さあ面接の時間です
「では質問です。これまでの大学生活でどんなことを学んできましたか? 人と違った経験をしていたら私たちに教えてください」
「志望動機は左からだったので、右から行きましょうか」
鷹木はサークル活動と副サークル長としてのサークル自治について、昨日覚えたとおりに語った。
その時の六人の希望者の中に副サークル長は鷹木を含め二人いた。
鷹木は、かぶったじゃねえか変えろよ、と心の中で文句を言う。
残りの一人はサークル長で、もう一人はバイトリーダーだった。
どれもこれも就活サイトで一度は聞いたことがあるような話しだった。
ウェブサイトや先輩や同期が言うには、学業以外のことを答えないといけないらしい。
面接中にもかかわらずそんなことを思いだした。
人事担当官自身も大学時代勉強してこなかった人がほとんどだから、というありそうな理屈を加えてくる。
○○先輩はあそこ受かったらしいよ。
マジかよ。
あの人二年のとき入門経済学Ⅰ落としてるのに。
やっぱり勉強のこと言わないほうがよくね。
そんなことを同じ就活中の友達と話し合ったことを思い出した。
そう言えば、本当に勉強で頑張っている人はどうするんだろうか? と全く見当違いの同情を鷹木は一瞬したが、すぐにそんな知り合いがいないことに気付き、どうでもいいやと考え直し面接官に目を向けた。
やべえ、と思った。
二人の面接官のうち、若い方があくびをかみ殺したのを見たからだ。
年かさの面接官はすでに興味を失っていた。
公正な人材発掘という名目の下、面接の評価はある段階まではマニュアル化されている項目によって進む。
基本的にほとんど同じ質問を行う。
しかし、この手の質問をさせる人事部の評価項目に何の意味があるのだろう、といった疑問も持ってしまう。
「人と違った経験」なぞ面接官自信が聞かれても、答えるのにつまるような質問だ。
そもそもこの会社も特別優れた人間を想定しているわけでなかった。
スーパーマンなんて望んでいない。
サラリーマンを求めているのだ。
普段の生活をいかに素晴らしい物であるかのようにアピール出来ればとりあえず及第点なのだが、就活中の学生は素直で無垢である。
慣れないスーツを着て、年上から丁寧語を使われる。
就職活動というこの場の空気に支配されないように気負い清廉潔白な回答しかしない。
おそらく昨日暗記したのであろう想定問答も何度か聞けば、大体パターンが見えてくる。
リーダーシップかトラブルシューターのストーリーに集約される。
結果、捏造されたサークル活動を喋る。
口元に手を置くのは、自身の無さの表れじゃないのか、君?
どの面接本にも書いてあるアドバイスで意地悪したくなる。
せめて部活動だったらなあ、と年かさの面接官は思った。
野球とかラグビーなら最高なのに。
このグループは全員ダメかな。
さあ度胸を見せてみろ。
若い面接官はそう思った。
目立てばなんでも良いから。
本当かどうか調べる気なんてないからもっと面白そうなの来いよ。
この場での評価項目の正解は、何でも良いから興味をもたれること。
つまり、面接官に突っ込まれて聞かれることだ。
それは一体どういうこと? という疑問を沸き上げるような面白い話題構成なら何でも良い。
クロールで東京湾を制覇したと語った学生もいたし、パラシュートで高度5000メートルからダイブした者もいた。
サンドアートをやりにエジプトまで行った者もいた。
どうせ嘘つくならもっとデカイのよこせ。
眠いんだよ。
じゃあ次、ええと、三虎春菜さんね。
最後の一人、さきほど一番最初に志望動機を語った女が口を開いた。
「違世界の神をやっております」
面接会場である会議室にいたその女以外の七人全員が固まった。