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ガラクタ道中拾い旅  作者: 宗谷 圭
第1章 双人の旅人(フタリノタビビト)
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第20話 旅のお供を拾う 1

 翌朝。ワクァは目を覚ました途端に叫び声をあげるハメになった。

 昨夜、リラの手入れを終えた後、ついうっかり眠ってしまった。そこまでは覚えている。

 だから、ベッドに横になっている事。夜だったはずなのに朝になっている事。ついでに、毛布が自分にかけられている事にも納得がいく。

 だがしかし。何故自分の横にヨシが寝ているのか。ベッドは二つあるのに、何故同じベッドにヨシが寝ているのか。更に言うなら、何故自分の顔の真正面にヨシの顔があるのか。

 思春期の健全な青少年達が泣いて羨みそうなこの状況にあって、ワクァは軽くパニック状態に陥り、ついうっかり叫んでしまったのだ。

「なっ……何をやってるんだ、ヨシぃーっ!?」

 語尾が延びている辺りに、パニック状態である事を感じられる。その声に宿屋中の客が目を覚まし、一次騒然となった。意識して出した大声ではない為、発信源やら言葉の内容やらがはっきりと彼らにわからなかったのはワクァにとって不幸中の幸いとでも言おうか……。

「ん~……? どしたの、ワクァ~……?」

 宿内が騒然とする中、声を出した張本人であるワクァが冷静さを取り戻し黙った為に一室だけ静まった部屋にあり、ヨシは目を擦りながらワクァに問うた。

 ワクァはベッドから降り、不機嫌そうに腕を組んだ。その顔にはまだ動揺が現れているが、それを押し堪えながら勉めて冷静に問う。

「どうしたの、じゃない。何でお前が俺と同じベッドで寝てるんだ? そんな事をしなくても、この部屋にはベッドが二つある。それをあえて俺と同じベッドで寝る必要が、何処にあるんだ!?」

 言われてから、ヨシは「えー~……?」とぼんやりした目で辺りを見渡した。

 確かに、ベッドは二つある。そして、自分が上がっているのとは違うもう片方のベッドは、全く使われた形跡が無い。ワクァは昨日先に寝たのだから、自分がワクァのベッドに入りこんだ……というのは間違いないだろう。そこまで考えてから、ヨシは昨夜の事を思い出す。

「……あー……そう言えば、昨夜ワクァのベッドに腰掛けて……考え事してるうちに寝ちゃったんだっけ……?」

 段々目が覚めて、記憶がはっきりしてきた。昨夜は確か風呂から上がった後、珍しくワクァが深く寝入っていて。本当に珍しい上に昨日は色々あったもんだから、ついその横に腰掛けて物思いに耽ってしまって。ワクァと出会った時の事なんかを思い出していて。


 その後の記憶が全く無い。


 事のあらましを「ワクァと出会った時の事を思い出していた」など一部省略しつつも説明するヨシに、ワクァは額を押さえながら言う。

「……もう良い……完全に目が覚めた事だし、さっさと出発する準備をするぞ」

 そう言ってリラを佩き、荷物をまとめる。元々持ち歩くような私物を殆ど持ち合わせていない彼なので、荷造りはあっという間だ。

 ヨシも慣れた手つきで荷物をまとめ、十分後には朝食を取る為に食堂へ向かう二人の姿があった。

 そして更に三十分後には、もうチェックアウトを済ませている。気力体力共に充実した様子で、二人は宿を後にした。

 その後も暫くの間、ワクァは渋い顔で「何故コイツと旅をする気になったんだ……」と、昨日一人で呟いた事をまたしても考え込んでいる。その様子を見て、昨夜当時の事を思い出していたヨシは声を押し殺しつつも大いに笑った。

 仲間になった時と比べ、随分ワクァの表情が豊かになってきた。一緒に旅を始めた頃は、いつもいつも表情が硬くて……いつも何かを睨んでいるようだった。自然に笑う事も怒る事も泣く事も中々できなくて……怒ったり、笑ったり……そんな表情を見る為に、いつもヨシがちょっかいを出していた。

 それが今では、ヨシのちょっかい無しでもその顔で感情を読みとれる程になっている。そう思うと、嬉しくて……嬉しくて。つい笑わずにはいられないのだった。

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