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ガラクタ道中拾い旅  作者: 宗谷 圭
第2章 守人の少年(モリビトノショウネン)
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第14話 理由を拾う 2

 街に、元の活気が何事も無かったかのように戻ってきた。街の人間達と笑顔で挨拶を交わしながら、ファルゥはぽつり、と呟いた。

「……ワクァ様に、お礼もお別れも……言う事ができませんでしたわね……」

「そうですね……」

 寂しそうに、シグが頷いた。すると、ファルゥは不安そうに顔を歪めてシグに問う。

「……ひょっとして、わたくしはワクァ様に嫌われていたのでしょうか? 初めてお会いした時も、わたくしと一緒の時のワクァ様は常にご機嫌が悪いようでしたし……」

 寧ろ、機嫌の良い時の方が珍しい。そして、会って早々ファルゥはワクァの事を女と間違えたのだから、ワクァの機嫌が悪かったのもまぁ、仕方が無い。ヨシがこの場にいれば即座にそれだけの言葉をもってファルゥをフォローするのだろうが、生憎この場にはヨシもいない。

 暫くの間、気まずい沈黙が辺りを支配した。だが、それを打ち破るようにシグがおずおずと口を開く。

「……いえ、違います」

「……え?」

 ファルゥは思わず、シグを見た。すると、シグは頭の中で必死に考えをまとめながら、いつに無く懸命に口を動かしている。

「最初に会った時は、確かに嫌われていたのかもしれません。稽古をつけてもらっている時や、お屋敷に侵入する為に準備をしている時……ワクァさんは、ご自身が傭兵奴隷であったから、傭兵奴隷の気持ちがわかると仰っていました。それに、貴族や金持ちが苦手だとも……。だから、傭兵奴隷である僕を連れていたファルゥ様に嫌悪感を抱いたのでしょう……」

 そう言えば、そんなような事を言っていたな、とファルゥは思い出す。そんなファルゥに、シグは言葉を続けた。

「けど、僕がこれまでファルゥ様にして頂いた事を聞いてからは、寧ろ好感を持たれた様子でした。だから……少なくとも、今は嫌われていません。絶対に」

 シグの力強い言葉に、ファルゥはホッと胸を撫で下ろした。そして、少し考えると首を傾げる。

「けど、何故……」

 何故ファルゥ達に顔を合わせる事も無くこの街を去ってしまったのか。納得できない様子のファルゥに、シグは更に言葉を継ぎ足した。

「……多分、ファルゥ様が昔のワクァさんの大切な人に似ているからだと思います」

「ワクァ様の……?」

 ファルゥの言葉に、シグは頷いた。そして、少し照れ臭そうにしながら言う。

「ワクァさんにも、昔、大切な人がいたそうです。命を懸けてでも守りたいと思える人が。……僕にとっての、ファルゥ様のような人が。きっと、その人とファルゥ様が重なったんだと思います。ファルゥ様といると、もう会う事はないだろうその人の事を思い出してしまうから……だから、会わずに去った……違うでしょうか?」

 シグの言葉に、ファルゥは微笑んだ。

「今となっては、わかりませんわね。……ところで、シグ?」

「? 何ですか?」

 ファルゥの呼び掛けに、シグは首を傾げて応えた。すると、ファルゥは姉が弟にクイズの答を尋ねるような顔で問う。

「ヨシ様にご挨拶する時、何故ワクァ様とヨシ様が共に旅をなさっているのかわかったと言っていましたが……何故ですの? お二人とも、さほど仲が良いようには見えませんでしたのに・……」

「……何となく、なんですけどね」

 言葉をにごしながら、シグは言った。

「ワクァさん、ヨシ様と一緒にいる時は何か、楽しそうだったんですよ」

「……楽しそう、ですの?」

 いよいよ不思議な事を聞いたとでも言いたそうな顔で、ファルゥが首を傾げた。それに、シグは頷いて返す。

「はい。……確かに見ただけですと仲が良いようには見えなかったんですけど……お二人の話す様子を見ていると、僕や街の人達と話す時よりもずっと、活き活きとした顔をしていたんですよ。特に、ワクァさんが」

 本人が聞いたら、きっと嫌な顔をしながら否定するに違いない。その様子を思い浮かべて、シグはくすりと苦笑した。そんなシグに、ファルゥは瞳を輝かせながら言う。

「そうでしたの。……凄いですわね、シグ! たった一日……いえ、一晩一緒にいただけで、そこまでワクァ様の心境を読み取るだなんて……並大抵の人間ではできませんわ!」

「そ……そうですか?」

「そうですわよ!」

 照れて頭を掻くシグに、ファルゥは思い切り良く首を縦に振った。そして、それからふと何かに気付いた顔をした。

「あら、そろそろお茶の時間ですわね。シグ、お屋敷に戻りましょう? 今日のお茶は、シグの好きなお菓子ばかりを用意するよう料理長に頼んでありますのよ!」

 そう言いながら、ファルゥの足は早くも屋敷の方へと向かっている。そんな姉兼主人を笑顔で追いながら、ふとシグは街の外を見た。

 空耳だろうか。青い空の下、ワクァの声が聞こえた気がした。

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