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ガラクタ道中拾い旅  作者: 宗谷 圭
第9章 刀剣の国(ツルギノクニ)
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第25話 周りの気持ちを拾う 5

「おい、重湯だ! 時間食うなら砂糖水でも良い! すぐに持ってきてくれ!」

 ホウジが館の中に駆け込み、次いでワクァを背負ったフォルコ、更にゲンマ、ヒモト、ヨシ、トゥモと立て続けに駆け込んできて、館は一時騒然となった。

 ホウジ達は客間に急ぎ、寝具を延べるとそこにワクァを横たえる。呼吸が苦しそうな事に気付いたヨシが襟元を緩め、ホウジがワクァの頬を叩いた。

「おい、目ぇ覚ませ! 寝る前に、何か腹に入れろ! そのまま寝たら、寝てる間に死ぬぞ!」

 大きな声と頬を叩かれた衝撃で、ワクァが薄らと目を開ける。タイミングを見計らったように、女性が木でできた器を運んできた。ヒモトが受け取り、匙を持つ。

 トゥモがワクァの上半身を起こして支え、口を開けるようにと泣きそうな声で言った。小さく開かれた口に、ヒモトが匙で掬い取った白い液体を運ぶ。

 微かにとろみのある液体を口に流し込まれ、嚥下した。しかし、三日間何も入れていなかった胃は、こんな液体すら迎え入れ難いらしく、何度もえずく。

「吐いちゃ駄目!」

「頑張るっス!」

「根性見せろ!」

 耳元で、ヨシとトゥモ、ホウジが喧しい。しかし、この喧しさが無ければ、今すぐにでも意識を失いそうなのが実情だ。

 吐きそうになりながらも何とか全て胃に収め、ワクァは再び横になった。そしてそれと同時に、今度こそ完全に意識を失う。しかし、先ほどまでと比べて、呼吸は多少楽そうだ。やがて規則的な寝息が聞こえ始め、そこで一同はやっと安堵の息を吐いた。

「少しは落ち着いたか……。ゲンマ、今のうちに医者……」

「呼ぶように手配したから、そろそろ来ると思うよ。あと、目が覚めた時に清拭できるように準備しておく事、その時は三分粥を出せるようにしておく事も指示しておいたから」

 淡々と言うゲンマに、ホウジは「お、おう……」と面食らったように頷いた。

「よく気が付くな、お前……」

「いや、全部普通でしょ。重湯食べさせる手助けしてたヒィちゃんとトゥモ殿はともかく、兄上とヨシ殿、テンパり過ぎ」

 呆れた口調で言うゲンマに、ホウジは「うるせぇ」と呟いた。ヨシ達が苦笑し、やっと場の空気が緩む。そこで、ヒモトが「あら」と呟いた。その声に、全員がヒモトの視線の先を見る。そして、全員が呆れた顔をした。

「おい……剣握ったまま寝てるぞ、こいつ……」

「あの場所から背負われてきて、今まで一度も離さなかったんスねぇ……」

「ここまで来ると、尊敬に値するよね」

「……と言うか、さっきも疑問だったんだけど。この剣、どうしたの?」

 ヨシの疑問に、ヒモトが手短に説明した。ヒモトがリラの刃に鋼を加えて新しく打った剣。銘をラクという。それだけ聞いて、ヨシは「なるほどねぇ」と頷いた。

「いわば、リラの生まれ変わりって事ね。道理で、戦ってた時のワクァ、久々にイキイキしてたわけだわ」

「お気に召したのは光栄なのですが、このままでは寝返りもできませんね」

 苦笑しながらヒモトがワクァの右手を掴み、剣を手放させる。すると、ワクァの右手は一、二度何かを求めるように空を掴んだかと思うと、ヒモトの左手首をしっかりと握りしめた。その光景に、一同は目を丸くするほか無い。

「あら珍しい。ヒモトちゃんの手を、ラクと間違えてんのかしらね?」

「これは……ヒモト様、殿下がとんだ失礼を……!」

 呆れた様子のヨシとは裏腹に、フォルコがここへきて慌てて立ち上がる。ヒモトは、クスクスと笑いながら首を横に振った。

「眠っている間の、無意識の行動ですから。致し方の無い事かと」

 そう言いながら丁寧にワクァの右手を解き、寝具の中へと仕舞い込む。そして、ヨシ達に声をかけた。

「三日間心配し続けて、お疲れでしょう? 医師が来るまで、まずは私が様子を見るようにしますから、皆様もお休みください」

 刻限はそろそろ昼になろうかという頃。ワクァでなくとも、皆空腹を覚えている。一同は顔を見合わせると、「じゃあ……」と言って立ち上がり、部屋から出て行った。

 後に残されたヒモトは、静かに眠り続けるワクァの顔をただ見詰めている。

 そして、人知れずホッと息を吐き、穏やかに微笑んだ。

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