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ガラクタ道中拾い旅  作者: 宗谷 圭
第3章 親友のいる村(トモノイルムラ)
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第14話 戦友を拾う 2

 話は、今から六時間ほど前に遡る。奴隷商人の手先であるらしい男を捕らえたがその仲間に村の子どもの殆どを拉致されたらしいと知った青年達は、捕らえた男を引き連れて一旦村に帰還した。勿論、男に詳しい事情を喋らせ、子ども達を救出する為だ。

 その時、旅人であるワクァと、街に兵として出稼ぎに行っていたトゥモは初めてこの地方で最近頻繁に起こっている事件を知った。

「最近な、この辺の彼方此方の村で子どもが攫われる事件が頻発してたんだよ。どうやら子どもばかりが狙われているらしい事、どいつも村の外で攫われたらしい事がわかったんで、どの村でも子どもだけで村の外に行かないように注意してたんだ」

「今、親父たちが皆いなくなってるのも、他の村の連中と一刻も早く犯人を捕まえる為の話し合いをする為なんだ」

「けど、俺達の村ではまだ一度もガキが攫われた事なんて無かったから、ガキも大人も油断してた……。ガキどもが村の外に出ないよう見張ったりとか、そういう対処をまったくしていなかったんだ。まさか、森で遊んでたガキ全員が攫われるなんて……」

「くそっ……! 親父たちは俺達なら村を守れると信じて出掛けて行ったのに、何てザマだよ!」

 事情を知る青年達は歯噛みして悔しがったが、後の祭りだ。悔やんだところで、子ども達が帰ってくるわけではない。

「なら、一刻も早く子ども達を助けないと! きっとみんな、恐がっているっス!」

 トゥモの言葉に、ワクァも頷いた。

「あぁ。それでなくても、早くした方が良い。仲間が捕まった事がわかれば、奴隷商人の仲間は自分達まで捕まる事を恐れて早々にこの地方から逃亡しようとするだろう。逃げられれば、当然子ども達を救出できる可能性は低くなる」

 それに同意するように、若者達は一斉に立ち上がった。全員が目に奴隷商人達を許さないという怒りを秘め、手に手に各々が得意とする武器を持っている。

「行くぞ!」

 アークが言い、若者達は頷いた。ワクァも頷き足を踏み出し、

「はい、ここでちょっとストップ!」

 突然ヨシに首筋を掴まれて急停止せざるを得なくなった。

「何をするんだ、ヨシ!」

 怒りを抑えながらワクァが抗議をすると、ヨシは溜息をついてかぶりを振りながら言った。

「アンタらねぇ、怒りで頭に血が上っちゃってるんだろうけど……よく考えなさいよ。下っ端なオッサン曰く、奴隷商人は結構な人数なんでしょ? おまけに、何人かは武装までしてる。そんなところにいきなり乗り込んで行くなんて頭が悪過ぎるわ」

「けど! こうしている間にもガキどもは! ……って言うか、誰だ?」

 怒りに任せて叫んでから、アークは訝しげにヨシを凝視した。そう言えば、バタバタしていてアーク達にヨシを紹介していなかった。そう思い至ったワクァは、済まなそうな顔をしながら一歩前に進み出た。

「済まない、俺の連れだ」

「あぁ、あの話に出ていた」

「歯止めの利かない拾い癖があるって言う……」

「行動基準や常識が規格外の……」

 一斉に、若者達は珍しい物を見る目でヨシを眺め始めた。その視線を受けた後、ヨシはジトリとワクァを睨んでくる。

「……ワクァ。一体私の事を何て説明したのよ?」

「……そんな事よりも、今は子ども達をどう救出するか、だ」

 目を逸らしながら言うワクァを相変わらず睨みながらも、ヨシは渋々口を閉じた。ただし、閉じる直前に「あとで覚えておきなさいよ」と呟いているのが聞こえたが。

「確かに、昼日中に行くのは危険かもしれないな。相手に発見されやすいし、そうなれば迎撃態勢を取られてしまうかもしれない」

「そうなると、ガキどもを人質に取られているこっちは不利、ってわけか……」

 ワクァの言葉に、アークが頷いた。

「まずは、相手がどこにキャンプを張っているのかを確認するか。それから、ガキどもがどこに捕まっているかを調べて……」

「ガキどもは、多分誰かが見張ってるんだろうな。逃げられると困るだろうし」

「まずはさ、その見張りを何とかできねぇかな? で、とりあえずガキどもを救出して、俺達は二手に分かれる! 片方はガキどもを連れて村に帰還。もう片方は奴隷商人退治って事で」

 若者達が口々に言い、アークはそれに頷いてから口を開く。

「けど、その見張りに姿を見られたらどうする? 倒す前に大声で仲間を呼ばれたらやっぱりこっちが不利になるぞ?」

 冷静に問うアークに、若者達は「あー……」と困ったように呻いた。

「ワクァが物陰から一瞬で間を詰めて斬り捨てる!」

「あ、それ良い! ワクァ速いし!」

「無茶を言うな。あと、人を暗殺者か何かのように言うのはやめろ」

 本気か冗談か判断しかねる発言に、ワクァは苦り切った顔で抗議した。今この場で冗談を言えるとも思えないので恐らく本気なのだろうが、だとすれば余計に性質が悪い。

「子どもを連れてそんなに遠くまで行けるとは思えねぇし、この辺りには森以外に隠れられるような場所は無ぇ。……となると、奴隷商人はさっきの森ん中でキャンプを張ってる可能性が高いな」

 緩んだ空気を引き締め直すように、アークが言った。ワクァも含めた若者達は再び緊張感を取り戻し、アークの言葉に頷いた。

「まずは、手分けをして森の中を徹底的に調べるぞ。奴らのキャンプか何かを見付けても、絶対に自己判断で動いたりするな。どういった場所にキャンプが張られているのかだけを確認して帰ってこい。夜になったら、全員で闇に紛れてガキどもを助け出す!」

 頷き、若者達は言われる前に自ら動き出した。何かあった時の為だろう。一人で動く者は無く、皆自然に二~三人で組んでいる。ワクァも、トゥモやアークと連れ立って森へと足を向けた。

 その後ろで、ヨシは村の女性達と言葉を交わしている。

「さて。それじゃアタシ達は、野郎どもが討ち入り前に腹ごしらえする為の食事を用意しておこうかねぇ?」

「そうね。あ、おばさん。朝私が採ってきた人面草! あれ入れましょ! あれだけ元気な悲鳴をあげる人面草なら、食べればきっとかなりの力が付くわよ!」

「おや。そんな物を採っていたのかい? 良いよ良いよ。ヨシちゃんは薬草に詳しいみたいだからねぇ。そのヨシちゃんが力が付くって言うんなら、きっと本当に力が付くんだろう?」

 思わず、三人揃って振り返った。

「殺す気か!?」

「母ちゃん! いくら力が付くって言っても、悲鳴をあげる草なんか食べたくないっス!」

「話を創るな! 村人を騙すな! 空気を明るくするにしても他に遣りようは無いのか、ヨシ!?」

 悲鳴やらツッコミやらを叫ぶ男三人に、ヨシはジェスチャーで「早く行け」と言う。数時間後の我が身を案じながら、ワクァ達は今度こそ森へと向かった。

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