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ガラクタ道中拾い旅  作者: 宗谷 圭
第9章 刀剣の国(ツルギノクニ)
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第19話 折れた心を拾う 4

 あれから、三日が経った。ワクァは相変わらず、部屋で呆然と壁にもたれている。ヨシやトゥモが様子を見に行っても、反応する様子が無い。

 更に、この三日の間にヒモトまでもが姿を見せなくなってしまった。リラの供養とやらをやっているのかもしれないが、あまりに姿が見えないと更に不安になってくる。

「どうしたものかしらね……」

「このままじゃ、進む事も引く事もできないっス。せめて、ワクァが何かに反応してくれれば良いんスけど……」

 中広間で揃って朝食を摂りながら、ヨシ達は唸った。唸りながらも、しっかりとお代わりまでしている。ヨシに至っては、膳と呼ばれる食事用の小机の横に添えられた容器から、ツマヨウジなる道具を何本か失敬して鞄に詰め込んでいる。消耗品であるし、ホウジ達も目の前で苦笑しているから見逃そう、とフォルコは出された茶を啜った。

 すると、更に調子に乗ったようにヨシは食後に、と出された容器に手を伸ばす。そこにはコメを蒸して叩いて作った、モチと呼ばれる菓子が積み上げられている。少し硬くなっているから、後から焼いて食おう、とホウジが言っていたそれを手に取ると、紙でくるんでやはり鞄にしまいこんだ。

 不安そうな様子は変わっていないが、それでもヨシとトゥモは少しずつ元気を取り戻している様子だ。この調子で、ワクァも少しは戻ってくれれば良いのだが。

 人知れずフォルコがため息をついた時、中広間の外から若い女の声がかけられた。

「失礼致します」

 食事の膳を運ぶ役目を担っていた女性だ。心配そうな顔をして、部屋の中へと入ってくる。

「あの……ヘルブ国の王子殿下が、何も召し上がっていないようで……。この三日間、ほんの少しの水すら召し上がっていらっしゃいません。このままでは……」

 その報告に、ヨシ達は揃って言葉を失った。食事ものどを通らない様子であるとは聞いていたが、まさか文字通り何も口にしていないとは。

「おい、いくら何でもまずいぞ。飯は、生きる力の糧だ。食わなきゃ、人間は死ぬ。子どもでも知っているような事だぞ?」

「元々、そんなに食が太い方じゃなさそうなのに……無理矢理にでも、何か食べさせないと」

 ホウジとゲンマが険しい顔をして立ち上がり、フォルコがやはり険しい顔をして頷き、立ち上がった。

「わかっておりまする。……済まぬが、粥か何か……食べやすく、体に優しい物を用意しては頂けませぬか? 某が抑え込んででも食べさせまする」

 そう言ってフォルコは腕まくりをし、女性は急いで厨房の方へと向かって行く。

「大切な剣を失い、意気消沈しておられる事を慮ってそっとしておいたが……流石にこれ以上放ってはおけぬ。それでもまだ腑抜けているようなら、拳骨を喰らわせてでも正気を取り戻させるまで。トゥモ、手伝え!」

「は、はいっス!」

 トゥモも慌てて立ち上がり、つられてヨシも立ち上がる。そして、揃って中広間を出ようとした、その時だ。

「も、申し上げます!」

 中広間に面する中庭に、男が駆け込んできた。息を切らしているところを見ると、全速力で駆けてきたようだ。

「何事だ!? 今、こっちは取り込み中なんだが……」

 苛立ちながら問うホウジに、男は負けじと声を張り上げる。

「ホワティアの者が、再び領内に侵入致しました!」

「……何……?」

 シン、と、辺りは水を打ったように静まり返った。男はそのまま、怒鳴るようにして報告を続ける。

「先日ホワティア者が人質を取り立てこもった祠に、続々と集結しております! 狙いは恐らく、ヘルブ国の方々及び、お館様方の首! 数は、六十とも、七十とも……!」

「その大盤振る舞いは要らねぇ!」

 怒鳴ると、ホウジはゲンマに目を遣った。

「ゲンマ、すぐに父上と兄上にお知らせしろ。その数じゃ、流石に軍を出す必要がありそうだ。なりふり構わず飛び出して行きそうなヒモトには絶対にばれないようにな!」

「難しい事を言うね、ホウジ兄上は。けど、今ヒィちゃん、姿が見えないし。何とかなるかな……?」

 頷き、ホウジはヨシ達に視線を遣った。

「悪い、そういうわけだ。俺達はホワティアの奴らを抑えに行く。ワクァの事は、お前達だけに任せる事になっちまうが……」

「構わないわ。元々、こっちの問題だもの」

 ヨシの言葉にホウジが再度頷き、全員が一斉に動き出そうとした。その時だ。

 廊下の方で、タタタ……という軽く弱い足音が聞こえた。次いで、女の「あっ!」という咎めるような声も。

 すたん! と荒々しくショウジが開いた。

「ホウジ様! 今……ヘルブ国の王子殿下が、外に……!」

「何ぃっ!?」

 ホウジが目を剥き、ヨシ達の顔がザッと青褪めた。

「ワクァ……三日も食べてなくてふらふらの筈なのに、何考えてんスか!?」

「まずいわね……。ひょっとしなくても、今の話、聞かれてたんじゃないの? リラの仇を取るつもりか、自分の気持ちにケリを付けるためか……理由はわかんないけど、ホワティアの奴らが集まってる場所に向かってるわね。多分……」

 そして全員で頷き合い、走り出した。ゲンマはクウロ達に事の次第を告げに。残る面々は、ワクァを追って。

 そして、慌てていた彼らは、誰一人として気付かなかった。館の中から、ヒモトの姿も完全に消えているという事に。

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