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ガラクタ道中拾い旅  作者: 宗谷 圭
第4章 民族を識る民族(ヒトヲシルモノ)
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第2話  夢の光景を拾う 2

 その日の空は、綺麗な青空だった。雲は殆ど無く、かと言って強力な直射日光が降り注ぐわけでもない。心地良い、夏よりも秋に近い空だ。

 そんな心地良い空の下、ワクァとヨシ、そしてパンダイヌ――パンダのような姿で、犬の顔をした生物。生物学上、イヌ科にもパンダ科にも属さない――のマフは今日もてくてくと歩いている。てくてくと歩きながら、ヨシが言った。

「ワクァ~? 何だか今日、元気無いわね?」

 いつもそこはかとなく不機嫌そう、もしくは表情に乏しい顔で歩いているワクァだが、今日はいつにも増して表情が暗い。

 それを指摘するヨシも、先日何処となく雰囲気がおかしかったのだが、それは何事も無かったかのように顔から消え失せている。

「ひょっとして、怖い夢でも見た? 悪い子にしてなきゃ細切れにして煮込んで食っちまうぞ~! みたいな感じの化け物が出てくる夢とか」

「そんな具体的且つ長い脅し文句を言う化け物がいるか。大体、俺はそんな夢を怖がったりはしない。……と言うか、悪くなるのを奨励してどうするんだ、その化け物……」

 呆れたように淡々とツッコミを入れるその口調にも、いつものような勢いが無い。それが不満なのか、ヨシは更に茶化すように言った。

「あ、ひょっとして化け物よりもこっちの方が怖かったりする? 美人は皆色街に売り飛ばしてやるぞ~! とか」

「洒落にならん事を言うな! と言うか、美人と言うな!!」

 一度色街に売り飛ばされかけた前例があるだけに、ワクァは顔色を変えて怒鳴り付けた。そして、その勢いをより強く演出する為と言わんばかりにザァッと強い風が吹く。

 その風が、微かに音を運んできた。耳を掠めたその音に、ワクァとヨシは思わず風上の方を見る。

「音? ……人の声……か?」

「そうね。……何かしら?」

 微かな音に誘われるように、二人と一匹は風上へ向かって歩き始めた。すると、声は段々と大きく、はっきりと聞こえてくる。やがて人の声ははっきりと言葉と聞き取れるようになり、且つそれがゆるやかなテンポの歌であるらしいという事もわかるほどになった。

 歌は一度途切れたが、暫く間を置いた後にまた最初から歌われる。

 

 子どもは小さな旅人と

 昔の人は言いました

 夢という名の未知の世界

 見えない翼で駆け巡る

 

「……っ!」

 歌の歌詞がはっきりと聞き取れた瞬間、ワクァを何とも言えぬ衝撃が襲った。それと知らぬヨシは、何気なくワクァの顔を見てギョッとする。

「ちょっ……どうしたのよ、ワクァ!? 顔真っ青よ!?」

「この、歌……」

 目を未だかつて無いほど見開き、息を詰まらせながらワクァは何とか声を絞り出した。

「歌? この歌がどうしたってのよ?」

 怪訝な顔をして、ヨシが首を傾げた。だが、その目もすぐに丸く見開かれる事になる。ワクァが、力無く呟いた。

「夢の中で母さんが歌っていた歌だ……」

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