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異界監査官vs狼女(2)

「ふざけやがって…結局こうなるのかよ。」

ソファーに体を投げ出し、苦々しげに文句を言う零児。

「だからごめんて。」

苦笑いを浮かべながらも両手を顔の前で合わせて謝っているのは、先ほどの茶髪の女性だ。あのあと、言葉による意思疎通に成功したものの、無慈悲にも次元の門(プレナーゲート)は閉じてしまった。閉じてしまったらどうする事もできない。そういう訳で零児、セレス、リーゼ、レランジェの4人は異世界人の女性を連れて零児の家で絶賛待機中であった。ちなみにリーゼはお風呂へ入っているため、彼女とレランジェはリビングにはいない。彼らがここで待機しているのは、異界監査官達を束ねる存在、つまり日本異界監査局局長の法界院(ほうかいん)誘波(いざなみ)を待つためだ。しかし、彼女の性格ではかなり時間を引き延ばすに違いないと零児は見積もっていた。仕方ないのでそれまでに情報を得ておく。

「いや~、ホントごめんよ?テンパとって敵味方の分別もつかんかったで…。そうじゃなかったら今頃仕事増えとらんかったら?」

茶髪の女性―サンティというらしい―は何度目か分からない謝罪の言葉を述べた。そんな彼女に、セレスは怪訝そうな顔を向ける。

「しかし、何故あの時我々に向かってきた?」

セレスの問いに、サンティはうーんと考えるそぶりをした。

「それまで訳あってど強い怪物達と戦っとったじゃんね。一応そいつら倒しただけど、油断ならん相手だったもんでずっと警戒しとって・・・で、突然見知らぬ人が現れたからつい。」

つまり、臨戦態勢に入っていた彼女に敵であると誤解され、そのまま襲いかかってしまったという事だった。迷惑きわまりないことではあるが、異世界へ飛ばされてしまったという事を考慮すると必ずしも責め立てられることではない。二人ともそれ以上は聞こうとしなかった。

「ところで、お前これからどうするんだ?元の世界に戻るんだろ?」

「ん~、別に今は戻ろうとは思わんかな。」

零児の言葉に、サンティはあっさりと返す。

「…サンティ殿は帰りたくないのか?」

セレスが悲しげな声音で尋ねる。彼女もまた、異世界より迷い込んだ身であった。それ故、自分と重ね合わせていたのだろう。

「まあ、帰らんでも何とかなるら!」

「ずいぶんポジティブだな、オイ!」

サンティのにこやかな一言に、零児がすかさずツッコミを入れる。が、当の彼女に悪びれた様子は微塵もない。

「だって、くよくよ考えとってもしゃーないら?だったら前向きに考えていかんと。」

そういう問題じゃないだろ、と零児は突っ込みたくなったが、疲れるだけなのは目に見えていたので口には出さなかった。ただ、それがため息となって漏れ出す。サンティは話を続ける。

「それに、少なくともここはあたしを“人”と認めてるみたいだし、過ごしにくくはないかなあと。」

彼女は一定以上の意思を持っている。例え怪物じみた狼の姿になっていたとしても、こうして話が通じる以上は“人”なのだ。そして、異世界人の保護も異界監査局の重要な仕事。つまり彼女は保護の対象であり、監査局のサポートの元、暮らす事ができる。


 とそこへ、リーゼがリビングに戻ってきた。頬を少し紅潮させて、ご機嫌そうに金髪を揺らしている。彼女とサンティの目が合った。

「ちょっとお前!さっき止められたからここでわたしと決着をつけなさい!」

ルビーレッドの瞳を好戦的に輝かせ、小さな胸を張って宣言する。零児は慌ててそれを止めにかかった。

「いや、あたしに被虐趣味はないし、やめとくわ。」

対するサンティは暴れたがりな子供を見るように(実際そんな感じだが)平然としていた。断られたリーゼはムッとした表情を浮かべたが、すぐに楽しそうな笑みに変わった。

「一発で灰にすれば苦しくなんてないはずだわ!」

「何を言い出すんだコラァ!?」

リーゼの物騒な発言に、零児が声を荒げる。冗談抜きに、彼女は言ったとおりのことをやってのけてしまいそうだと知っているからだ。宣戦布告をされたにもかかわらず、サンティはやはり落ち着き払っている。

「文字通り一撃で殺ってくれるなら嬉しいだけどね、さっきみたいななまっちょろい炎だったら多分無理だれ、やめときん。」

サンティはリーゼを止めようとして言ったのだろうが、彼女の言葉はリーゼにとって挑戦状以外の何者でもなかった。こいつさっきは被虐趣味はないと言ったばかりじゃないか?と首を傾げる零児をよそに、リーゼは瞳にますます好戦的な光を宿す。

「そんなのやってみなければ分からないでしょ?それに、さっきのは本気じゃなかったのよ!」

ムキになって叫ぶリーゼ。サンティは快活そうに笑った。

「本気を出せば“不死”を覆せるくらい最強だってこと?にゃはは、だったらお目にかかりたいわ~」

「「は?」」

さらりと流すように放った単語に、サンティとレランジェ以外の全員が唖然と固まった。先に我に返ったセレスが恐る恐る尋ねる。

「“不死”?どういうことだ?」

「ん?どういうことも何も、あたしが不死身だってことだけど?」

「だから、何で不死身なんだよ!」

首を傾げるサンティに焦れ、零児がツッコミを入れる。そこでサンティはそういうことか、とでも言いたげな顔になった。

「何でって・・・まあ、大方こいつの所為だら。」

そう言うなり、サンティの体が変化する。口は耳の辺りまで裂けて鋭い牙が覗き、衣服ははだけて代わりに白銀の体毛が生える。耳は頭の上の方に移動し、手にも足にも鋭いかぎ爪が現れた。次元の門を通ってきた時と同じ、真っ白な狼の姿に変化したのだ。目の前で起きた事とは言え、思わず身構える。

「狼男…?」

確か、普段は人の姿をしているが、狼に変身する能力を持った怪物。変身している間は事実上不死身だと言われている。

「いや、そう言いたい気持ちは分かるけど、あたしは男じゃないからね?せめて、狼人間(ワーウルフ)って呼んでくれん?」

狼の姿になったまま、サンティは気持ち笑った。声は人間であった時よりもいくらか低い。言われて、零児は自分の発言が軽率であったことに気付いた。女性を男呼ばわりするのは失礼というものだ。

「悪い。で、やっぱり満月の夜に変身したり銀の弾丸が弱点だったりするのか?」

「いや、そう言うのは全部迷信じゃんね。正真正銘(・・・・)の狼人間はそんなヘマせんに。」

零児の問いに、変身を解きながらサンティが答える。いつの間にか服を纏っており、零児が期待する暇も与えなかった。サンティは説明を続ける。曰く、満月の夜に変身するというのは人の中で暮らすには不便な弱点でもあり、自分たちは自らの意思とは関係なく変身する事はないのだということ。曰く、銀の弾丸が弱点である事も噛まれると感染するということもホラー映画での設定であり、事実でないということ。ただし銀というのは自然の気が強く、傷が深くなるのは間違いないということ。零児もセレスもリーゼまでも、興味津々で聞いていた。

「こうして聞くと、怪物と言うよりは人間じみているのだな。」

話を聞き、セレスがしみじみとつぶやく。

「だら?そう言ってもらえると嬉しいやぁ~」

サンティは照れ笑いを浮かべ、頭をかいた。



 突如、部屋の中に風が吹き荒れる。と同時に、おっとりとした声が響いた。

「お待たせしました~。皆さんのアイドルイザちゃんです♪」

風の中から現れたのは、十二単を身に纏い、見た目18歳ほどの女性。

「お前はもっと普通に登場できないないのかよ、誘波ィ!!」

叫んで女性―誘波に食ってかかった零児だが、直後不可視の力に押さえつけられたかのように床にたたきつけられた。実際は、彼女の操る風の力に上から押しつぶされたのである。顔は笑顔のままだ。

「ど、どちら様?」

誘波の突然の登場に、サンティは状況が飲み込めていない。そんな彼女に、誘波はにっこりと微笑んだ。

「私は異界監査局長の法界院誘波といいます。」

「サンティっていいます。えと、零児くんと電話で話しとった人かん?」

ええ、と答える誘波。それでサンティも納得したようだった。

「みんなありがとね!何か零児くんが今残念な事なっとるけど、この借りはいつか絶対返すで!」

笑顔で手を振り、サンティは誘波と共に零児の家をあとにした。

とりあえず(ほとんど勢いだけですが)書き上げました!

原作を重視している分、結構疲れてしまいました…。

しかし、会話に参加していないキャラが空気ですね…精進したいです。

ついで、オチもないに等しいですし…


 今回書きたかったのは、前半の戦闘シーンと後半のギャップです。

とりあえずそこだけでも書き込めたので満足しています。

まあ、内容を詰めすぎて訳分かんない事になってますが…。


 この話に登場したサンティというキャラは、私がYahoo!ブログの方で掲載した短編小説『現代ウーマンウルフ』の主人公です。

気付いた人もいるかもしれませんが、方言キャラです。

時に変でも誤字ではなく方言表記ですのでご安心ください。

ただ、小説にするとイントネーションをつけられないのが残念ですよね…。マイナーであるが故に正しく読んでもらえているか不安という


 苦情は受け付けますのでお気軽にどうぞ!

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