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ガラクタ道中拾い旅  作者: 宗谷 圭
最終章 ガラクタ人生拾い旅(ガラクタドウチュウヒロイタビ)
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第7話  新たな旅を拾う 2

 秋の虫がころころと鳴く夜の中庭で、トヨは蹲っている。泣いてはいないが、泣きそうな顔だ。

 少し遅れて、ヨシとトゥモがやって来た。

「トヨくん」

「ヨシ……」

 泣きそうな顔を月明かりに照らされながら、トヨは暗い声で応ずる。特に許可は求めず、ヨシはトヨの横に座った。トゥモは、いつ何が起きても対処できるよう、立ったまま控えている。

「ヨシ……ヨシはどう思う? 父様の……」

 そこで、言葉を詰まらせた。ヨシは、首を横に振る。

「気休めを言っても仕方が無いから、正直に言うけど……わからないわ。お医者さんがそう言うなら、本当に危ないんだろうって思うけど……その反面、ワクァなら大丈夫だろうって気もするし」

 トヨが、難しそうに首を傾げた。ヨシは「えーっとね……」と呟きながら言葉を探す。

「トヨくんには、何度か話したわよね? ワクァが若い頃の話。色々と嫌な目にも遭ったし、死にそうになった事も何度かあるって」

 トヨは、ゆっくりと頷いた。

「何度も危ない目にあったけど、ワクァはその度にそれを乗り越えてきた。運が良かったし、何だかんだで負けん気も強かった。だから何となく……今回も大丈夫だって、思いたくなるのよね」

「そう……」

 ヨシの言葉が自信無さげなところから、本当に残る時間が長くないのだと、トヨは実感する。震える肩を、ヨシが優しく撫でた。

「トヨくんは、本当にワクァの事、好きよね」

 トヨは、こくりと頷いた。

「ヨシやトゥモや、母様やフォルコ、ウトゥアからも……父様の昔の話、たくさん聞いたから。……僕が知ってるのは、いつものちょっと厳しいけど優しい父様だけだけど。あんな風にカッコ良くなりたいって、いつも思ってる……」

「あら? 私、そんなにワクァのカッコ良いところなんか話したかしら? どっちかって言うと、カッコ悪いところを話したと思うんだけど?」

「カッコ良いところを話してくれたのは、トゥモとフォルコだよ。ヨシとウトゥアは、父様のカッコ悪いところばっかり。母様は、どっちもかな?」

 そう言って、トヨはやっと笑った。

「けどさ、そんなカッコ悪いところもある父様だから……一緒にいて楽しいんだと思う。カッコ良いとこばっかりだと、緊張しちゃうもん。父様の次に王様になるのは、僕だから……」

「そっか……」

 トヨは、もう自覚しているのだ。もしこのままワクァが死ねば、次は自分が王になるのだという事を。

「そう言ってもらえると、カッコ悪いところばっかり選り抜いて話した甲斐があったわ。ワクァには散々怒られたけどね」

「僕も。歌が下手だって事をヨシに話した事がバレた時、余計な事を言うなって怒られた」

 でも、本当に人に話さずにはいられないほど下手だったんだと、トヨは言う。

「ウルハ族の子守歌だっけ? おばあ様が歌うと、あんなに柔らかい歌なのに……父様が歌うと、何だかすっごくカクカクしてるんだよね。子守歌なのに、おかしくて寝れなくなっちゃった」

 トヨが生まれるまで一度も歌った事が無かったのだから、技術に関しては勘弁してあげてほしいところだ。まず、ワクァがトヨのためとはいえ歌を歌ったという事が、ヨシにとっては大事件だったのだから。

 一しきり笑ってから、トヨはぽつりと言う。

「父様が死んだりしたら、嫌だ……」

「……うん……」

 ヨシは、頷く事しかできない。ヨシだって、ワクァが死ぬのは嫌だと思う。

「三年なんて、短過ぎる……。もっと父様と、一緒にいたいよ……」

「うん……」

 トヨが、ヨシの腕に縋り付いた。ヨシは、トヨの頭を優しく撫でてやる。

 やがて、トヨは泣き出した。泣き声は夜の中庭で木霊し、辺りに響く。その響きが消え去るまで、ヨシはずっと、トヨの頭を撫で続けていた。

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