3.誘いは突然に
日々の家事をこなしていると、私を迎えに騎士の方がやってきました。
「――――俺の名は、ヨアキム・ハッキネン。王国騎士団に所属してる。カミラ・イランソだって聞いてるけど、間違いないよな?」
炎のような、真っ赤な髪と瞳はとても華やかで訓練で鍛えぬいた肌は健康的な褐色です。
「はい。……どうかなさったのでしょうか?」
ヨアキム様は、どういう理由があるのか知らないようです。
「ところで、カミラは何処に住んでるんだ?」
「ヤロミール様のお屋敷の一室をお借りしていますが、それが何か?」
一室をお借りしていると言った途端、ヨアキム様は驚いて目をぱちくりさせています。
「使用人を住まわせるのはいいけど、ヤロミール様独身だろう?それなのに、一人だけしかも異性の使用人だもん。……下衆な勘繰りをする奴もいるから、喋らない方がいいぜ。特に城では」
「……確かにそうですね。うっかり口を滑らせないように気を付けます」
魔界まで来て、職を失いたくないのでしっかりヨアキム様の忠告を心に刻みつけます。
「終わったな?じゃあ行こうぜ。待たせると、ヤロミール様に悪い」
屋敷から城まで、道行く女性が振り返り横にいる私を睨みつけてきます。
これは、城でも注意しないと同じ目に遭いそう。
「あ、そうそう。俺、生粋の貴族じゃないからあんまり敬語とか気にしなくっていいからな」
あくびをしながら、大きく伸びをするヨアキム様はまるで少年のようです。
「一介の使用人に過ぎない私が、騎士である貴方に敬語を使わないのはちょっと……」
ヨアキム様は不満気でしたが、女の嫉妬の怖さは身に染みて分かっていますから譲るわけにはいきません。
「ヤロミール様に使える女性が、常識をわきまえた人で良かった」
「……ちっ、エルンストかよ」
慌てて振り返ると、一人の男性が立っていました。
エルンスト様は、白い肌に深い緑色の髪の男性でヨアキム様を睨んでいます。
「私の名はエルンスト・ヴィーダー。そこの赤毛と同じ、騎士団所属です。……君、おかしな事はされていないか?」
ヨアキム様は、ヤロミール様に呼ばれた私を迎えに来て下さったのだと説明するとようやく納得して頂けました。
「二人とも私の馬車に乗るといい」
エルンスト様は、私達を馬車に乗せて下さりヴィーダー家の馬車という事で乗っていた私は全くチェックされる事もなく城内に入る事が出来ました。
「ありがとうございました、エルンスト様」
ヨアキム様はどかどかと、私は丁寧に礼を言いながら馬車を降ります。
「お前達だけでなく、私もヤロミール様に用があるから一緒に行かせてもらうぞ」
嫌そうなヨアキム様と、臆せず堂々と城内を歩くエルンスト様から距離を取りながら歩きます。
*
「ヤロミール様、カミラ嬢をお連れしました」
部屋の前で、ヨアキム様が声をかけると中からヤロミール様の声がします。
「どうぞ、さぁ入って」
声がかかったので、室内に入ると広い室内には書類の山に囲まれるヤロミール様とソファーでくつろぐレイナード様の姿が。
「二人ともありがとう。エルンスト、これが例の書類だ。ヨアキムは使いありがとう。本当ならもっと別の者に頼むべきなんだが」
ヨアキム様は、照れくさそうに軽く礼をして。
「いやぁ、ヤロミール様の頼みを断ったなんて言ったらうちの親に拳骨食らいますよ。お前いつからそんなに偉くなったんだって」
レイナード様は、恐らく内容を知っているのでしょう。
笑みを浮かべながら、私を興味深そうに観察しているようです。
「魔界に慣れない君には悪いが、今後は城でも私の傍で働いては貰えないだろうか」
「ヤロミール様のご命令ならば……と言いたい所なのですが、何か粗相でもしないかと心配で」
主であるヤロミール様に、泥を塗ってしまわないか本当に心配です。
「やって貰いたいのは、城の中の使いと私と客人にお茶を出す位だからそれほど心配しなくてもいいと思うけどね」
「そうですか……?」
その位の事なら、まだ魔界に不慣れな私でもどうにかなるかもしれません。
「レイナード様は、もうそろそろ剣術の訓練の時間でしょう。二人とも、悪いが逃げ出さないように目を光らせておいてくれ」
「ちぇっ、もうそんな時間かよ~。分かった、行こうぜ二人とも。今日こそは、ヨアキムから一本取らなくちゃな」
レイナード様は、騎士のお二方を伴って訓練場へ。
「少しだけ城内を案内しておこう。明日から迷わないようにね」
そうして、私はヤロミール様と共に城内巡りをする事になりました。




