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ガラクタ道中拾い旅  作者: 宗谷 圭
第9章 刀剣の国(ツルギノクニ)
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第24話 周りの気持ちを拾う 4

 あちらこちらで、金属がぶつかり合う音が響いている。テア国の男達が、ホウジが、フォルコが。ホワティアの者達と剣をぶつけ合った。その間をトゥモが駆け巡り、危ないと見たところにナイフを投げて援護している。

 ヨシもまた、鞄を振り回してぶつけ、飛礫を投げて昏倒させ、先ほど相手がワクァに投げていた縄を投げ返して足に絡ませ転ばせてと、読み難い動きで敵を翻弄している。

 そんな彼女と真正面から対峙し、地に沈められていく男が後を絶たない。中には、剣を弾き飛ばされも諦めず、直接掴みかかってきた男もいた。それに対し、ヨシは同じく素手で応じようとする。

 ただし、右手の拳、全ての指と指の間に、朝食時に失敬したツマヨウジを挟んでいた。拳の中には、硬くなりかけたモチ。ツマヨウジはこれに刺さっているため、ヨシの手は痛くない。しかも、モチのお陰でツマヨウジが安定している。

 掴みかかろうとした手にツマヨウジが刺さり、男は怯む。その間にヨシは手を開き、ツマヨウジを挟んだまま、男の鼻に掌底を喰らわせた。掌には硬くなりかけたモチ。普通の掌底よりも、攻撃力が増している。男は鼻血を出して、その場に蹲った。

「はい、次!」

 叫びながら、次に襲い掛かってきた男の口に手の中のモチを突っ込む。ツマヨウジは刺さったままだ。男が一瞬もがいた隙に、鞄で急所を殴打。男は頽れた。

 今更ながら、ホワティアの者達はヨシを警戒し始めた。彼女が軽そうに持っている鞄が、その実非常に重い事に気付いたらしい。

 遠巻きになったらなったで、飛礫を投げて相手を昏倒させる。向こうでは、剣士達が着々と相手の数を減らしている。トゥモも必死に駆けずり回り、味方の有利に貢献しているようだ。

 しかし、やはり相手の数が多過ぎる。軍隊が到着するまでの辛抱とは言え、もう少し人手が欲しい。

「あぁ、もう! ヒモトがいりゃあ、もう少し楽だってのに!」

「それを言ったら、ワクァもよ!」

 ホウジとヨシが、鬱憤を晴らすように目の前の相手を地に下した。そして、その背後に迫っていた敵を、突然駆け寄ってきた人物が斬り捨てる。

「ホウジ兄上。館では、突っ走らないよう私に知られるな、などとゲンマ兄上に仰っていませんでしたか?」

「……って、ヒモト!?」

 本気で驚いた顔で、ホウジが目を剥いた。妹の気配に気付いていなかった兄に、ヒモトは呆れた顔で息を吐く。その後で、ワクァが苦笑した。

「ちょっと、何戻って来ちゃってるのよ、ワクァ!」

 咎めるように叫ぶヨシに、ワクァは少しだけ居心地が悪そうにした。フォルコとトゥモも目を剥いている。

「俺がいれば楽だと言っていた舌の根も乾いてないだろうが。……お前達が言うところの無茶はしないよう心掛けるから、今は少しだけ見逃してくれ」

 そう言って、腰のラクに手を伸ばした。新しい剣の姿に、ヨシ達が「え?」と呟く。ワクァはヒモトと視線を交わし、頷き合った。ワクァはラクを鞘から引き抜き、ヒモトは雪舞を構え直す。

「これから頼むぞ、ラク!」

「もうひと踏ん張りです。参りましょう、雪舞!」

 二人は剣の名を呼び、駆け出した。ホワティアの者達が、これ幸いにと二人に狙いを定めて襲い掛かってくる。

 繰り出される攻撃を二人は難無く躱し、反撃に剣を繰り出す。時には並び立ち、時には背を合わせて。

 ワクァが突きを見誤ったかと思えば、その陰から突如ヒモトが飛び出して相手の腱を斬る。ヒモトが斬った相手に合わせるように体を沈めたかと思うと、倒れた相手の背後にいたワクァが剣を繰り出し、ヒモトの背後を狙っていた敵を斬る。

 まるでダンスでも踊っているかのように息を合わせて、二人は次々に敵の数を減らしていった。そして、ホワティアの者が半数以上地に倒れた時だ。

「援軍だ!」

 テア国の男が叫ぶ声が、辺りに響いた。その声を隠すように、地響きが聞こえてくる。ホウジがクウロやセンに要請していた軍が、遂にやってきたのだ。

 馬に乗った、大勢の男。その誰もが、鎧を身に付けている。先頭の白馬には、完全武装したセンが跨っていた。

「遅いですよ、兄上! ゲンマ!」

 ホウジの怒鳴り声に、センが緩やかに苦笑する。

「済まないね。これでも急いだつもりだったんだが……」

「僕はちゃんと仔細を伝えたし、セン兄上の準備も本当に早かった。ホウジ兄上が性急過ぎるんだよ」

「この状態で、性急もくそもあるか! 鎧なんざ着込んでる暇があったら、その分早く駆け付けろって話ですよ!」

「また、そうやって無茶を言う」

 そう言ってまた苦笑すると、センはワクァ達に視線を遣った。

「ワクァ殿が無事、心を取り戻された事。皆様が大きな怪我無くこの時まで持ち堪えられた事、祝着至極。あとは我らにお任せください」

 言うや否や、センはそれまでの穏やかな表情を捨て去り、残りのホワティアの者達を鬼もかくやという表情で睨み付けた。空気が、ビリビリと震え始める。

 ホワティアの者達が、ジリジリと後退し始めた。その緊張感が、頂点まで達した時。

「かかれっ!」

 センが叫び、手にしていた房付きの棒を振り下ろした。馬上の男達がオウと叫び、ホワティアの者達に一気に迫る。相手は、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。中には、近くの森の中に逃げ込む者もいる。逃がすまじと、徒歩の兵が槍や剣を手に森へと駆け込んだ。

 その様子に、ワクァ達はホッと息を吐き、皆武器を収める。

 そこで気が抜けたのだろうか。ワクァは急に酷い立ちくらみを覚え、そのまま後ろに倒れ込んだ。

「ワクァ様!」

 気付いたヒモトが慌てて駆け寄るが、バランスが悪く支えきれない。二人揃って、倒れ込んだ。

 ヒモトは身を起こし、その場で膝を折るととワクァの頭を己の膝の上に落ち着ける。ワクァは驚いた顔をしたが、その時ぐぅ、と微かに音が鳴り、苦笑した。

「……腹が減ったな……」

 小さな声で呟かれた言葉に、ヒモトは呆れた顔をする。

「三日も飲まず食わずで、あれだけ暴れたのですよ? 当たり前です!」

「……手厳しいな」

 苦笑するワクァに、ヒモトは頷いた。

「甘やかしの言葉をかけたところで、貴方様のためにはなりませんでしょう? ですから、遠慮無く言わせて頂きます。館に戻りましたら、まずは睡眠をお取りください。目が覚めたら、嫌という程たっぷりと食事を召しあがって頂きます」

 また苦笑して、ワクァは力無く頷いた。そして、ふと思い出したように言う。

「ホウジから、テア国の女性は戦う者をサポートするために、王族でも料理をすると聞いたんだが……こんな風に、剣を握って真っ先に戦場に飛び出すようなヒモトも、料理をするのか?」

 その問いに、ヒモトはきょとんとした。それから、少しだけ笑って頷く。

「えぇ。……たまに、ですけど」

「そうか……食べてみたいな」

 何気無い一言に、ヒモトは「え……」と言葉を詰まらせた。そして、少し恥ずかしそうに笑って見せる。

「ならば、久々に……腕によりをかけてみましょう。……みそ汁も、お作りしましょうか?」

 テア国に来た日に飲んだ茶色いスープを思い出し、ワクァは微かに笑った。

「あぁ。……楽しみにしておく」

 そこまで言ったところで、ワクァの視界は急速に暗くなっていった。体中の力が抜け、意識が遠のいていく。

 ヨシ達が名を呼ぶ声が、遠くに聞こえた気がした。

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