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さあ面接の時間です2

「……は? カミ? 君ね。ここがどういう場所か分っているよね?」


 若い面接官はその言葉を聞き、とっさに反論してしまった。

 何なんだコイツは? 

 畜生。宗教関係じゃないだろうな。

 しまった。後

 が面倒だぞ。


「人と違った経験を話せ、と仰られたので。多分、神業はそれに合致しているかと」


「特定の宗教観についてここで議論することは出来ません。ご理解願います」

 年かさの面接官は慌てて話に割って入り、けん制のつもりでそう聞いた。


「いいえ。ご心配されているような宗教の話ではありません。あくまでも違う世界の話です」


「ああ、そう。では聞きますが、神様って具体的にどういうことするの?」

 若い面接官が再び噛み付く。

 安堵したと同時に腹が立った。

 どちらかというと意地悪のつもりで聞いた。

 マニュアルには面接官が興味を引かれた回答や具体的な話を聞いた場合、チェックを付けるように指示されている。

 図らずも、評価項目に一つチェックが付く。

 ちっワンポイントゲットだよ君。


「観察に時間を使うことが多いです」

「いやいや。それじゃあ神様の存在なんて意味がないじゃない。洪水起こしたり、カミナリで天罰与えたりするでしょう?」

 さあどう返す? 若い面接官は挑発した。

 社会人経験のない学生はこういった年上から頭ごなしに否定される意見に弱い。


「もちろんそういった仕事もやります。ただし、それはあくまで手段です。存在目的となる神の役割は、契約遵守というルールから外れないようにすることです。幸運なことに私の在任中は圧倒的多数が契約を遵守してくれています。結果的に観察が最も頻度の高い仕事になっております」

「なるほど。はは。このご時勢じゃ神様もコンプライアンスにうるさいんだ」

 冗談として受け取り、ジョークを返す。

 若い面接官はすっかり毒気を抜かれてしまった。

 クッションアンドリターン。

 全く気負いを感じられない柔らかな即答だった。

 この話は相当練りこんであるな。

 突っ込んでも意味がない。

 大方ゲームの話だろうが、この場でそんな話をするというくそ度胸を認めよう。

 ツーポイントだ。


「いや。君、中々面白い話だね」

 年かさの面接官も女の語り口に関心した。

 サークル長がどうだとかの作り話よりも、よほど清清しい。

 一次や二次を問わず、この会社の面接には最重要の評価項目があった。

 それは、堂々とした態度で臨む姿勢だ。

 話の内容自体は評価チェックには必要だが、重要なわけではない。

 なぜなら、個人の押しの強さはどんなに金のかかったプロモーションよりも、強い効果がある。

 顧客へ提供する商品が必ずしも一〇〇%応えられるわけではない。

 とても注文通りではない場合もある。

 だがそんな時でも顧客に一二〇%の満足感を与えられる者は優秀であると見做される。

 彼女はそれに不可欠な傲岸ともいえる力強さが見て取れた。

「ありがとうございます」


 一連の発言により、会場の流れは完全に女が持っていった。

 続く質問も、その女に興味を持った二人の面接官は、他の希望者の話をおざなりにしているのはありありと見て取れた。

 してやられた他の希望者五人は、そんなんありかよ、と思った。


 グループ面接と呼ばれる面接官と複数の学生の一斉面接は、一度流れを手元に引き込めば滅多なことでは失敗しない。

 流れを作り出した者に集中して会話が行われ、ポイントは加算され続ける。

 逆を言えば、流れを作れなかった者はよほどのことがないと復活できない。

 残りの時間はほとんど無視される。

 一々優しく引き上げてなどくれない。


 決まったな。と、思惑は各人違えどそう思った。


「おい、アンタ」

 鷹木は面接会場であるビルから出て、目当ての人物に小走りに近づき、声をかけた。


「何ですか」

 当の女は、特に何の感情もなく、そう答えたように見えた。

 微妙にサイズの違うリクルートスーツに身を包み、スーツの色とは対照的に肌の白い、鷹木よりも頭二つ分くらい小さい背の低い女だった。


「何ですかじゃねえよ。さっきの作り話のせいでこっちは散々だったっつーの」

 面接官たちは冗談のようなあの場の空気に乗せられ、女を評価したがそうはいかない。

 こんな理不尽なことがあってたまるか、と鷹木は思った。


「作り話? いいえ。本当のことですよ」

「ふざけんなよ。面接中にあんなこと言って良い訳ねえだろうが」

 ココを受けるまでにどれだけの時間が掛かったと思っているんだ。

 エントリーシート、ウェブテスト、適正試験、履歴書、ペーパーが通って初めて受けられるんだぞ。

 ウェブテストはちょっとゼミ生に手伝ってもらったが。


「あなたの作り話は良いんですか?」

「……はあ?」こいつ。開き直りやがった。


「だって、あの中で本当のこと言ってた人なんて一人もいなかったじゃない」

 女はにやりと口角を持ち上げた。

「それは、その、アンタも就活してるなら分るだろ? 少しぐらい話盛ることなんて当たり前なんだよ」正論だけで世の中渡れるわけねえっつの。


「存在しないサークル活動をでっち上げるのが良くて、私の話は作り話呼ばわりなんて、一方的過ぎるんじゃない?」

「あんな話ありえないだろ」マジありえねえ。


「ありえそうな話なら、嘘をついてもいいの?」

「はっ。アンタが神様なら証拠だしてみろよ」


「遠慮しておくわ」

「だよな。アンタは嘘つきで、適当な話をでっち上げて、俺たち全員に迷惑をかけた」目立ちやがって。


「……それで?」

「落ちても受かってもどっちでもいいんだろ? 真面目に就活してるならあんなこと言わないもんな」図星だろ。


「本当のこと言ってあげましょうか?」

「何だと」


「あの面接官たち、貴方たちの嘘なんか全部お見通し。私が何を言ったって一人もあの中から選ばれませんでした。残念」

「は、はああ?」コイツ!


「面接官がシートに書き込んでいたのを見てたでしょう? チェックマークを合算して1ポイント以上の評価ポイント上位二人までが合格。シートの上のほうに評価項目について書いてあったのが見えたの。私以外評価ゼロだったから、合格したのは私一人」

「う、嘘つけよ。だってあんな距離なのに見えるわけないだろ」


「ありえそうな話でしょ? 貴方の副サークル長の話よりは」

「ふざけんなっ」図星を点かれ、かあっと頭に血が上った。顔を近づけ、凄む。「謝れよ、おい」余裕ぶりやがって。


「なぜ?」

「俺に迷惑をかけたからだ」


「……貴方。さっき証拠がどうとか言ってたわね」


「あ?」


「特別に見せてあげる」

 女の口角がくいっと持ち上がるのが見えた。

 鷹木は妙な圧迫感と存在感に気圧された。

 ふつふつと心の隅から恐怖心が湧き上がる。何だ……コイツ……。


「特別に特別扱いしてあげる。長いことやっているけど、何にも加護を与えない人は貴方が初めて。貴方には特別になーんにもあげない。人とは違った経験をさせてあげるわ。良かったね。だって次の面接のネタが増えるのよ。うふふふふ」


 楽しそうに女は笑った。


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