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ガラクタ道中拾い旅  作者: 宗谷 圭
第1章 双人の旅人(フタリノタビビト)
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第6話  命を拾う 3

 そこは、既に戦場だった。

 山賊の手下達は短剣を振るい、ヨシもまたこの部屋にあったのであろう短剣を振るっている。

 ただし、ヨシは二刀流だ。二本の短剣をまるで綾取りでもするかのように流麗に操り、手下達の剣を尽く受け流していく。その度に、キィン! カァン! と高い音がした。そして、剣を振るっているかと思えば相手の隙を見つけ、鳩尾や人中など人的急所を強打する。首を手刀で強打され、泡を吹きながら倒れる者もいた。

 また、何を思ったのかテーブルの上にあった瓶を手下達に投付ける。

「こんなモノで俺達を倒せると思ってんのかぁっ!?」

 ナメられた事に腹を立てたらしい手下の一人が、瓶を短剣で思い切り叩いた。すると、当然の事ながら瓶は割れる。中から、茶色い粉が大量に飛び出した。

「はっ……!? ハックショイ!? ハックショイ!?」

 途端に、手下達をクシャミが襲う。大勢の男達が揃ってクシャミをし続ける様は、阿鼻叫喚の地獄絵図と言った所か……。

「あらあら、駄目よ~胡椒の瓶を壊したりしたら! こんな風になっちゃうんだから!」

 絶対に狙ってやったのであろう本人は、いつの間にやら首に巻いていたスカーフで鼻と口を覆い隠し、涼しい顔をして言っている。そしてそのまま、すすす……とクシャミで鼻水まみれになっている哀れな男達に近付くと、短剣の柄、そこらにあったマグカップ、その辺に落ちてた臭いそうな靴、エトセトラ……を駆使し、思うが侭に男達に殴打を加えていく。

 人中、頚椎、鳩尾、果ては股間まで…容赦とか手加減という言葉をまるで知らないかのように殴り続け……いや、戦い続けている。はっきり言って、見てる方が痛い。

 しかし、これだけで片付けられるほど山賊達は少なくない。段々空気中から胡椒も引いてきた。

 それを確認すると、ヨシは再び逃げの体勢を取る。脱兎の如く駆け出し、部屋を出る。出る際に跳躍したように見えたのは気の所為だろうか?

 そして、そんな事には気付かずに追いかける山賊の手下達。

「待ちやがれ小娘っ!!」

「ナメた真似しやがって! 生きて帰れると思うなよ!!」

 手下達は次々に罵声をヨシに浴びせ、ヨシを追って入口に殺到する。

 そして


 ビン! ドサァッ!!


 最初の一人が、盛大に転んだ。

 目を凝らしてよく見れば、出入り口の地面に限り無く近い場所には、糸が仕掛けてあった。恐らく、山賊達が物置に入っていった後に仕掛けたのであろう。糸は少し太めだが、これだけ下の方では中々気付けない。オマケに、ピン! と張られていて全く緩みが無い。何も知らなければ、まず間違い無く引っ掛かり転ぶだろう。その証拠に、先頭を走っていた山賊が引っ掛かって転んだ。

 そして、先ほども述べたが、山賊達はヨシを追って入口に殺到している。荷馬車や動物同様、人間だって走り出したら急には止まれない。一人が転べば、後を走っていた者は急に止まれず転んだ者に躓く。それがドミノ式に増えていけば、当然二次災害が起こる。避難の際に「おかしの法則」――押さない、駆けない、喋らない――を重要視するのはこの為だ。

 そして、それは子供でも山賊でも同じ事。一度に何人もの人間が狭い入口に殺到した為、後から来た者達も転んだ者に引っ掛かり、次々と転倒していく。場所が場所なだけに転んだ者達は散らばる事無くどんどん積み重なっていく。一番最初に転んだ者は、ひょっとしたら内臓破裂くらいしているかもしれない。

 そんな中、逃げたと思われていたヨシがくるりと方向転換をし、戻ってきたかと思うと、積み重なっている山賊達の、一番上に乗っている男に角材でガツン! と殴り付けた。当然の事ながら、殴られた男はそのまま失神する。

「おい! どけよ!? おい!? しっかりしろって!?」

 殴られた男の下敷きになっていた男が、焦るような声で呼びかける。しかし、殴られた男は気付かない。気付かないので、当然退けない。下の男は、脱出できない。

 更にその下敷きになってしまっている男達は、既に息苦しさで失神してしまっている。早くどかさないと全員が内臓破裂で死にかねない。

 そんな男達を挟んで、ヨシと山賊の頭は再び対峙した。

「……中々やってくれるじゃねぇか、嬢ちゃん……けど、こっから先はどうするんだ? 仲間のこの美人さんを助けてぇんだろ? この山になった野郎どもをどかさねぇと、こっちへは来れねぇぜ? 来ねぇで、どうやって助ける気なんだ?」

「簡単な事よ。私はこれから、アンタ達を放置して山を降りるわ。それで、役人達に届け出るの。そうすればアンタ達山賊は役人に取り囲まれて袋の鼠。捕まるしかないから、ワクァを助けられるわ。アンタが気絶したこの野郎どもを踏み越えて私を追いかけてきた場合でも、大丈夫。こんな山、ワクァを連れて越えられる筈がないもの。アンタが私を追いかけようとワクァを手放したら、ワクァはその辺に転がってる短剣でも使って縄を切れば良い。それくらいはできるわよね、ワクァ? そうすれば、ワクァはもう自由」

 ヨシはそう言って、一度言葉を切る。そして、からかうように言った。

「私、結構足が速いのよ? アンタが山を越えている間に何十mだって引き離せるわ。だから、アンタが私を捕まえて、通報を阻止するのも無理。結局アンタ達は私にもワクァにも逃げられて、役人に捕まるの。わかり易いでしょ?」

 そう言うが早いか、ヨシは三度くるりと背を向け、外に駆け出した。足音がどんどん遠ざかっていくのを聞いて、頭は一瞬悩む。このままワクァを人質に立て篭もるか、それともあの小娘を追い掛けるか?

 前者の場合、人質は元奴隷だ。役人から見れば、死のうがどうなろうが構わない人物だろう。

 ……と言う事は、ワクァに人質としての価値はあまり無いように思われる。

 そうなると、やはりあの小娘を追う方が重要か……。

 しかし、彼女が言ったように自分が人の山を越えている間にも彼女はどんどん役人の元へ近付いてしまう。追いつくのは、無理だ。ならば……

 頭は、チラとワクァを見た。

「……?」

 ワクァは、頭が何を考えているのか読めず、眉を顰めた。だが、嫌な予感がしたのだろう。瞬時に、体が強張った。そんなワクァの肩を掴むと、頭は怒鳴った。

「どけ! この役立たずども!!」

 怒鳴りながら、積み重なっている手下達を蹴り飛ばした。

「!?」

 ワクァは、頭が何をやっているのか一瞬理解できず、唖然とする。

 そんな事に構う事無く、頭はワクァの肩を強く牽いた。

「……っ……! 何をする!?」

 肩を掴まれた痛みで顔を顰めながら、ワクァが抗議する。しかし、頭はそれに答えない。

「良いから来い!!」

 それだけ怒鳴ると、手下達を踏み付け、ワクァと共に外へ出た。

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