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ガラクタ道中拾い旅  作者: 宗谷 圭
第4章 民族を識る民族(ヒトヲシルモノ)
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第8話  心の内を拾う 2

 今から一ヶ月ほど前の事だ。ヘルブ街を直轄領としているヘルブ国の王が住まう城に、一人の占い師が姿を現した。

 噂によるとその占い師は王城常駐ではないが、代々王族に仕えてきた占い師一族の出身で、王の信頼も悪くはないらしい。

 その占い師に、王は国の行く末を占わせたのだという。何故いきなり王がそれを占わせようと思ったのかはわからない。恐らくは、何か夢を見たか、体調を崩すかして急に不安になったのだろう。王には、後継ぎとなるべき子がいないからだ。

 どんな方法で占ったのかまでは街までは伝わってこなかった。だが、占い師が王に何と言ったのかは今では知らない者はいない。

「ヘルブの民が拾い集めた宝をよくよく検分すれば、国の行末は安泰である」

 そう言って、占い師は王城を去っていった。より強い占いの能力を手に入れる為の旅に出たという事らしいが、実際のところはわからない。

 そして、その時から王城内では占い師の言葉をどう解釈するかという議論が絶えず行われるようになったという。

 曰く、ヘルブの民とはヘルブ街に住んでいて、尚且つ王族と同じヘルブ族の血を引いている者である。

 曰く、ヘルブの民とは民族を問わずヘルブ王族の直轄領であるヘルブ街に住んでいる者の事である。

 曰く、ヘルブの民とは街を問わずヘルブ族の血をひく者の事である。

 曰く、ヘルブの民とは民族・街を問わず、ヘルブ国民の事である。

 曰く、拾い集めた宝とは、ヘルブの民が今までに拾った物である。

 曰く、拾い集めた宝とは、ヘルブの民が将来拾う物である。

 曰く、宝とは今後この国がどうするべきかが記された予言の書である。

 曰く、宝とは王が不老不死となり、後継者が不要となる薬である。

 曰く、宝とはどんな病――お后の病を治し、再び子を産める身体としてくれる薬である。

 曰く、宝とは十五年以上前に死亡してしまった王子を生き返らせてくれる魔法の宝珠である。

 この根拠の無い空論の中のうち、何が王の背を押したのかはわからない。わからないが、王はお触れを出したのだ。

「ヘルブ街の住人で手隙の者は、宝を集めに行くように。旅の途中でこれぞ宝と言える物を拾い献上した者には褒美を与える」

 あまりに範囲が広過ぎると混乱を招くと考えたのだろう。王はとりあえず、ヘルブの民を「ヘルブ街の住人」と限定し、拾い物も将来的な物に絞り込んだ。

 だが、それでも「宝」という曖昧且つそこらに落ちているとは思えない物を拾って来いという話には無茶があったらしく、お触れが出てから一ヶ月経った今でも献上に行った者はいないらしい。

 それでも、占い師の言葉に期限が無かった事から、未だにこのお触れは撤回されていない。こんな馬鹿馬鹿しいお触れを撤回しないのだから、それだけ王も必死なのだろう、と街の住人達は噂しあった。

 それに関しては、同情せざるを得ないと住人達は思っている。

 現在のヘルブ国の王、トトファ=ヘルブは、十五年以上昔に王子を喪っている。突然の病で、医者にも手の施しようがなかったとの事だ。そして、王の后は最愛の息子を喪ったショックで病気がちとなり、子どもを産めぬ身体となってしまったのだという。

 王の唯一の子であった王子がいなくなり、ヘルブ国は王の後継者を失った。そして后が新しく子を産む可能性も無いとなった時、不穏な影は姿を現した。

 我こそは次代の王たらんという王族の者、彼らの後見役として更なる繁栄を狙う者、そして若い娘を王の新たな妃として城に送り込もうとする者。様々な野心が王城に蔓延り始めたのだ。

 そんな者達に任せて、国の将来が大丈夫である筈が無い。そして、野心を持つ者達がひしめき合う王城で暮らしていては、心休まる時も無いだろう。だからこそ、王は必死なのだ。

 それがわかっているからこそ、ヘルブ街の住人達はこのお触れを多少迷惑と思いつつも誰一人として文句は言わない。

 王が占いに振りまわされている姿に不安を覚えなくはないが、税が重くなるわけではないし、不要な労働が増えたわけでもない。普段は民の事を第一に考えたまともな政策を実行する王なので、たまにこういう馬鹿げたお触れを出してしまっても大目に見れる。

 それに、次代の王が先に述べた野心家達の誰かになってしまったら、下々の者はお先真っ暗だ。

 それがわかっているからこそ、誰も何も言わない。誰も何も、言えなかった。

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