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ガラクタ道中拾い旅  作者: 宗谷 圭
第9章 刀剣の国(ツルギノクニ)
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第21話 周りの気持ちを拾う 1

 祠の近くまで遊びに来ていた子ども達が、ホワティアの者達に見付かり、追い掛けられた。我が子の悲鳴を聞き付けた母親が駆け付け子どもの元へ駆け寄るも、抵抗する術が無く斬り殺されそうになった。急を聞いた男達が手に手に武器を持ち助けに来たが、何十人もいるホワティアの者達に囲まれてしまった。

 男達は女子どもを背に回し、武器を構えてじりじりと後ずさる。それを楽しむように、ホワティアの者達は特に襲い掛かるでもなく、じわじわと追い詰めてくる。

 しかし、やがて追い詰める事に飽きたのか。何人かのホワティアの者が、武器を振り上げ、テア国の者に向かって襲い掛かった。女子どもは悲鳴をあげ、男は必死に武器を振るう。

 多勢に無勢でもう駄目か、と思った時だ。一人の人間が間に飛び込み、ホワティアの者達の武器を一度に受け止め、弾き返した。雪舞を手にしたワクァだ。

 突然の乱入、しかも一人で複数の武器を捌いたという事実に、ホワティアの者も、テア国の者も唖然とする。そのうちの何人かが、ワクァの正体に気付いた。

「あ、貴方様は……」

「ここは俺が食い止める! お前達は、女子どもを連れて早く逃げろ!」

 言われてハッとしたテア国の者達は、頭を下げると急いでその場から逃げ出していく。それを横目で確認しながら、ワクァはじりじりと間合いを取った。ホワティアの者達も、ワクァの動きに注意するように間合いを計っている。

 目測だが、館で聞いた通り、七十人はいそうだ。……いや、もっと多いかもしれない。報告の後で更に増えたのだろうか。何人かの男は、ワクァを見てニヤニヤと笑っている。

「これは僥倖。まさか、ヘルブ国の王子が自ら出てきてくれるとはな」

「聞けば、長年愛用してきた剣を失って意気消沈していたとか。見てみりゃ、たしかに随分と弱っているみたいだ」

「それでなくても、この人数差。ヘルブ国の王子がどれほど強くても、流石に一人で全員を相手にするのは無理だろう」

 ワクァの頬を、汗が伝う。たしかに、相手の言う通りだ。ただでさえ不調の状態、しかも一人でこれほどの人数を相手にできるかと言われれば、答は否だ。

 だからと言って、今更退く事はできない。この状況では、逃げる事も困難だ。

「……ヒモト、済まない」

 小さな声で謝罪の言葉を呟く。仮にも預かり物である剣に、これから無茶をさせなければならない。

「力を貸してくれ、ユキマイ!」

 叫び、そして構える。ホワティアの者達が、一斉に動き出した。

「生かして捕らえろ! 相手はヘルブ国の王子だ。人質にすれば、ヘルブ国に囚われた陛下を救い出す取引材料に使えるぞ!」

 なるほど、ホワティア王を取り戻すためか。だから、ヘルブ国ではなくテア国に現れたのだ。

 テア国で暴れれば、テア国の王族、それに現在滞在中のヘルブ国使節はきっとすぐに出てくる。ホワティア国が好き勝手するのを、安全な場所でただ見ているだけなどできない者ばかりだからだ。

 特にワクァは、ホワティア王に「今後また兵を向けたら容赦しない」と告げている。あの時、その場にはホワティア王とフォルコしかいなかったが、密偵か何かを通じて伝わっている可能性は有り得ない話ではない。

 ホワティア国の者が暴れれば、ワクァは必ず出てくると、相手は踏んでいた。例えワクァが出てこなくても、ヨシか、トゥモかフォルコか。はたまたテア国の王族か。誰かを捕らえれば、必ずワクァは出てくる。

 どうにかしてワクァを捕らえ人質にすれば、十六年ぶりに見付かった息子を、ヘルブ国王はきっと見殺しにはできないだろう。そして、ホワティア王は解放される。

「……そう簡単に、思い通りになってたまるか!」

 言葉の威勢は良いが、腕に力が入らない。足も、普段のように踏ん張れない。それでも、何人もの人間を一度に相手取りながら、適度に間合いを取っていく。

 しかし、呼吸はどんどん荒くなっていく。

 雪舞は良い剣だ。重さがあるのに、ほとんどそれを感じさせないほど扱いやすい。リラよりも少しだけ刃が短いため、最初のうちこそ間合いを見誤りかけたが、今ではそれにも慣れた。

 それでもやはり、手に収まっているのがリラではない、という事実は、ワクァから力を奪っていく。

 右足の力が急に抜け、がくりと頽れた。「しまった」と思った時にはもう遅く、敵との間合いが詰まっている。

 何人かが、重石のついた縄を投げてきた。縄はまず雪舞を持つ右腕に絡み付き、その動きを封じる。第二、第三の縄も左腕に、右腕に、絡み付く。

「捕らえたぞ!」

「そのまま押さえこめ!」

 ホワティアの者達が、ワクァに殺到する。流石に、ここまでか、とワクァは目を閉じた。その時だ。

「はい、そこでストーップ!」

「やらせないっス!」

 聞き覚えのあるふた色の声が響き、同時に石とナイフが飛んできた。複数の石飛礫は全てホワティアの男達の頭に当たり、殺到していた男達を怯ませる。ナイフは、ワクァに絡み付いていた縄を難無く切り裂いた。

「殿下から離れぬか、この不埒者どもが!」

「よぉし、お前ら。テア国領内で好き勝手してくれたツケを払う覚悟はできてるよな? おい、こないだ俺達だけでここに来させちまった事を悔いてる奴、汚名返上の機会だぞ。思いっきり暴れてやりな!」

 また、聞き覚えのある声だ。そして、四人や五人では有り得ない数の足音が響き、何人もの人間がワクァとホワティア国の者達の間に立ち塞がる。

 ヨシとトゥモ、フォルコがいた。ホウジがいて、テア国の武器を持った男達が何人もいた。壁を作るように、ワクァを守っている。

 ヘルブ国の三人が、ワクァの方へと体を向けた。全員の顔が怒っている。

 ヨシが、ワクァの頭を思い切り殴った。

「……っ……!」

「なぁにが、っ! よ! アンタ、もう少しでもっと痛い目に遭うところだったのよ!? わかってんの、この馬鹿!」

「あんまり心配ばかりさせないで欲しいっス! ワクァの馬鹿!」

「まことに、大馬鹿者としか言いようがございませんな。口では何度も反省の言葉を述べておられたが、未だにご自身の身を大切になさらぬ癖が抜けておらぬご様子。……陛下や妃殿下、ウトゥア殿が甘やかされるわけだ」

 三人から一斉に馬鹿と言われ、ワクァは思わず肩を竦めた。

「……済まない」

「ワクァの、済まない、は聞き飽きてんのよ、馬ぁ鹿!」

 それだけ叫ぶと、ヨシはへたりと座り込む。トゥモとフォルコも、しゃがみ込んだ。そして、皆でワクァの頭や頬、肩に触れる。

「とにかく……ご無事で何より」

「心配したっス……。本当に……本当に心配したんスよ……!?」

「これだけの事じゃないわよ? 三日間も引き籠って! あれも、本当に心配したんだから!」

 そう言って、全員がホッと息を吐く。

 多くの者に心配されていたのだと。いつの間にか自分は、心配してくれる人を何人も手に入れていたのだと。ワクァは今までに無く強く実感した。

 涙が出た。ボロボロとそれをこぼしながら、掠れた声で、それでもはっきりと、ワクァは言った。

「……ありがとう」

 ヨシ達が、再びホッとした。そして、頷いてくれる。

「安心したところで、ワクァはちょっと下がっててもらえるか? でもって、他のヘルブ国の奴らは手を貸してくれ!」

 ホウジの要請に、ワクァ達はハッと顔を上げる。人数が増えたとはいえ、多勢に無勢なのは変わらない。ホウジ達が食い止めてくれるのにも、限界がある。

「ちょ、ちょっと待っててくださいっス! まずはワクァを避難させないと……」

「それは、拙者にお任せいただきたい!」

 突如、後方から声がした。いつの間にか、テア国の者が一人、そこにいる。見覚えのある顔だ。

「あ、たしか三日前に……!」

 ヨシが目を丸くすると、男はばつが悪そうに頷いた。三日前に、ホワティアの者達に子どもを人質に取られ、ワクァ達に襲い掛かってきた男だ。

「何で? 謹慎中じゃ……」

「詳しい話は後程。今はまず、ヘルブ国の王子殿下の離脱を優先いたします故!」

 言われて、ヨシ達は頷いた。男は頷き返し、「御免!」と叫ぶとワクァを担ぎ上げる。そして、すぐさま遠く離れた物陰へと駆けていく。

 そこで、ワクァは目を丸くする。そこには、他に三人の男達。そして、ヒモトが待っていた。

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