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ガラクタ道中拾い旅  作者: 宗谷 圭
第9章 刀剣の国(ツルギノクニ)
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第4話  よく似た少女を拾う 4

「そう言えば、フォルコさんって王様と何か仲良いわよね? 他の大臣さん達と比べて、距離が近いと言うか……」

 歩いている間の手持ちぶさたに、ヨシがフォルコに問うた。何事か考え事をしていたらしいフォルコがハッとし、そして「あぁ……」と呟き苦笑する。

「他の大臣達と比べて、某は陛下と歳が近い故。それに、陛下の方が年上であらせられる。幼い頃は、よく陛下に遊んで頂いたものだ」

 その言葉に、ヨシはおろか、ワクァとトゥモも興味深そうな顔をする。それが、どこをどうしてツボにはまった物か、フォルコは楽しそうな顔をすると言葉を足した。

「仲が良いと言うなら、ウトゥア殿もそうと言えましょう。ウトゥア殿の亡き父上は、先代の宮廷占い師。幼き頃のウトゥア殿は、よく父上について城に出入りし、若かりし頃の陛下には歳の離れた兄のように接して頂いていたと聞きまする」

「へぇ!」

 ヨシが感嘆の声をあげ、ワクァとトゥモの目が興味深げに丸くなる。……が、ワクァの目は、すぐに険しく細められた。

 近くの茂みから、ガサリという音がする。そして、どうやら人の気配も。

「……フォルコ」

「えぇ。この辺りには盗賊が出没する事がある……という事ですからな。油断召されるな」

 フォルコは頷き、腰の剣に手を添える。ワクァも、リラの柄に手をかけた。トゥモは緊張した面持ちで身構え、ヨシは鞄の中に手を差し込む。

 目の前の茂みは、更に激しくガサガサと鳴る。一同は、いつ飛び出してくるかわからない相手に息を呑む。そして、ひと際大きく茂みが鳴った、その瞬間。

「覚悟!」

 甲高い声が聞こえたかと思った途端、背後の木、それも頭上から、小柄な人影が躍りかかってきた。

 ハッと振り向いたワクァ達の目には、襲い掛かってくる人物が手に武器を持っている様が映る。顔面に向かって真っ直ぐ飛んでくる武器に、ワクァはすかさずリラを抜き放ち構えた。

 キィン、という金属がぶつかり合う音が、辺りに響く。剣をぶつけ合った勢いを利用して、ワクァは後方に跳び退る。相手も、同じように退った。

 相手は小柄だ。ワクァよりも更に小さい。布を胸の前で併せた、不思議な形の服を着ている。たしか、出発前に読んだ文献に載っているのを見た。キモノと呼ばれる、テア国独自の衣装だ。

 長い黒髪を後頭部で括っているが、この国の人間は男も女も髪を長く伸ばすと言う。狐のような顔の不思議な模様の面を被っているため、性別は判然としない。

「てっ……テア国の盗賊っスか!?」

 未知の敵に、トゥモはナイフを構えながらも目を白黒とさせている。そして、何故かヨシとフォルコは「ん?」と首を傾げている。そんな三人に構う事無く、ワクァはリラを構え直した。

「盗賊か何か知らないが、襲い掛かって来るなら相手をするまでだ。いくぞ、リラ!」

「参りましょう、雪舞!」

 二人の声が被り、ワクァと狐面は「……ん?」と一瞬動きを止めた。声から察するに、どうやら相手は女であるらしい。手に持っている剣が雪のように真っ白い事を考えると、ひょっとしたら口にした雪舞というのは……。

 相手もワクァと同じ考えを持ったようだが、考えるのは後回しにしたらしい。再び剣を構え、ワクァに向かって斬りかかってくる。ワクァもリラを構え直し、刃と刃がぶつかり合った。キィン、と甲高い音が鳴る。

 互いに刃を押し付け合い、微動だにしない。膠着状態に陥っている。ワクァは、内心舌を巻いた。

 相手はどうやら女性で、己よりも小柄だ。体幹はしっかりしているようだが、それほど力があるとも思えない。ワクァとてそれほど力があるわけではないが、それでもこの相手よりはあるだろう。

 それなのに、相手は力で押し負ける様子が無い。恐らく、力点を見極めるのが非常に上手いのだろう。どこに力を入れ、どこは力を抜いても良いのか、よくわかっている。だからこそ、腕力だけなら格上であろうワクァと互角に押し合っているのだ。

 普段のワクァが、己よりも体格の良い相手に対しこのように戦っている。だからこそ、よくわかる。この狐面の女性は、強い。そして、戦い方がワクァとよく似ている。

 ワクァは少しだけ体を沈め、刃の位置をずらした。パワーバランスが崩れたところで一気に刃を滑らせる。すると、相手もそれに気付いたのか微妙に体を動かし、同じように刃を走らせた。

 再び、互いに剣を構え直し、数合刃を交え、同時に跳び退る。体勢を整えて一気に駆け、またも刃がぶつかり合う。

 ワクァが刃をぶつけ合った勢いのまま回転し、その勢いも刃に乗せれば、相手もまた同じように動く。一歩退くタイミングも、刃を振り上げる呼吸も、ほぼ同じ。互いに相手の動きを真似ようなどとは意識していない筈なのに、鏡に映ったかのように戦い方が似ている。

 その様子を、ヨシ達はしばらく呆気に取られて眺めていた。そして、戦いが長引いていると誰もが感じ始めた頃にフォルコがハッとする。

「いかん、感心して眺めている場合では……!」

 その言葉に、ヨシとトゥモもハッとした。あまりに見事な様子でついつい眺めてしまったが、今の彼らは傍から見れば〝真っ先に守るべきである王子一人に戦わせている従者〟である。もっとも、ここまで見事な戦いだとワクァ自身が「手を出すな」と言いだすかもしれないが。

「そうね。正直な事を言うと、もうちょっと見ていたい気もするけど……けど、あのお面の子……多分、そうなのよね? フォルコさん?」

「うむ。ヨシ殿も気付いておられたか。はっきりと申すが、どちらに何があっても、まずい」

「え? あのお面の子、お二人は知ってるんスか? 誰なんスか、あの子!?」

「すぐにわかるわ。はい、二人ともそろそろストーップ!」

 言いながら、ヨシは既に駆け出している。フォルコも続き、トゥモも慌てて後に続いた。

 フォルコが腰の剣を抜いて二人の剣を同時に弾き、二人が一歩後ずさったところでワクァをトゥモが、狐面の女性をヨシが後ろから羽交い絞めにする。

「おい、何をするんだ、トゥモ!」

「済まないっス! けど、ヨシさんとフォルコ様が……」

 そう言われて、ワクァは怪訝な顔をしてヨシとフォルコを見た。フォルコは、二人の闘志が静まってきたのを見届けると剣を鞘に収め、軽く息を吐いた。

「まったく……殿下が戦っている中に飛び込んでいくというのは、中々に勇気が要りまするな。それはさておき、殿下。このお方とは、これ以上戦ってはなりませぬ」

 ワクァが不思議そうな顔をしたところで、フォルコは視線をヨシへと向けた。ヨシは、背後から狐面の女性の顔を覗き込むようにしている。

「ほら、ワクァがマナーの勉強だなんだで、バタバタしてる時、私は暇潰しに図書室に入り浸ったり、城内や街の中で色々な人に話を聞いて回ったりしてるじゃない? だから、今回のこの旅、ワクァよりはテア国の事知ってるつもりなんだけどね」

「……だから、何だ?」

 首を傾げるワクァに、ヨシは「うん」と頷いた。

「それでね、こんな話を聞いたのよ。テア国の一番下のお姫様は、男も舌を巻くような剣の使い手で、時々領内を見回りと称して歩き回り、不審人物がいれば容赦なく戦いに持ち込む。勿論そんな事をする女の人は、そのお姫様だけだって」

「な……」

「……と、いう事は……?」

 ワクァとトゥモの目が丸く見開かれる。フォルコが、苦笑しながら狐面の方へと向き直った。

「これ以上戦い合って、どちらかが怪我でもしたら外交問題にでもなりかねませぬ。そろそろ、刀を収めては頂けませぬか? テア国第三王女、ヒモト=チャシヴァ様?」

「……仰る通りです。……お久しぶりでございます、フォルコ殿」

 凛とした声が響き、フォルコにヒモトと呼ばれた女性はゆっくりと面を外した。面の下から、まだ幼さをどこかに残した少女の顔が現れる。十六、七歳ぐらいだろうか。凛々しくも、可愛らしいと思える顔立ちだ。

「突然、不躾な真似をしてしまい申し訳ございません。剣を隠し持ち自ら敵陣に赴いたという貴国の王子殿下と、是非一度手合わせをしてみたいと思ってしまいましたもので……」

「あぁ、だから脇目も振らずにワクァを狙ったんスね?」

「けど、それなら普通に申し込めば良かったんじゃないの? ワクァ、こういう話は割とあっさりと引き受けるわよ?」

 ヨシとトゥモが二人を羽交い絞めにしていた腕を緩めながら言うと、ヒモトはふるふると首を横に振った。

「しかし、私がテア国の王女であるとわかっていたら、どうしても及び腰になってしまいますでしょう? 外交問題や性別による筋力の差は、真面目でお優しいという噂の王子殿下から本気を奪うには充分過ぎると思ったのです。ならば、正体を隠し、奇襲をかけるしかございません」

「そこで何故奇襲しかないという結論に達するんだ……」

 やや呆れた口調でワクァがリラを収めると、ヒモトもくすりと笑ってから剣を鞘に収める。たしか、雪舞と呼んでいたか。

「まふー、まふー!」

 マフの声が聞こえてきて、一同はそちらを振り向いた。マフが、背後の茂みに向かって鳴いている。茂みは、まだガサガサと音を立てていた。

「……え? そう言えばヒモト様、さっき木の上から降ってきたっスよね? けど、その前からこの茂みは鳴ってて……。そこ……誰がいるんスか?」

「あぁ……すっかり忘れておりました。……兄上、いつまでそこに隠れているおつもりですか?」

「え?」

「兄上?」

「……と、いう事は……」

 フォルコ以外の三人が固まった。王女であるヒモトの兄という事は、今茂みに隠れているのはテア国の王子というわけで。

「ヒモト、済まん! 覗いているうちに、枝の隙間から首が抜けなくなった!」

「ヒィちゃん! やばい! このままだと確実に兄上の首がやばい!」

 そして、どうやらテア国の王子は少なくとも二人以上いて、今この場にいる王子は少々頼りない性格であるようである。

 ワクァ達ヘルブ国一行は顔を見合わせ、ヒモトは額に手を当ててため息を吐いている。そして、全員揃って、茂みの中へと救出に行ったのであった。

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