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ガラクタ道中拾い旅  作者: 宗谷 圭
第4章 民族を識る民族(ヒトヲシルモノ)
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第5話  素性を拾う 3

「ここは……?」

 ショホンに案内されて辿り着いたのは、一つのテントだった。淡い色を用いた丸みのあるデザインで、他のテントと比べるとやや優しい雰囲気を纏っている。ショホンに目で促され、ワクァはソッとそのテントに足を踏み入れた。

「しんにゅーしゃはっけん! そーいん、はいちにつけーっ!」

 途端に、耳を劈くような歓声が聞こえてくる。それと同時に、小さな子ども達が一斉にワクァに飛び掛かってきた。もっとも、手に持っている武器は藁を束ねただけの殆ど危険性の無い物だったが。

「!?」

 突然の展開に、ワクァは思わず子ども達の攻撃から身を守るように腕を正面に回した。すると、子ども達はそんな事はお構い無しと言わんばかりにワクァの足に体当たりを食らわせてくる。

「うわっ!?」

 バランスを崩し、ワクァは子ども達諸共後へと倒れ込んだ。因みに、相手が大人だったらこうはいかない。飛び掛かった瞬間にリラの鞘先を鳩尾にめり込ませられ、嘔吐の後失神して終了だろう。

 何が何だかわからずにワクァが目をぱちくりとさせていると、ショホンが申し訳なさそうに手を差し伸べてくる。ワクァを援け起こしながら、ショホンは言った。

「説明が遅れてしまい申し訳ありません。ここは大人達が畑仕事や狩りで日中留守にしている間、子ども達の世話をする託児テントです。子ども達はここで共に遊び、食べ、学び、大人達が帰ってくるのを待っているのです」

「ぞくちょー、このおにーちゃん、だれ?」

「えー、おにーちゃんじゃなくて、おねーちゃんじゃないの?」

「ちがうよ。かみのけがみじかいから、おにーちゃんだよ!」

「そっかー。きれーなおにーちゃんだねー」

「ねー」

 わらわらと群がってくる子ども達にショホンは優しく笑いかける。そして、穏やかな声で彼は子ども達に言った。

「お客さんだよ。ワクァさんというんだ」

「おきゃくさん? なにしにきたの?」

「ひょっとしたら、みんなと遊ぶ為に来てくれたのかもしれないよ?」

「なっ!?」

 思わぬショホンの言葉に、ワクァは目を丸くしてショホンを見た。だが、そんなワクァの反応なぞお構いなし。子ども達は目を輝かせた。

「おにーちゃん、あそんでくれるの?」

「じゃあ、こっちきて! ぼくのたからもの、みせてあげる!」

「えー。それよりも、こっちでかずあそびしようよー!」

 口々に言い、子ども達はワクァをテントの奥へと引っ張り込んでいく。

「おい、ちょっと……!」

 慌てて子ども達を制止しようとするワクァに、ショホンが囁くように言った。

「すみません、子どもと遊ぶのは苦手かもしれませんが……少しだけ、この子達と遊んであげて下さい。ほんの少しの間だけ、ウルハ族の子どもとして……」

「え……」

「おにーちゃん、なにしてんのー?」

「はやくー!」

 ショホンの言葉に戸惑うワクァを、子ども達が急かす。そしておもちゃ箱をひっくり返しておもちゃを取り出し、一緒に遊ぼうとせがんでくる。ウルハ族特有の物であるらしいおもちゃの使い方がわからずワクァが眉根を寄せていると、子ども達は得意顔になってその使い方を教えてくれた。

 何となくおもちゃの使い方を呑み込んできて子ども達の言っている事がわかるようになってきた頃に、子ども達の世話係であるらしい女性が菓子類を運んできた。「おやつよ」という声に、子ども達はおもちゃを放り出し、歓声をあげて駆け寄っていく。何人かの子どもが、ワクァにもお菓子と飲み物を持ってきた。木の実をすり潰して砂糖を混ぜ込み焼いたらしい焼菓子と、何かの乳を発酵させて蜜か何かを加えたらしい飲み物だ。一人につき焼菓子三つと、子どもの手にすっぽりと収まる小さな容器に七分目ぐらいまで注がれた飲み物。そんなささやかなおやつを全員が腹に納めたのを見届けると、女性はにこにこと笑いながら言った。

「さぁ、おやつを食べたらお昼寝の時間よ。みんな遊んでないで、寝る準備をしなさいね~」

 明るい声に、子ども達は更に明るい声で「は~い!」と返事をする。子ども達が寝るなら、これで自分と遊ぶのは終わりだろう。そう思ったワクァは、テントを出る為に立ち上がろうとした。その時だ。

 ポスッという音と共に、ワクァの膝に小さな毛布が載せられた。毛布を載せたその子どもをワクァが訝しげに見ていると、子どもは「えへへ」と照れ笑いをしながら言う。

「ワクァにーちゃん、もうふないでしょ? ぼくのはんぶんかしてあげるから、いっしょにねよ?」

 そう言いながら、その子は既にもぞもぞと半分だけの毛布に潜り込んでいる。どう扱うべきかとワクァが思案しているうちに、目敏くそれを見付けた他の子ども達も群れ集ってきた。

「あー、ずるいー!」

「にーちゃん、ぼくももうふはんぶんかしてあげる! だから、ぼくもいっしょにねていい?」

「わたしも! わたしもいっしょにねるー!」

 断る間も無く、子ども達は次々に自分達の毛布を半分だけワクァにかけ、残る半分に潜り込んでいく。その様子を、女性とショホンが微笑ましそうに眺めている。

 正直、恥ずかしくて顔から火が出そうだ。だが、ここまで群がられてしまうと動くに動けない。観念したのか、ワクァはそのままごろりと仰向けになった。布団がわりに敷き詰められている藁の香りが鼻にくすぐったい。そして、くっついている子ども達が毛布以上に熱い。季節は秋に移り掛けているとはいえ、昼日中はまだまだ暑い。だが、それでも不思議な事に藁の匂いと子ども達の体温に包まれているうちにだんだん眠くなってきた。

 そのタイミングを見計らったように、女性が言う。

「それじゃあ、ゆっくりおやすみなさいね。いつものように、歌を歌ってあげるから」

 そう言って、女性は歌を紡ぎ出した。穏やかで優しい声が、ゆったりとしたテンポを奏でていく。

 

 子どもは小さな旅人と

 昔の人は言いました

 夢という名の未知の世界

 見えない翼で駆け巡る

 

 可愛い子には旅をさせよと

 昔の人は言いました

 辛い道のり乗り越えて

 心が大きく強くなる

 

 おやすみなさい夢の旅人

 旅があなたを待っている

 旅の間は寂しいけれど

 しばらくあなたとお別れね

 

「あ……」

 あの歌だ。夢の中で母親が歌っていた、あの子守歌だ。そう呟きそうになったが、眠りに落ちかかった頭の所為か、言葉が口から出てこない。そして、歌を最後まで聴こうとしたが、やはり眠りに誘う力の方が強かったのか……。歌を最後まで聴く事無く、ワクァは眠りへと落ちた。

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