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ガラクタ道中拾い旅  作者: 宗谷 圭
第1章 双人の旅人(フタリノタビビト)
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第21話 旅のお供を拾う 2

 今日は、快晴だ。空が青い。そんな空の下、二人が道を特に急ぐ様子も無くほてほてと歩いていると、何か丸い物体が目の前に飛び出してきた。

「!?」

 ワクァは反射的にリラに手をやり、ヨシは興味深げにその物体を見る。

 全長は、五十㎝くらい。白と黒の模様で、毛が生えている。どうやら生き物のようで、もそもそと動いている。意を決して触ってみれば、生温かい……いや、温かい。

 ダンゴムシのように丸まっていて、内側に頭を仕舞い込んでいる。この格好でここまで転がってきたらしく、コロンコロンと揺れている。そして、暫くすると動きが止まり、それはムクリと起き上がった。

 その姿を見て、ワクァとヨシは目を見開く。ただし、ワクァは驚きで、ヨシは興奮で。

 その生き物は、体は完全にパンダだった。熊のような体格で、四肢が黒く胴体は白い。頭も同様に、耳と目の部分だけが黒く、あとは白かった。だが、頭の形がパンダではない。この骨格は如何見ても……犬だ。

 そしてこのパンダのような犬のような……八十%パンダの生物は、その目でワクァやヨシの姿を確認すると……鳴いた。

「まふー」

 瞬時に、ヨシの顔がとろけそうになる。

「可愛い……ワクァ、この子……もの凄く可愛い……っ!」

 その胸キュンな様子に呆れながら、ワクァは冷静にこの奇妙な生物を観察した。そして、答が出たのか呟く。

「……パンダイヌか……」

「え、パンダイヌ? 何?」

 問われて、ワクァは淡々と答える。

「その名の通り、パンダのような姿で犬のような顔をした生物だ。生物学上、イヌ科にもパンダ科にも属さないがな……ついでに言っておくと、雑食だ」

 そう言いながらしゃがみ込み、そのパンダイヌの様子を見る。

「パンダイヌは元々気性の優しい生物だし……こいつはまだ子供のようだ。人間の臭いが付いた子供を親が殺すという話も聞いた事は無いし……まぁ、多分撫でても大丈夫だろう」

 先ほどから「撫でたーい。撫でたーい」と目で訴えてくるヨシに、まず理由を述べてから許可を出す。

 普段はセンスもあまり良くなく、ガラクタばかり拾うわ言葉を選ばないわ馴れ馴れしいわおまけに実は強いと昨日発覚したヨシだが、こうしていると普通の少女と変わらない。そう思いながらワクァはパンダイヌを撫でるヨシを見る。子パンダイヌがじゃれ付いてくるのを良い事に、抱っこをしてぐりぐりと撫で回している。そして、満足いくまで撫で回したのか、ワクァに言う。

「ワクァも触ってみなさいよ! すっごくまふまふしてるわよ、この子の毛! すっごく気持ち良い……!」

 そう言いながら、強引に子パンダイヌをワクァに渡す。相手が生き物だけに、叩き落すに叩き落せない。仕方無しに、ワクァは子パンダイヌを受け取った。

 ……確かに、まふまふしている。その様子を見て、ヨシは笑う。

「あはははは! ワクァが可愛い動物を抱いてるのって、すっごく変!!」

「なら抱かせるな!」

 噛み付くように、ワクァは反論した。そんなワクァに構う事無く、子パンダイヌはワクァの肩によじ登り、背中を降り、腕を伝って再び登る。振り落とすに落とせないでいるワクァを見て、ヨシは更に笑う。

「笑うなっ!」

「そう言うなら、引っぺがせば良いじゃないの。それもできないのに笑うなっていう方が無茶なのよ~」

「……」

 ワクァは、ぐう音のも出ない。いつしか諦めムードに入り、この子パンダイヌの好きなようにさせている。よじ登られようが髪を掻き回されようが好きにしろ、だ。そんなワクァと子パンダイヌを微笑ましく見ながら、ふと何かを思い付いたヨシは提案する。

「ねぇ、ワクァ。この子……」

「却下」

「……まだ何も言ってないじゃないの……」

 言いかけた言葉を即刻切られて、ヨシは膨れながら言う。そのヨシに、溜息をつきながらワクァは言った。

「どうせ、旅に一緒に連れて行こうとか言い出す気だろう?」

「そうよ。駄目なの?」

「駄目に決まっているだろう! 俺達は旅をしているんだぞ? 何が起こるかわからない旅に、言葉の通じない動物を連れて行って何になる? もし戦闘にでもなってみろ。邪魔になるし、こいつにとっても危ないだけだ!」

「この子は私が守るから~」

「昨日のような戦闘になったらどうする!? 少数対多数で戦いながら何かを守るのが難しい事くらい、お前にもわかるだろう!?」

 珍しく、段々ヨシの分が悪くなっていく。

「けど……」

「けどじゃない! 大体、もし既に誰かが飼っているのだとしたらどうなる!? 既に飼われている動物を勝手に連れて行くのは犯罪だぞ!? それに、野生だとしたらこいつにはちゃんと野生動物としての生き方がある筈だ! それでなくても、まだ子供なんだぞ……親から子を奪って、良いと思っているのか!? 親から引き離された子供が、どんな思いをするかわかっているのか!?」

 その言葉には、珍しく熱が篭っている。

 無理も無い。ワクァ自身が、そのような境遇だったのだから。引き離されたのか捨てられたのかは定かではないが、ずっと親のいない状況を味わってきた。傭兵奴隷として、辛い思いをしてきた。だからこそ、余計に子供と親を引き離してはいけない……と思うのだろう。それを言われたら、事情を知っているヨシは最早何も言う事ができない。

「……わかったわよ……」

 そう言って、せめて今この時はこの子パンダイヌと遊ぼうと、ワクァにへばりついていた子パンダイヌを抱き寄せた。

「まふ?」

 可愛い声で、子パンダイヌが鳴く。まるで「今度は何して遊ぶの?」とでも言っているようだ。その顔に再び胸をキュンとさせながら、ヨシが子パンダイヌを撫でている時だ。


「あー、そんな所にいたのか」


 ガサガサと草を掻き分けながら歩く音と、人の声が聞こえた。

 ヨシとワクァが振り向けば、そこには茶髪で長身、緑色のシャツにベージュのズボンという旅をしているにしては軽装の男が立っていた。顔はヘラヘラしていて、軟弱そうなイメージを感じさせる。その男は、ヨシが抱きかかえる子パンダイヌを指差して言う。

「すまないねー。そいつ、俺のなんだよ。急にいなくなっちまったから、何処へ行っちまったのかと……」

「……どうやら、飼い主のお出ましのようだな……」

 呟くように、ワクァがヨシに言った。

「……みたいね……」

 ヨシが名残惜しそうに子パンダイヌを撫でて、男に返そうとする。すると、子パンダイヌは嫌々をするように「まふー、まふー」と鳴く。その様子と、ワクァとヨシの姿を見ながら暫く考え、男は言った。

「ははっ……こいつ、まだ君らと遊びたいようだな……そうだ! この近くに、俺と仲間で張ってるキャンプがあるんだよ。もし時間があるようなら、こいつが迷惑をかけたお詫びに、そこで一緒に食事でもどうかな? そうすれば、こいつもまだ暫くは君らと遊べるし……」

 男のその言葉に、ヨシはパァッと顔を輝かせた。

「本当!? 良いの!?」

「あぁ」

 笑顔で答える男に、ヨシは本当に嬉しそうな顔でワクァに言う。

「だって! 良いよね、ワクァ!? 連れて行けないなら、せめてもう暫く一緒にいるくらい……」

「まふー!」

 一緒に頼み込むように、子パンダイヌが鳴いた。ここまでされては、ワクァも少々断り難い。

「……まぁ、良いだろう……」

 珍しく、許可を出した。それを聞いて、男は非常に喜んだ顔で言う。

「本当かい!? いや~嬉しいな~。仲間達もきっと喜ぶよ。何せ野郎ばっかりだから、君らみたいな可愛い女の子が二人も来たらどんな顔をするか……」

 その言葉を聞いた瞬間、ワクァが不機嫌そうに顔を歪めた。そして、男の舌の根も乾かぬうちに言う。

「俺は男だ!!」

 その瞬間の、男の顔は当分忘れられそうもない。笑いを必死に堪えながら、ヨシは子パンダイヌを撫で続けた。

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