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ガラクタ道中拾い旅  作者: 宗谷 圭
第9章 刀剣の国(ツルギノクニ)
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第15話 過去を拾う 3

 少し経ってから、アジルに付き従っていた護衛兵達が戻ってきた。近くの村で人数を集め、絶対に負けない人数になってから動き出したのだ。

 恐らく、あの子どもはもう駄目だろうと、多くの者が思う。子どもと大人、あの人数差、初めて実戦に臨む者と、戦いに身を投じて長い者。どの条件を見ても、結果は明らかだ。

 子どもである上にあの容姿だから殺されてはいないかもしれないが、それでも無事ではいないだろう。

 アジルには、ワクァが死んでいたらリラという銘の剣だけでも回収してこいと言われている。良い作りをした、中々値が張る剣だという事だ。

 もし万が一、ワクァが健闘して盗賊達が弱ったり逃げ遅れたりしていれば、一網打尽にしてこいとも言われた。当然の事ながら、ワクァを心配する気持ちは欠片も見当たらない。

 少しだけ憐みを覚えながら。そして、子どもの惨殺死体を目の当たりにする覚悟をしながら、護衛兵達は峠を再び登った。

 だが、そこで護衛兵達を待っていたのは、予想と全く異なる光景だった。

 だらしなく伸び切り、倒れ伏している盗賊達。中には意識のある者もいるが、痛そうに呻くばかりで戦う気力は皆無になっている。誰も死んではいないが、辺りにはポツポツと血が垂れている。

 その光景を、ぼんやりと見詰めている、一人の子ども。黒い髪と、白い肌が美しい。手に持った身の丈に合わぬ長い白銀の剣は、陽の光を浴びてキラキラと輝いている。ワクァだ。

「ワクァ、お前……」

「無事だったのか……」

 呆然としながら護衛兵達が呟くと、ワクァは無言のままこくりと頷いた。そして、剣を一振り、ひゅんと振るう。しつこく残っていた血が地面に飛ぶ。それを確認すると、ワクァは刃を鞘に収めた。誰にも聞こえない小さな声で、「ありがとう」とリラに向かって呟く。

「これ……お前がやったのか? 本当に……!?」

 疑わしげに問う護衛兵に、ワクァは再び、無言で頷いた。護衛兵達は、毒気を抜かれた顔で「そうか……」と呟くと、すぐさま盗賊達を捕縛する作業にかかる。誰も、ワクァを褒める事はしない。傭兵奴隷なら、これができて当たり前だからだ。

 護衛兵達が黙々と作業する様を眺めながら、ワクァはリラをギュッと握る。

 この剣があったから、助かった。この剣のお陰で、助かった。この剣だからこそ、助かった。

 そう思わずにはいられない。リラの輝きが、自分に落ち着きを与えてくれたのだから。落ち着いたからこそ、日頃の訓練の成果を発揮する事ができた。あのまま震えていたら、きっとこうはいかなかった。

 ワクァは、再びリラを握る手に力を籠めた。そして、こうも思う。

 この剣があれば……リラがいれば、自分はどんな時でも、きっと大丈夫だ、と。

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