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ガラクタ道中拾い旅  作者: 宗谷 圭
第4章 民族を識る民族(ヒトヲシルモノ)
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第10話 心の内を拾う 4

 ぼすんとベッドに倒れ込み、ヨシは深い溜息をついた。こんなに疲れた事が未だかつてあっただろうか、と記憶を巡らせてみるが、類似した記憶は見当たらない。

 仕事を失ってしまった。それも、突然。家はあるし、今までの働きで貯めてきたお金があるのですぐに食うに困るという事はないが、それでも不安である事にかわりはない。しかも、仕事を失った原因は店での騒ぎだ。この話が噂として伝われば、自分はこのヘルブ街で仕事を得る事ができなくなってしまう。それが怖い。

「……違う。そうじゃない」

 そう、ヨシは呟いた。疲れているのは、不安になっているのは、怖いと感じたのは、仕事を失ったからじゃない。

「あんなに嫌わなくても良いじゃないの……」

 再び、ヨシは呟いた。帽子の男が言った言葉。「バトラス族は野蛮」「バトラス族はまともな感覚を持っていない」といった言葉が、思った以上にこたえている。

「何だかんだ言っても私、バトラス族なのねぇ……」

 苦笑しながら、呟いた。まさかバトラス族を……バトラス族の戦い方を悪く言われる事で、自分がこんなにショックを受けるなんて思ってもいなかった。飛び出す前はあんなにバトラス族の訓練を嫌い、文句を言ってばかりいたというのに。

 やがてショックの波が収まってくると、今度は無性に腹が立ってきた。ベッドの上に座り直し、枕をぼすんぼすんと殴りながら一人愚痴をこぼしてみる。

「よくよく考えたらあのフォーク、帽子の人から一メートル以上離れた処に刺さってたじゃないの。あれで怒るなんて肝が小さ過ぎるんじゃないの? って言うか、絶対言いがかりだわ、あれ。私があいつらの密談を聞いたと思い込んで、密告とかされないようにヘルブ街から追い出そうと思ったのよ、きっと。ヘルブ街で仕事ができなくなったら、私は街を出ていかざるをえないもの」

 口に出したら、更に頭にきたのだろうか。枕を殴るスピードは段々速くなっていく。

「って言うか、まともな感覚って何? 何をもってしてまともとか言うの? 自分達はまともだっていう保証はあるの? 占い師に振り回されて宝探しとか始めちゃうような王様が治めてる街に平気な顔して住んでるのはまともって言えるの?」

 そこまで言葉にしたところで、ヨシはハッとして枕を殴るのをやめた。そして、今日酒場で客に言われた言葉を思い出す。

「ヨシちゃんは探しに行かないのかい? 宝物探しの冒険の旅とか好きそうに見えるけどな」

 あの時は働いているのが楽しいから、酒場で仕事をしている方が良いと言った。だが、その仕事はつい先ほど失ってしまった。

「宝探しか……」

 そう呟き、ヨシは再びベッドの上に寝転がった。寝転がったまま、何事かを考えながら天井を睨む。少しだけ目頭が熱くなり、天井が歪んで見えた。

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