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ガラクタ道中拾い旅  作者: 宗谷 圭
第3章 親友のいる村(トモノイルムラ)
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第12話 友情を拾う 7

 見ればそこには、五~六歳の少年を連れ去ろうとしている大柄でいかにも人相の悪い男がいる。少年は軽々と片腕で持ち上げられ、もはやジタバタともがくしかできない状態だ。駆け付けたワクァ達の目に飛び込んできたのは、そのような光景だった。

「キハル!」

 弟の姿を認め、ナツリが叫ぶ。その声に、キハルが反応した。

「兄ちゃん! 助けて!!」

 そう叫びもがくが、男はキハルを更に強く締め上げ、放そうとしない。締められた痛みで、キハルがうめき声をあげた。

「キハル! てめぇ、キハルを放せっ!!」

 ナツリが、怒りを込めて叫ぶ。それと同時にアークがサッと右腕を上げ、合図をした。弓を持たないワクァとトゥモを除く、弓に矢を番えた若者達が一斉に男を取り囲んだ。全ての矢が男を狙っている。だが、矢は一本も放たれない。下手に射れば、キハルに当たるかもしれない。それを恐れているのだ。男も、それを承知しているのだろう。剣を抜き、刃を構えながらジリジリと輪の一端に迫っていく。

「道を空けろ! 可愛い弟に怪我をさせたくなかったらな!」

 男がそう叫んだ瞬間だ。剣を持つ男の右腕に、鋭く斬りかかった者がいる。

「!?」

 男は、慌てて剣で迎え撃った。男に斬りかかったのは、勿論ワクァだ。ワクァは片手でリラを操り、容赦ない猛攻を加えている。男は、それを何とか捌きながら慌てて言う。

「まっ……待て! このガキが目に入らねぇのか!? このガキに怪我させたくなかったら……」

「怪我をさせたくないのはお前も同じだろう。何せ、お前から見ればその子どもは大事な商品なんだからな……」

「商品!? どういう事だよ!?」

「そいつ……ただの人攫いじゃないんスか!?」

 若者達の疑問の声が飛ぶ中、ワクァは一度後に飛び、男との間合いを取った。男は大分消耗したのか、肩で息をしながらワクァの隙を窺っている。しかし、隙など全く見せないまま、ワクァは言う。

「言っちゃ悪いが、決して裕福とは言えないこの村の子どもを攫ったところで身代金はたかが知れている。同じ危険を冒すなら、街の子どもを攫った方がよっぽど現実的だ。それをわざわざ村の子どもを攫おうとするという事は、考えられる事はただ一つ……」

 そこで一度言葉を切り、剣を男に突き付ける。

「こいつは、奴隷商人だ。……いや、ひょっとしたらその手下かもしれないな。こうした役人の目が届きにくい村で幼い子どもを攫い、遠い地に連れて行って富裕層に売りさばく……違うか?」

 言われて、男はチッと舌打ちをした。どうやら、ワクァの推測した通りらしい。

「野郎! キハルを奴隷にするつもりだったのかよ!」

 怒りのあまり、ナツリが顔を真っ赤にして叫んだ。その他の若者達も、顔を怒りで歪ませている。その殺気だった様子に、このままキハルを連れての逃亡は不可能と見て取ったのか、男は突如キハルを宙に放り投げた。キハルの言葉にならない叫びが、辺りに響く。

「! キハル!」

 慌てて、ナツリを初めとする若者達がキハルを受け止めに走る。その隙に、男は逃亡の為の最後の障害となるワクァに斬りかかった。この少年さえ倒してしまえば、もはや自分の逃亡を阻止する者はいない。大丈夫、さっきは片腕にガキを抱えたままだったが、それでも対等に渡り合えた。荷物の無い今なら、こんなヒョロいガキに負けるはずが無い。

 そう考えたのが、男の間違いだった。

 ワクァは、男の剣をリラで受け止めると、冷静に呟いた。

「さっきはキハルがいたから手加減せざるを得なかったが……今度は遠慮しないぞ」

「え……」

 何かを言おうとした瞬間、男は既に宙を舞っていた。見かけだけで弱いと判断したが、ワクァはこの男が思った以上に(はや)い。そして、見かけによらず力が強い。男はそのまま地に倒れこみ、若者達に取り押さえられる。その様子を視認し、ワクァはリラを鞘に納めた。チン、という金属音が微かに響く。

 トゥモが、興奮した様子でワクァに駆け寄ってきた。また、男を取り押さえていた若者のうち何人かも、役目を終えたらしくトゥモに続いた。

「凄いっス! ワクァは本当に強いんスね!」

「すげーな! なぁ、今度俺に剣を教えてくれよ!」

「ばーか。お前に教えてたら、いつまで経ってもワクァが旅に出れなくなるじゃねぇか」

 若者達がわいわいと騒いでいる中、助け出されたキハルは兄のナツリに尋ねた。

「兄ちゃん……みんなは?」

「みんな? あぁ、そう言えば、かくれんぼしてたんだっけか?」

「じゃあ、そいつらも捜さねぇとな。今頃キハルが見付からなくて心配してるかもしれねぇぞ?」

 ナツリとアークが安堵したような笑顔で言うと、キハルはブンブンと首を必死に振った。そして、真剣な面持ちで言う。

「違うよ! みんなも変なおじさんに追いかけられてたんだよ!」

「……何だって……!?」

 アークの顔から、笑みが消えた。その衝撃は、波紋のように若者達に広がっていく。そこへ、他の者に先行して森の中へ他の子ども達を捜しに行っていたらしいアズとスネッチが血相を変えて戻ってきた。怒りと悔しさを綯い交ぜにしたような表情を隠しもせず、二人は言った。

「畜生……やられた!」

「大変だぞ、アーク……森に遊びに来てたガキどもが全員、攫われた……!」

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