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ガラクタ道中拾い旅  作者: 宗谷 圭
第9章 刀剣の国(ツルギノクニ)
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第14話 過去を拾う 2

 ガタゴトと、馬車が音を立てて進む。タチジャコウ領の領主、アジル=タチジャコウが視察へ向かうための馬車だ。

 それに随行しながら、ワクァは腰に帯びたリラにそっと触れてみる。昨夜、教わった通りに長い時間をかけて刃をよく研いだ。刃も、柄も鞘も、全て念入りに布で磨いた。新しい上に、丁寧に手入れを施したリラは、朝の陽光で美しく輝く。

 長い剣は、それだけ重い。少しでも気を緩めれば、引きずりそうになってしまう。そうならないように、ワクァは気を引き締める。勿論、それに気を取られて歩みが遅くなってしまうような事になってもいけない。素早く、足を動かした。

 懸命に歩いているうちに、馬車は峠に差し掛かる。事前に聞いた話によれば、近頃この辺りには盗賊が何人か出没するようになったのだという。

 恐らく、ここがワクァの初仕事の場となるのだろう。そんな予感がして、ワクァは右手をリラの柄にかけた。

 そして、予想や噂の通り、盗賊達が姿を現した。人数は四人か五人、といったところか。体格は中々良いが、顔色があまり良くない。ここ数日、ろくな食事を摂れていないのかもしれない。そのためか、気が立っているように見える。

「止まれ!」

「タチジャコウ領主だな? 命が惜しければ、積荷と命を全て寄越せ!」

 空腹のせいだろう。命が惜しければ命を寄越せなどと、おかしな事を言っている。馬車の中のアジルが呆れた顔をしているのが、外からでもわかった。

「下劣な者というのは、品性だけではなく頭も足りないらしい」

 アジルの声も苛立っている。こんな奴らを相手になどせず、早く目的地へ向かいたいのだろう。

 しかし、冷静なのはワクァとアジル、それに数名の護衛兵だけだ。御者も、他の従者達も、皆して盗賊達の凶悪な面構えや抜身の剣に怯えてしまっている。

「……ワクァ」

「……はい」

 馬車の中から名を呼ばれ、ワクァは緊張した面持ちで頷いた。

「この場は、お前に任せる。傭兵奴隷の初仕事だ。見事にこなしてみせろ」

「……はい!」

 息を呑み、頷いてワクァは前に出る。大きな剣を懸命に持った幼い子どもに、盗賊達は侮蔑の笑みを浮かべた。

「何だぁ? こんなガキ一人に、俺達の相手をさせるつもりか?」

「やっぱり、タチジャコウ領主は血も涙も無い男だな」

「しかし、中々可愛らしいガキじゃねぇか。捕まえて余所の土地で売れば、結構いい値段になるんじゃないか?」

「さっき、領主がこのガキの事、傭兵奴隷って言ってたぜ? 奴隷なら、売られるのにも慣れてるだろ」

 盗賊達が好き勝手言っている間に、馬車は向きを変え、全速力で走り出す。完全に取り残された形のワクァは、ごくりと唾を飲み込んだ。

 今から、自分一人で四人の大人を相手に戦わなければいけない。本当の実戦は、これが初めてだ。負ければ、殺される。殺されなくても、別の土地に連れていかれ、奴隷として売られる。今の環境も決して良いとは言い難いが、それでも住み慣れた場所から無理矢理引き剥がされるのは怖い。

 カタカタと、手が震えた。その震えを抑えるために、ワクァはリラの柄をギュッと強く握った。柄が、陽光を受けて変わらずに輝いている。その輝きを見た時、ふとワクァは「大丈夫だ」と思った。

 自分は昨日、今まで持っていなかった力を手に入れた。この剣は、自分に危機を脱する力を与えてくれる。そんな気がした。

「おいおい、このガキ、固まってるぜ? かわいそうになぁ」

「とっとと楽にしてやろうぜ。なぁに、どんなに酷い場所でも、あの血も涙も無い領主に飼われているよりゃ幸せだろう」

 勝手な事を言いながら、盗賊達がゆっくりとワクァに近付いてくる。大丈夫だ、と、ワクァはもう一度声に出して、自分に言い聞かせる。鞘を握っていた左手が、リラの鍔を軽く撫でた。

「お前がいれば、きっと負けない。……そうだろう?」

 剣と、己に言い聞かせるようにして。ワクァは呟いた。そして、剣の長さを物ともせず、一気に抜き放つ。白銀の刃が陽光に照らされて、ひと際輝く。

 ワクァは、己と剣とを鼓舞するように叫んだ。

「いくぞ、リラ!」

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