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1.カミラが魔界に来た理由

1.カミラ・イランソの事情


私の名前は、カミラ・イランソ。

さる貴族のお屋敷でメイドをしていました。

身寄りもなく、孤児院で過ごしていた時に拾われそこからは仕事の一切をそのお屋敷で仕込まれたのです。

その事に関しては、非常に感謝していました。

毎日決まった食事が与えられ、給金までもらえるなんて孤児院育ちの私からすれば破格の待遇ですから。

ただ、それ以外のすべてが絶望的にひどかった。

主人がメイドに手を出すのは当たり前、メイド同士も仲が悪くて喧嘩が絶えない。

そんな中でも、自分では上手く立ち回ってきたつもりでした。

が、ある日の事突然奥様に呼び出され不倫したとの疑いをかけられた挙句に同僚の金を盗んだとメイド長に疑いをかけられてしまいました。

必死に私は、身の潔白を証明しようと何度も何度も奥様とメイド長に申し開きしようとしましたが聞いて貰えずにこの有様です。

「私、何にも悪くないのに死ぬのかなぁ?」

もうすぐ、冬の月。

さまよい歩いて、やっと見つけたあばら家とはいえひどい時は何日も雪の降るこの土地で準備もなしに過ごしたら確実に凍死してしまいます。

そういえば、三日ほど食事をしていません。

「凍死する前に、餓死するな……」

思い出すと、余計にお腹が空いてきます。

途中見た限りでは、あたりに生えているのは毒のある植物が多く今食べたら確実にのた打ち回りながら死ねるでしょう。

「まぁ、仕方ないか……」

身寄りのない私は、後ろ盾がある訳でもなく身に付けた技能といえば家事ぐらいのもの。

なんて、後ろ向きな事ばかり浮かんできて生きる気力なんて湧きもしません。

寝る所もないので、隅に置いてあったワラの上で横になる事にしたのです。

                   *

横になると、段々意識が遠のきます。

しかし、しばらくするとどこからか馬のひづめの音が聞こえてきました。

その音は段々、小屋に向かって近づいてきます。

「誰だろう……?」 

ここは、都からは遠く離れた端の森。

すれ違う人も、ほとんどいないようなへんぴな場所なのにひづめの音が複数聞こえてきます。

起き上がる気力も湧かず、確かめるのもおっくうで寝たままでいると外でがちゃがちゃ音がします。

「何?どう……したの?」

さすがに気になり、おっくうではありましたが起き上がり外の様子を見に行くことにしました。

そっと、小屋の戸を開けて外を見ました。

するとそこには、二頭の馬と二人の男性の後ろ姿が。

一人は、背が高くて銀色の長い髪を三つ編みにし金色の髪留めをしていますが顔は見えません。

もう片方も、背が高いですが黒の短髪で魔術師らしく黒のローブを着ています。

二人とも、見るからに貴族のような風貌でどうしてこんなへんぴな端の森にいるのか全く分かりません。

「ヤロミール、あと一体どのくらいかかるのだ?」

黒髪の男性は、ヤロミールという名前のようです。

「ここまで来れば、伝送玉が使えますから一瞬で。しかし、人間界は良く国の名が変わるものですね……人も随分増えておりますし」

伝送玉?人間界?

聞いた事のない単語でした。

鬱蒼とした森だけが広がるばかりで、近くに貴族の屋敷などはないはずなのに。

「全くだ。……魔界に比べると、騒々しいな」

魔界?今、あの二人は魔界と言った?

二人は、私が小屋から覗いているのに気が付いていないようでした。

言葉の意味を考えているうちに、私は足元の木につい力をかけて「バキリ」と音を立ててしまいました。

音が鳴るのと同時に、二人は一斉に音のする方つまり私を見ると睨みながら近づいてきます。

「人間の女?……おい、何故そのような所にいる?」

見つかってしまっては、答えないわけにはいきません。

「わ、私の名前はカミラ・イランソと……言います」

恐らく、返答によってはすぐに私を殺すつもりなのか銀色の髪の男性は剣の柄に手をかけています。

「名前など聞いてはいない。何故ここにいるのかと聞いている」

そう告げると、再び銀色の髪の男性は剣の柄に手をかけ直しました。

「わ、私は……さる貴族の屋敷で、メイドをしていました……けれど、その屋敷の奥様に……主人との不倫を疑われ……同僚の……金を盗んだと疑いをかけられて……首になり、屋敷を追い出されてしまいました」

                    *

「それでここにいたと?証拠は?」

死ぬのが怖くて、震えながらつっかえつっかえしてやっと答える事が出来ました。

気に障るような事を言えば、間違いなく殺されると思うとどんどん涙があふれて止まりません。

「しょ、証拠!?そんなのありません。持ち物だって、何も持たせて貰えなかったのに……」

着の身着のままで、証明できるものなど何も持ち合わせてはいないのですから。

「カミラと言ったね?……どうだろう、私と一緒に魔界に来ないかい?」

ヤロミールさんの声は優しく、私を気遣ってくれるような雰囲気が滲んでいます。

私が首を振って、ヤロミールさんにいない事を伝えると「ううん」と一言。

「おまっ、勝手に魔界に連れ込むつもりか?」

「もちろん、後で王に報告致しますよ?無断で人間界に来るような、自覚のない魔人と違ってね。私の屋敷には、今使用人が一人もおりませんから丁度よろしいでしょう」

私は黙って、事の成り行きを見守る事にしか出来ません。

「滅多に人間界に帰っては来れなくなるが、それで良ければ我々と共に来るかい?」

異界がある、なんて事は今まで一度も聞いた事がありません。

ぼろぼろの私は、ひょっとしたら私はもう死んでいるのかもしれないと思いつつ「はい」と答えました。

そして、この日から私の魔界生活が始まったのです。


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