異界監査官vs狼女
何とか二次創作書き上げました…!
誤字脱字、またイメージが違ったらご指摘ください。
どちらかというと、コラボ要素が強い作品かもしれません。
そこは、街の郊外だった。元々人通りが少ないのに加えて、時刻は夜中。出歩くものなど誰一人としていない。しかし、わずかな月明かりの中に数人の人影が現れる。
「くそ、何で健全な高校生が夜中に出歩かにゃならんのだ…」
一人は青年。年は17歳といったところか。高校の制服を身に纏った彼は、苦々しく悪態をついている。
「文句を言うな、零児。これは仕事だろう?」
一人は女性。銀髪をポニーテールにまとめ、制服の上から更に武装している。彼女は先ほどの青年―白峰零児をなだめるように言った。
「だからって、何もこれだけの人数でいくこたねえだろ…」
そう言いながら、零児は自分の周りを見渡した。銀髪の少女の他に、金髪ストレートヘアーで黒衣を身に纏った少女と、ゴスロリのメイド服を着用した女性がいた。一人でもいいはずの仕事に、四人も連れている事に零児は疑問を覚えていたのだ。と、彼の手にしている携帯電話が鳴る。
『仕方ないですよぅ。新入監査官は先輩の監査官の引率が必須ですから。』
電話の向こうから聞こえてきたおっとりとした女性の声に、零児はあからさまに嫌そうな顔をした。自分と共にいる彼女らが、放置しておいたらどんな事態になるか容易に想像できてしまったからだ。またそれ以上に、声の主が彼らをここへ集めた張本人でもあったからだが。
『それに、今回は――』
「悪い、来たみたいだ。」
相手がそう言いかけたところで、零児は目の前の空間を睨んだ。声にこもった真剣さを感じ取ったのか、電話の向こうの女性も言葉を切る。
「この気配…ただ者ではないな」
銀髪の女性――セレスティナも同様に目を向ける。そこにあるのは、一般人には不可知な別世界への道、次元の門。それが、空間に波紋をおこしていた。何者かが異世界からこちらの世界へやってくる前兆だ。
「ねえねえ、一体何が始まるの?」
いまいち状況を理解できていないらしい金髪の少女、リーゼロッテが無邪気な声を上げる。そんな彼女に呆れつつ、零児は簡潔に言った。
「ひょっとしたら暴れていいかもしれないぞ」
「ほんと?やったー!」
要旨のほとんど無い会話だったが、お子様をやる気にさせるにはこれだけの言葉で十分だった。リーゼはルビーレッドの瞳を楽しげに輝かせる。
彼らは異界監査官と呼ばれる存在だ。ランダムに異世界と繋がってしまう次元の門の前へと赴き、問題が起こらないように活動する。具体的に言えば、こちらの世界から誰かが迷い込まないように見張り、異世界からの来訪者が一定以上の知能と意思を持つ“人”であったならお出迎えし、“異獣”と呼ばれる怪物であったならそれらから人々を守る。その仕事を遂行するために、彼らはそこへ集まっていた。
何もない空間に、陽炎のような揺らめきが起こる。直後、そこから真っ白い毛並みをした狼が躍り出た。大型犬よりも二回り以上大きく、双眸は真っ赤に輝いている。どう見ても怪物だが、世界観の違う異世界ではアレが人間かもしれない。まずはこちらとの意思疎通ができるかを確認する必要がある。
「とりあえず、落ち着いてくれ。俺達はお前の敵じゃない。」
零児は白い狼に向かって話しかけた。他の人も固唾をのんで見守る。言語が通じないという懸念があるかも知れない。しかし、例えば零児の身につけている緑色の石がはまったペンダント、“言葉の調べ”という便利アイテムにより、その問題は解消される。
異世界より現れた狼は、零児達を一瞥した。が、
グオオオオオオ!!!
鼓膜が割れそうなほどの雄叫びを上げ、狼は零児に飛びかかる。彼は体をずらしてその鋭い爪をかわした。意思疎通は不可。つまり、こいつは異世界の怪物、異獣だろう。荒れ狂った獣は近くにいたセレスに文字通り牙を向ける。彼女は槍と見まごうほど長い聖剣、ラハイアンを鞘から抜き、狼に振りかぶる。危険を察知していたのか異獣は素早く後ろに下がり、聖剣はわずかに前足を掠っただけだった。白い狼は姿勢を低くし、尾を上げて警戒の態勢を取っている。
「この“魔帝”で最強のわたしを差し置いて、楽しそうに暴れるなんて許せないわ!」
そう言うなり、金髪の少女は自分の手のひら辺りに真っ黒な炎を灯した。元々彼女はこの世界の住人ではない。異世界『イヴリア』より来た、その小さな体に膨大な魔力を秘める“魔帝”なのである。彼女は自分の魔力を黒炎として燃やす事ができる。リーゼの物騒な発言に零児は驚きの声を上げるが、リーゼは意に介した様子はない。怪物の足下に術式が展開されたかと思うと、黒炎が異獣を襲う――はずだったが、白い狼は器用にもその炎をかわすと、照準を少女に変更した。咆哮と共に獣が駆けだした、まさにその時。
「マスターを狙う者は排除安定ですね」
ゴスロリメイドことレランジェがリーゼの前に立つ。彼女は見た目こそ人であるが、“人”ではなく魔工機械人形という存在だ。ちなみに、リーゼロッテと同じ異世界より来ている。言い終わらないうちに、レランジェの右手に仕込まれていた魔導電磁放射砲が放たれる。それは光の筋となって怪物を襲う。不意を突かれた白い異獣は、よける事もできず悲鳴をあげて吹き飛ぶ。
「よくやったわレランジェ!さーて・・・」
またも異獣の周りに術式が展開される。リーゼは自分の魔力を燃やすと、狼に向かって放った。黒炎が異獣を灼き、敵は苦しみで転げ回る。リーゼはその状況を楽しんでいた。
「おい!異獣はできるだけ殺さずに元の世界へ返すのがルールなんだぞ!?」
零児が慌ててリーゼを止めにかかる。止められたリーゼは不服そうに頬を膨らませた。とりあえずそんな彼女を置いといて、零児は右手に魔力を集めた。日本人と異世界人のハーフである彼は、イメージした武器を具現化する能力〈魔武具生成〉を持っている。その力で右手に棍棒を生成した。これで異獣を叩き、今だ開いている次元の門へ飛ばす作戦だ。黒炎の攻撃を受けて動きが鈍っている狼に、零児は棍棒を振るう。インパクトの瞬間、狼は首をもたげて牙で棍棒を受け止めた。ものすごい力で押さえられ、それ以上振る事ができない。
「くっ、なんて力だ…!」
やむを得ず、零児は棍棒を手放して後方に跳躍した。彼の右手を離れた途端、棍棒は魔力が乖離して霧散する。セレスは前に進み、聖剣を構えた。リーゼなどは今にも攻撃を開始しそうだ。そんな彼らの前で、狼はすっくと後ろ足で立ち上がった。身構える彼らをよそに、狼の姿が変化していき――女性の姿となった。赤っぽい茶髪は月の光を反射し、すらりとした体型が映える。年は20代だろうか。背はやや高く、顔つきは可愛い系だ。
「いや~ごめんね!」
女性は笑顔で朗らかに言い放った。