5.女神の体内
私とレイナード様、そして先導するヤロミール様の三人は騎士団の皆様がいる階へやってきました。
四階はあまり人気もなく、閑散とした様子でしたが三階は一転騎士の皆様が忙しなく働いています。
「城に詰めている騎士は、全員国の実務を担う官僚でもあるんですよ。有事の際は将として派遣されたり、王族・貴族の護衛をしたりします」
「そうなんですか!やはり、人間界とは違うんですね」
やっぱり、ヤロミール様の説明は聞いていて分かりやすいです。
「エルンスト様!それに、ヨアキム様も!お疲れ様です」
前の方から、エルンスト様とヨアキム様が歩いてやってきます。
二人とも帯剣し、これからどこかへ出かけるような出で立ちです。
「やぁ、二人ともこれから野外訓練にでも行くのかい?」
ヤロミール様が声をかけると、エルンスト様は嫌そうにヨアキム様は嬉しそうに肯きます。
「はい、そうなんですよ。……ほんと、毎日野外訓練でもいいくらいですよ。なぁエルンスト?」
「誰かが、書類を溜め込んでその尻拭いをさせなければ。なぁヨアキム?」
二人の様子を見ていた、ヤロミール様は苦笑交じりで。
「あまりにも多いようなら、私も手伝うから持っておいで。そういえば、今回の野外訓練は確かラーミィ王女の鷹狩りの打ち合わせだったね?」
「ええ。わずかですが、獰猛な生物もおりますので念入りに」
騎士のお二人とヤロミール様、レイナード様も交えて話が始まってしまいました。
私が口を挿める事でもなく、どうしようか困っていると私に向かって手招きしている男性がいました。
何か御用でもあるのかもしれない。
そう思って、私はその男性に尋ねました。
「あの、何か御用でしょうか?」
顔立ちが、どこかレイナード様に似ている男性はきょろきょろ辺りを見回すと私に「案内してあげようか?」と仰います。
*
「名前は、アンソニー・ボイヤット。騎士団の団長を務めている。……決して、君をナンパしようなんて思ってないさ」
さすがに私も、団長だというアンソニー様がナンパするなんて思っていませんが。
「ヤロミール殿から、君の話を聞いてずっと会いたいと思っていたんだ。……彼らも忙しいようだし、一緒に行かないか?」
お仕事の邪魔をするのも、と思ったのでお言葉に甘えて私はアンソニー様の案内で場内を巡る事になりました。
長い長い、緑色の絨毯が敷かれた廊下を、今度はアンソニー様と一緒に歩きます。
「正式名がアムルタート城だというのは知っているかな?……そう?じゃあ、絨毯の色の由来は聞いているかな?」
私が、「知りません」と答えるとアンソニー様が続けて教えて下さいます。
「この城はね、女神アムルタートの体内に見立てられているからなんだ。我々が姿を模す事によって、国家の安泰と繁栄を願う。そんな意味がある」
「そうなんですか……人間の感覚だと、敬意を払っているものを足で踏むのはどうかと思うのですが」
敬う女神の血液、人間の感覚だと敬う神様の一部を足で踏むなんてどうかと思ってしまいますが魔界では違うようです。
「そこは感覚の違いかなぁ?でも、人間も魔人も神の加護を受けたいと思うのは変わらないだろう?」
確かに、時代や地域によって感覚が違っても不思議ではないのかもしれません。城内も建国当時からほとんど変わらずに維持されているそうです。
「我が国は、上の階になるほど位が高くなる。三階にいる騎士には一人に付き二階の下士官二人が付く。団長は特別に、三階の騎士の中から二人付いている。エルンストと、ヨアキムがそうだよ」
魔界にやってきてから、やけに高位の方と知り合いになって正直驚いています。
「ヨアキムは、剣術は騎士団一だしエルンストは実務に優れている」
どこか一つ、秀でた所がないと三階には上がってこられないという事でしょうか。
両方の階を見ましたが、作りはほぼ一緒で簡素なものでした。
人間も魔人も、階級を気にするのは一緒なのだと思うと少しおかしいです。
「さて、これで政務棟は一通り回ったから次は使用人棟に行こうか」
私は、アンソニー様と共に使用人棟に向かう事になりました。




