、手紙の内容どころか文字も見て取れなかった。
俺と紗耶は首を傾げながら手紙の差出人と内容を考えた。するとクロエが開封を促す。
「開けちゃってよ。社長からの手紙よ」
「ん? 零から? 突然何でまた」
「卒業式祝いとかじゃないの? 実は私も中身は聞かされてないの」
「何じゃそりゃ」
そう言いながら紗耶が封筒を手に取った。
車椅子に乗る紗耶は脚は未だリハビリ中だが、手に関しては以前よりも器用になっていると言っても過言ではない。封筒を左手に持ち、右手には“錬金”されたレターナイフが握られている。
「よい、しょっと!」
紗耶は一息にナイフを走らせ開封した。一糸乱れぬナイフ捌きで直線に切られた開け口から二つ折りにされた手紙を取り出した。
あの零から卒業式のタイミングで送られてきた手紙に胸を踊らせる。零が「卒業おめでとう」を口にする姿など想像できないが、手紙にしたのなら激レアだ。
俺と紗耶はわくわくしながら、祝の品も期待しつつ同時に手紙を覗き込む。
『卒業資格だけとってはよ働け
by雇用主 &その妻』
「……………………」
「…………………………………………」
筆で書かれたメッセージを眼にして、俺と紗耶は固まった。「おめでとう」の「お」の字もない手紙に唖然として、明らかに後から付け加えられた『&その妻』に二度呆れた。
俺たちの表情の変化を眼にしたクロエも続いて手紙に眼を通す。クロエが口にした感想は、何とも言えないものだった。
「…………ま、そんなところだと思った。
あの零が手紙を寄越しただけで天変地異なのよ。えぇそうだわ」
「そうね。わざわざ卒業式の当日に持ってきてくれたんだから、」
「これが零なりのお祝いなのかもな」
俺たち三人は正直にならない零の手紙に、顔を合わせて哄笑を上げた。『&その妻』というメッセージを見過ごしたという点も、オルガとそれなりに上手くやっている証拠だ、ということにしておく。
一頻り声を上げて笑うと、クロエが真剣な面持ちに変わった。
「あぁ、面白い。
……さて、零の手紙は置いといて。私からも一言。
卒業おめでとうございます。
この三年間で皆が過ごした日々は苦悩に満ちたものだったけど、それを乗り越えた皆様に敬意を評します」
「それは“元魔王”として?」
「いいえ。紗耶ちゃんの“友人”としてよ。心からおめでとう」
「ありがとうっ!」
「ありがとう」
思い改まって言われると何だか気恥ずかしい。俺は思わず視線を逸らそうとしたが、クロエの眼差しがそれを許さない。
クロエは真っ直ぐな眼差しで俺と紗耶を交互に見詰め口を開く。
「そして今後は、私たち“D・E・M社”の一員となることを歓迎します」
その一言に俺も紗耶も寡黙に頷く。
二年前に零を社長として立ち上げた“D・E・M社”は、世界中に分布している魔獣に対する唯一の民間企業だ。
二年前に“ホールの魔力の樹”を粉砕した後、世界に漂う空気中の魔力濃度の減少が観測された。しかし世界から魔導や魔術が消えた訳ではなく、魔獣も未だ人類を脅かしている。
そこで“新見 零”“ブレア・レッドウッド”“オルガ・ベロニカ”“クロエ・キャベンディッシュ”の四人を中心に魔獣の制圧を行っており、俺と紗耶は卒業後は“D・E・M社”への入社が決定している。
俺は歴史上クロエと並ぶ「魔獣を人へ戻した」張本人である。そして紗耶は唯一の「魔獣化からの生還者」だ。
俺たちの能力と経験が“DE・・M社”の新事業、すなわち「魔獣の救済」のために一役買って出るのだ。
人が歩む新たな“道”のために、俺たちは力を尽くすことを決めた。クロエは今一度その覚悟を確かめるために脚を運んで来たのだ。
「こちらこそ、やるからには徹底的に全部やる所存だ。遠慮はいらないし、するつもりもないぜ?」
「えぇ。私だって、まだ夢があるんだから!」
俺と紗耶の力強い返答に、クロエ満足そうに頷いた。穏やかな笑みは暖かく、春の陽気のような心地がした。
すると、校内至るところに設置されているスピーカーから放送のチャイムが鳴った。
『朝臣 王太郎くん、宇佐美 紗耶さん、準備のために体育館に集合をお願いしっ――――、って校長先生! えっ? なにをっ――――』
……校内放送は校長先生によって中断した。
支離滅裂な校内放送に言葉を失っていると、放送は唐突に再開される。
『おい馬鹿者共、大事な日に行く先も告げずにエスケープとはいい度胸だ。一つ卒業祝いにあたし直々の“しごき”を送ってやろう……』
耳に染み付いた高慢で冷徹な声に身の毛が弥立つ。あかん、これマジのやつや。
クロエは他人事だと隣で大爆笑しているが、
『キャベンディッシュ、お前もついでに受けて行くよなぁ?』
「……………………」
クロエはピタリと笑いを止める。怪しげな悪寒と茶目っ気のない危機に冷や汗を流している。
校内放送をジャックした校長は深い深い溜め息を吐いて、穏やかな声で言葉を続ける。
『いいから早く戻ってこい。くれぐれも仕立てた制服を乱すことのないように。いいな?』
プツン――――。
放送は途切れた。
校長先生の最後の言葉に微笑ましさを感じ、俺たち三人はまた笑い合う。
クロエなんて涙を拭ってお腹を擦って笑っているが、跳ねる声のまま俺たちに注意を促した。
「王太郎たちは早く行きなよ。遅れたら本当に何されるか分からないよ」
その指摘に俺と紗耶は顔を合わせる。それもそうだと頷いてクロエに向き直る。
「ありがとうクロエ」
「それじゃあ、行ってきます」
「えぇ、また写真見せてね」
手を振ってクロエと別れた。
俺は紗耶の車椅子を押して先を急ぐが、紗耶は車椅子から身を乗り出して後方へ手を振り続ける。俺は振り返ることはしなかったが、クロエがずっと手を振っていることは分かった。
クロエも紗耶も、互いの姿が見えなくなるまで手を振り続けた。紗耶の動きが止まってから俺は脚を止め、遠く後ろの空を眺める。
「ありがとう――――」
踵を返し、学友の集う体育館へと急いだ。
アメリカ・グランドキャニオンに登っていた三人は、夜天に瞬く星を仰ぎ見ていた。一仕事を終えた“D・E・M社”の三人は、言葉もなく星座をなぞりまだ知らぬ星を探していた。
人工の光のない自然の真ん中で、月の光に照らされた銀髪がふわりと靡く。紅玉のような瞳をした美女は懐の携帯電話の振動に気付き、着信履歴からメールを開いた。
「おいオルガ、電光なんて風情がねーぞ。さっさと仕舞って星でも見とけ」
「も、申し訳ありません零様。お姉様からのメールでして……」
零に諌めされたオルガはそそくさと携帯電話をポケットに捩じ込む。メールの内容を確認したオルガは携帯電話を仕舞った後も、内容について嬉々として零に語った。
「お姉様とアイリスは本日はイグアスの滝へ行ったみたいですわ。何でもアイリスの強い要望とかで、『このまま世界三大瀑布をコンプリートする!』何て気概だそうで」
「それは楽しそうだね。僕も有給取って同行しようかな」
「ほざけ認めるか。おめーは休みなしで俺の代わりにビシバシ働け」
「うーむ……。やはり入る会社を間違えたかな?」
ブレアの小粋なジョークに零は小石を投げて返した。「黙れ」という意味を込めて投げた石を受け取ると、ブレアは閉口して名のない星の捜索に戻った。
再び沈黙の星空観賞が始まったが、ブレアがおもむろに口を開く。
「今頃彼らの卒業式だろ? 僕はともかく、二人は行かなくてよかったのかい?」
「はっ。二年前に卒業扱いになった俺らがどの面提げて行くんだよ。卒業式だけ幅利かせるOBOGほどだせーモンはねーよ」
零は鼻で笑って一蹴した。
零とオルガは二年前まで特例で学園の生徒だったが、最終決戦後に卒業扱いとなった。元々「監視」と「警戒」を目的とした在籍だったため、当面の危険が去ったことが主な理由だ。
他の理由としては、零が“D・E・M社”の社長に就任したため難しくなった扱いを、“特別卒業生”としてごり押して清算された。これは新校長の行った荒業であり、「貴様は貴様のやることがあるだろう」という檄とともに静かに送り出された。
遠い日の特別な思い出に浸り、オルガは一瞬寂しそうな気持ちになる。“魔王”だった自分を“友人”として受け入れ、変えてくれた者たちの巣立ちを見送れないのは薄情な気がして胸が締め付けられる。
しかし、オルガにはそれ以上に果たすべき責務があった。オルガはムンッと手を握り、ブレアの言葉に返答する。
「わたくしだって先輩の意地がありますの。出来る女の何たるかを示すのです。
それに、彼らの入社時期、わたくしは社にはいませんから……」
「ん? 待て、それは一体どういうことだ?」
オルガの不穏な一言にブレアが立ち上がった。ブレアは聞いたことのない発言に眉をひそめ静かに詰め寄る。
一方の零は「しまった」と言わんばかりの舌打ちをして頭を抱えた。
ブレアはそのリアクションから、零は承知のことなのだと察する。
観念したオルガはどこか沸き立つ顔で嬉しそうに真実を告げる。
「わたくし、産休、とりますの」
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?」
ブレアが珍しく間抜けな返事をした。未だ嗜好が追い付いていない。
対するオルガは恥ずかしそうに頬を赤く染め、両手で顔を隠している。顔を覆う指の間から零に熱烈か視線を飛ばし、ブレアはようやく現実へ帰ってきた。
「ま、まさか……」
ブレアは未だ信じていない。疑念の瞳で零を見詰め、これは夢なのではないかと考えている。
「だからさっきいったろ。『ブレアは休みなし』だって」
不貞腐れた零は言い訳のようにブレアへ言葉を投げ掛ける。そしてキャハと紅潮しているオルガの肩へ手を回すと、そのまま身体へ抱き寄せた。
「ま……、そーゆーこった」
過去一番のブレアの驚嘆は爆音のように響き、グランドキャニオンからアリゾナの端まで轟いた。
午前十時から開会した『大和学園高等学校 第一期生』卒業生で、俺たちのクラスの担任は終始涙で顔を濡らしていた。
俺たちの担任、香月先生は二年前に二騎先生から担任を引き継ぎ、今日までその務めを果たしてくれた。
だから我ら一組の生徒は考えた。
「急遽担任を任された香月先生を感涙で無茶苦茶にしてやろう」と。
そうとなれば話は早い。我らの団結力を持ってして、式の前に一人一言ずつ感謝の言葉を伝える運びとなった。
一番乗り気だった七海が率先して香月先生に言葉を送る。七海の一生懸命で嘘偽りのないメッセージで、香月先生は泣き崩れた。
一人目で号泣とは思ってなく戸惑った俺たちだったが、もちろん終わりはしなかった。怒濤の「感動の言葉×30」を受けた香月先生は一組の先頭を行く入場からもう駄目ダメだった。
そんな香月先生の涙に釣られ七海も涙を浮かべると、連鎖は始まる。
かくして(一組だけが異常なほどに)涙涙の卒業式が始まった。
俺はこういうときは別に泣いたりはしないので、一組の異常な感動は俯瞰して見れた。「泣かない俺カッコイイ」とかじゃなく、泣くよりも胸に押し迫る感動に浸りたい派なのだ。
だから隣の車椅子に座る紗耶がハンカチで涙を拭う姿を横目で見ていた。
俺の視線に気が付いた紗耶は、咄嗟にハンカチを俺に差し出してくる。だから泣いてねぇって。
一組の感涙の波紋は式が進むにつれ他クラスでも伝播し、教員たちが涙を啜る音も聞こえ始める。
まさかまさかの感動の卒業式も行程が進み、残すは校長の言葉のみとなった。
『それでは校長先生、壇上にお願いします』
司会が定型文を読み上げると、今まで寡黙に座してきた校長が腰を揚げる。
日本刀のような反り上がった背筋に切れ長な睫毛、筋の通った鼻に光を吸い込む純黒の長髪を靡かせた校長が、マイクの前で脚を止める。鋭い吊り目で辺りを見回し、俺と眼が合うととてつもない眼光で睨まれた。
(入学式とデジャブるなぁ、二騎校長)
俺はおっかない元担任に目礼をする。目礼を受けた二騎校長は男前に着こなすスーツの襟を正し、視線を会場全体へ向けた。
『えー、諸君。先ずは卒業おめでとう』
マイクから三十センチは離れているにも関わらず、二騎校長は凛とした声音を会場全体に響かせる。
怒号が戦場の爆音より響く人だ。この程度は本人にとって“囁き”なのかもしれな
ギリィッ!
おっかない。
俺は無駄な思考を止め、とりあえず目礼目礼……。
『えー、知っての通りあたしは成り行きで校長になっただけで、それらしい言葉など言うような柄じゃない』
壇上で注目を一身に浴びる二騎校長は淡々と話を始める。しかし一方で、教員席からどよめきが上がった。
あぁ、この人アドリブだ。
二騎先生を知る全員が悟った。先生は最後まで“一人の師”として、俺たちと向き合うのだと。
『君らの三年間は確かに存在し、あたしが長々と締め括るなど不粋もいいところだろう。君らの積み重ねは、君ら自身が大切にするといい。
だから一言だけ、あたしの“最初の生徒達”に送らせてもらう』
声のトーンが下がった。体育館中に木霊する静謐な声と凛とした語調、聞く者を惹き付ける揚々に、会場の全員が聞き入っていた。
それぞれが次の言葉を待ちわびる。
まだかまだか、何を言うのか。
二騎先生が息を吸う音にすら聞き耳を立てる。
刹那、二騎先生はマイクを手で払い退けた。勢いでコードが抜けたマイクが、耳障りなハウリングを起こす。
と同時だった。
「進めよ少年少女! 戻りたくなったらいつでもあたしの元へこい! しごいてやる!!」
そして一礼。顔を上げると視線がぶつかり、うっすらと充血しているかのように見えた。二騎先生は瞬く間に踵を返し降壇。
次の瞬間拍手が爆発した。体育館の中で反響する拍手は勢いを増し、鳴り止むことを知らない。
万雷の喝采の中、式は閉幕となり卒業生の退場が行われる。
未だ延々と続く拍手に見送られ退場した俺たちは、その脚でもう一人の友の元へ向かう。
海を望む岬の横、灯台と隣接するように敷設された共同墓地に俺たち五人の学生と香月先生は揃っていた。俺たちが墓地の入り口で待っていると、所用を抜け出した二騎先生が歩いて来るのが見えた。
元担任とも合流すると、向かうは一つの仏墓。
『篠崎家之墓』
篠崎 颯介、ここに眠る。
六人で手を合わせ、無事に卒業したことを報告する。
各々が口々に颯介に報告を行う。
「俺は七海と消防士官学校に行くことにしたよ。将来は魔術を駆使した“魔導消防官”ってやつになる」
「うん。昴くんと一緒に消防官になるよ。大丈夫! 二騎先生の訓練を耐えたんだもの、士官学校なんて余裕!」
七海が無邪気なポニーテールを揺らしピースサインをした。小生意気な言葉に眼を光らせた二騎先生が、逞しい手で七海の頭を乱暴に撫で回す。
「私は魔導の研究者になるわ。そのためには大学で魔導を専攻して、いつかは“D・E・M社”で……、あ、“D・E・M社”って言うのはね――――」
「要は「賢くなる」ってことだろ。難しく考えすぎなんだよ」
「うっさい太郎……。けど、そうね。私は「凄く賢くなる」わ!」
恵梨香め……。卒業式の日まで俺に反抗してきやがって……。
定型文で「チビ」と言ってやりたがったが、生憎恵梨香の身長はとても伸びてしまった。モデル顔負けのスタイルに長い手足、もはや詰れるスタイルではない。
そして俺と紗耶の番が回ってくる。二人で手を合わし、思い思いの言葉を探る。
「俺と紗耶は「世界で誰も成功していないこと」に挑戦するよ」
「だから、見守っていてね」
手が額に着くほどに深く祈りを捧げる。
二人の先生たちも言葉はなくとも思いは同じだ。一緒に卒業することができなかった颯介の冥福と同時に、積もり積もった思いを吐露する。
「ありがとう」
最後に俺の口から自然と溢れた言葉だ。
三年前、“大和魔導学園”に入学してから始まった怒濤の時間も、次のステージへ進むときが来た。
“諦める”ことで進んできた俺が、“諦めたくない”と誓った大切な紗耶。
世界に挑む覚悟も、未知なる道を恐れぬことも、全ては俺一人ではできなかった。
俺を支え、ときには叱咤してくれた人への「ありがとう」――――。
そして俺を変えてくれた魔導と魔獣と、魔術と、紗耶と、友と、先生と、零と、魔王と……、――――エトセトラへ。




