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2.貴族の結婚事情?

「おい!レイナード様を見ていないか!?……くそっ、一体何処へ行かれたのだ!」

そう言って、兵士の方が数人行方を捜しに走って行かれました。

ここはソーマ王国の首都、ハドルシェ。

私は新たに、ヤロミール・ガシュパル様のお屋敷で働く事になりました。

お屋敷と言っても、二階建ての近くにある民家とほぼ変わらないくらいの大きさで使用人も私一人しかいないのです。

「兵士の方達は、皆行ってしまわれたようですよ」

洗濯物を取り込みながら、部屋にいるレイナード様に声をかけるとやれやれとため息をつきながら奥の部屋から出てきます。

「しつこい奴らだ、全く……」

レイナード様を宥めつつ、私は紅茶を入れようと準備をはじめます。

水を入れると、紅茶に適した温度に一瞬でなりしかも冷める事がない特別製のポットに入れたら湿気らない金属製の缶。

人間界なら、高価で貴族ですら容易に手の出せない値段の品ばかりです。

                *

「何かあったら困るからではないですか?」

私が紅茶を入れながら、レイナード様にそう言うと嫌そうな顔をしながらクッキーをつまみます。

「……お前までそんな事言わないでくれよ。今日だって、ヤロミールにくっ付いて人間界に行ったのがばれて大目玉食らったんだから」

ヤロミール様は、国王陛下の持病の為に人間界にしか生えない野草を取りに行く時私に出会ったのだそうです。

「分かっております。今は、ヤロミール様もおられませんし……ごゆっくりどうぞ」

しょっちゅう、レイナード様が城を抜け出すのでハドルシェ周辺ではレイナード様の顔を知らぬ者はいないらしいと市場で聞きました。

「助かるよ……!城だと早く妃候補を選べってうるさくって」

長いソファーに、ごろりと横になるレイナード様は本当にお疲れの様でした。

「貴族の皆様方も、レイナード様が心配なのですよ」

レイナード様は、聞きたくなさそうに反対側を向いてしまいました。

「昼食の準備をしますので、失礼いたします。しばらくしましたら、またおかわりをお持ちしますね」

私は、ヤロミール様がいつお戻りになってもいいよう、簡単な食事を用意するのが日課です。

台所に立ち、サンドイッチを作り終え玉ねぎのスープに取りかかった時外でドスンと重い物を落とした音がなりました。

「ヤロミール様!だ、大丈夫ですか!」

慌てて扉を開けると、大量に革で出来た分厚い装丁の本にヤロミール様が埋もれていました。

「いたた、カバンが壊れてしまった……さすがに、この量は無理だったか」

革製の丈夫なはずの鞄の底が、ばっくりと抜けてしまっています。

「ああ、これはもう使えませんね……。それよりも、申し付けて下さればお持ちしましたのに!」

ヤロミール様の背中を押して、無理矢理中に入れると本を拾い集めます。

「魔法薬に、毒薬、『人間を操る十の言葉』!?……こっちは恋愛小説……」

本の種類は様々の様です。

とにかく、丁寧に土を払い何冊かづつ部屋に運びます。

使用人たるもの、主人であるヤロミール様のご趣味に口を出してはいけないと思うものの本の種類の幅広さに驚いてしまいました。

全部運び終えた時、ちょうどヤロミール様がサンドイッチを食べ終わったようでした。

「悪かったね……。随分重かったろう?市場に、新しい本屋が出来ていてついつい買いすぎてしまった」

私が運んだ本を、ヤロミール様は目を輝かせながら手に取っています。

「そう言えば、レイナード様は来ているかい?買い物の途中、王子を探す兵が何人もいたから」

                 *

「はい、奥にいらっしゃる……あれ?いない」

まだおられるだろうと、応接室の扉を開けたもののいません。

カップがまだ、ほんのり暖かいのでそう遠くに行かれた訳ではないでしょうが。

「来年即位が決まっているのに、まだ城を抜け出すとは……」

国王になれば、安全の為城下に出る事は難しくなるので出来るだけ遊んでおきたいのだとヤロミール様が仰いました。

「そうですか。来年即位されるという事は、お妃様選びに入られているんですよね?」

私の何気ない質問に、ヤロミール様は顔を曇らせてしまいました。

「そうだね、国内と国外で何人か……。だが中々、レイナード様がいいという相手が見つからなくてね」

魔術のかかった本棚に、本を収納しながらヤロミール様は嘆いています。

「家臣である私達に、適当に選べと言うばかりで……次期王として、結婚は好きでするものではなく義務だからという事を繰り返すばかりで」

苦笑しながら、それでも何とかお眼鏡に叶いそうな相手を選んでいるそうです。

                *

「それはそうと……。こちらに来て、君ももし結婚したいと思うような相手が見つかったら紹介するんだよ」

まさか、自分にそんな話をされるとは思っても見ませんでした。

将来を誓い合いたいと思うような相手……。

人間である私と、結婚してくれるような魔人の方はおられるのでしょうか。

「人間界のどんな生物も、魔界で暮らすうちに空気中に無数に存在する魔素が体内に吸収され条件は魔人と変わりなくなるから気にしなくていい」

それは初耳でしたが、それを抜きにしても私と結婚してくれるような相手がたった数日で見つかるはずもなく。

「そんな時が来ましたら、是非ご報告します。……いつ出来るかは分かりませんが」

笑いながら、食べ終わられてしまったようだしスープは夕食に回そうなどと考えていると。

「君の好きにすればいいけどね。僕も陛下に、散々嫁を貰えとせっつかれているからあまり無理強いできる立場にないし」

事情があるにせよ、貴族でありながら長年独身なのも確かに変わっているでしょう。

奥様が亡くなったとか、そういう事もないようですし。

「大臣の一人であるのに、結婚していないのもおかしいとね。……確かにそう突っ込まれると弱いのだが」

そう言うと、ヤロミール様は笑いながら書斎へ行ってしまわれました。

私から見ても、ヤロミール様はかなり魅力的です。

この先も、今までだって、地位もあれば容姿も端麗なヤロミール様を女性は放っておかないと思いました。

「……あっ!肉料理がいいか魚料理がいいか聞くの忘れちゃった」

主の女性問題を気にする前に、私は美味しい物を食べて頂かなくちゃと財布を握りしめて市場へ向かいました。


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