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第四話 加速する物語





時間は数か月前にまで遡ることになる。




薄暗い闇の中、栗色の長髪を一括りした美女が艶やかな吐息を漏らした。

椅子の背もたれに寄りかかり、憂鬱と取って良いのか、喜びと取って良いのか、彼女は葛藤していた。



「ついに、苦渋に満ちた最悪の決断を実行する時が来ましたか・・・・」

されど、彼女の理性はそう判断していた。

――――――魔術師は己の行う行為に一切の私情と妥協を持ってはいけない。彼女が師から教えられた事だ。


現代の魔術師には通用しない思想だった。



師から通告された“それ”は、私情が半分、実務的な要素が半分だと、彼女は判断している。

成功すれば英断。失敗すれば事態は悪化。


人手不足ゆえに早急で有能な人材の確保が必要なのは分かる。

彼女は最近、魔術師の質が落ちてきたのを知っている。


だが、この判断はあまりにも急性過ぎやしないだろうか?

そう、何度も自問自答して、師匠譲りの涙脆さで泣き腫らした。






冷たい、冷たい、地獄の底のように冷たい場所を、彼女は師と共に歩いている。


ここには魔女が住んでいる。

冷たい魔術を持った魔女が支配し、管理している。



神話級大規模凍結封印魔術“コキュートス”。

それにより、ここには最初に数十人、今では二百人近くが放り込まれた、冷たい監獄だ。

人間どころか、ここの封印魔術にその名に関するに至った原因たる悪魔の王まで封印されている。


ここは魔術連合本部の最奥にある、殺してしまうに限るが、殺すには惜しい人材が、冷凍保存されている場所なのだ。


やがて、彼女と師はたどり着く。



氷の中で、死んだように眠っている、自分の姉だった女が居る場所に。


彼女はやがて、唇が凍りつくような寒さの中で、口を開いた。



「千五百年くらい振りですね、姉さん。」







――――――――――――――――――――――――――――







目の前には、裸体の死体が手術台に横たわっている。



彼女は、“それ”を理解する事は出来なかった。

否、嘗ては理解し、以心伝心と自負するまで至った。


だが、“それ”を理解する事は永遠に出来なかった。

なぜなら、“それ”を処刑したのは、―――――紛れも偽りも無く、彼女なのだから。




――――――魔術師は己の行う行為に一切の私情と妥協を持ってはいけない。


師から受け継いだ精神は、皮肉にも己の師によって覆させられる事となる。

しかし、魔術の世界において、己の師は絶対ではない。




むしろ、―――――――殺してその技術を奪い取り、更なる高みに臨む事こそ、代々伝えられし魔術の後継者たり、己の師とそれに連なる先祖達への最大の敬意となるのだ。



そうなると、己の師は、彼女から見て大師匠への不敬者となる。

故に、――――――無能。そう、蔑まれている。



だが、彼女は知っている。

己の師は、有能ではないが、決して無能ではない。


むしろ、何千年も魔術師をまとめ上げている気概とその不屈の精神は、常人凡百のそれとは遥か逸している。

師はよくやっている。痛々しいほど痛烈に。



“ウェルベルハルクの弟子”と言うだけの理由で魔術師の頂点を押し付けられ、

不死者故に代替わりする事は無く、永遠に責任を押し付けられる最高の傀儡だったのだ。


だが、押し付けた連中は身を持って、己の認識を改める事になった。

彼らは、ウェルベルハルクを伝説の存在として、―――――――舐め切っていたのだ。

今の彼女にすれば、彼らに失笑どころか同情の念すらも沸いてくる。



だって、――――――――あれは反則なのだから。




大魔術を苦も無く無詠唱で連発し、世界中の人間に強制暗示を掛けられる化け物というか、人間の想像の範疇を逸脱して常識を嘲笑うようなとんでもない魔術師。

我が師でさえ、十全な準備を必要とする死者蘇生すらも即席で行える偉大な魔術師。

其れこそが、『黒の君』。

ウェルベルハルク・フォーバード、と全魔術師に名を刻んだ存在。



人の至る全ての極致に到達したと言われる彼の魔術師は、現在は音信不通だと言う。

まあ、数百年に一度、暇つぶし程度に連絡を取るような人なのだから、今更といえば今更だ。



彼が降臨した時代は、決まって魔術師の質が良くなる。

師と同じく不死者になるまで至った彼女は、それを――――――身を持って痛感した。



一度、彼女は大師匠から賜わされた一矢を放った事がある。

標的は、“それ”。



広域に分散した“それ”を一人も残らず射殺し、ある種の不死性を完全に封殺した魔弾を放った感触は何千何百年経っても忘れる事は無いだろう。



当時、最高位の魔術師だった“それ”ですら、ウェルベルハルクの実験台程度の存在でしかなかった。

その一矢の目の前にして、人間は生き残る事は不可能だった。



蚊を殺すのに大砲は要らぬ、とはこの世界のことわざだったか。


それを聞いた時には、泣きながら笑ってしまった。

是非、大師匠に教えて差し上げたい。



――――――魔術師は己の行う行為に一切の私情と妥協を持ってはいけない。


それを歪なまでに実行し、大師匠しか至れなかった“万能たる究極”に最も近づいた魔術師。


彼女は分からなかった、自分は“それ”を“尊敬”しているのか、唾棄すべき不忠者だと思っているのか。





「――――――施術は完了しました。気分は如何ですか? 我が弟子よ。」

我が師の声で、彼女は我に返った。

どうやら、忘我と思考の果てに居たらしい。


しかし、それが自分に向けられた言葉ではないのだと理解するまで、あと数秒必要だった。

もう一人、師匠に我が弟子と呼ばれる権利がある人間が居るのだ。


たった数分前まで、それは自分だけの物だった。

だが、たった今、死体に過ぎない“それ”から、人間へと戻った“彼女”には、その権利があった。





「最悪ね。我が師匠。ちょっと頭がくらくらするわ。噂どおり無能なのね。」

千五百年ぶりの懐かしい言葉は、彼女の摩耗した記憶を蘇らせていく。


涙が、出てきそうだった。




「それは否定しません。私は一人では何も出来ない無能者ですよ。

それも、――――私に反旗を翻した、大量殺戮者の手を借りてしまわなければならないほどに。」

「冗談よ、師匠がすごいことはちゃんと知ってるわ。

・・・・・ところで、私はどれだけ眠っていたのかしら?」

彼女の胸の中に、どんどんと懐かしさが去来してくる。



「だいたい、千五百年くらいでしょうか。いろいろありましたよ。異世界まで来ました。」

「そんなに? うーん、何だか状況がつかめないわね。

ちゃんと言葉で詳しく押しえてくれないかしら?

頭の中に知識は入ってるみたいだけど、何か今の状態で整理できなくて。」

「それはあとでカノンに詳しく聞いてください。」

「分かったわ。」

師と“彼女”は、彼女のことなど無視して勝手に話を進める。



「あなたの無限の手を借りたい。

知識は渡したとおり、あらゆる時代と技術に適応できるあなたにしか頼れないのですよ。

それに、あなたの研究を邪魔する者はこの世界に一握りも存在しない。

まあ、魔術とは代用と流用の技術、無能が万能の力を頼るのは自明の理でしょう。

私は度が過ぎなければ何だって見逃し、どんなことでも許す積りです。」

――――なんて汚い言葉なんだろうか。



「――――――汚い言葉ね。」

彼女の思った事も、“彼女”は躊躇い無く言葉として発する。



「私は合理主義者です。司法取引と言うことですよ。

我々にとって有益である限り、現代の魔術師は文句は言えない。

―――――――それに、この世界でなら、あなたは無敵の筈ですよ?」

「―――――それもそうね。」

“彼女”は指を鳴らし、顕現させた衣服を纏って不敵に笑った。




「あら、貴女ってカノンよね? あんなにちっちゃかったのに、大人っぽくなったのね。見違えたわ。一瞬誰だか分からなかったわよ。」

そう言われた瞬間、彼女の涙腺は決壊した。


「お姉、さまぁッ!!」

“彼女”を尊敬し、敬愛し、慕っていた最高の姉弟子だった頃。

怒りと絶望で狂ってしまった彼女を、処断せよ、と師に命じられる以前の微笑みに、彼女は絶えられなかった。

結局、彼女はどれだけ経っても嫌いになれなかった。




外道に堕し、邪魔者を一切の見境を付けずに皆殺しにし、あまつさえ彼女と自らの師匠に牙を向いて、結局最後には弟子だったと言う記録すら抹消された、“彼女”。



通った二つ名は、“ブラックトリガー”。


―――――その名は、メリス・フォン・エルリーバ。




「さあ、師匠。“斬新的な革命”を始めるわ。魔術師の夜明けを共に見ましょう。」

当時、最高にして最悪だった錬金術師が、この世に蘇ったのだ。




―――――彼女の復活によって、初めてこの物語が本当に始まりを迎えることになる。







――――――――――――――――――――――――――






そして時間軸は戻る。




夜が来た。

より文章的に表現するなら、闇の帳が下りて来たとでも言うべきだろうが、どんなに風流に言い表しても、そこに渦巻く邪念や悪意を覆い尽くすことはできなかった。



「うわぁッ!うわああぁぁ!!!」

暗い町中の人気の無い道で、男は恐怖に震え、逃げ出そうとしていた。



「駄目ですわよ~。逃げてしまっては。」

天使のような声色で、悪魔のように言葉を突きつけられる。


闇夜の奥に、人間の理解の範疇を超えた化け物が居たのだ。

これで逃げるなという、奴の方がおかしい。




「うわあああああああぁぁぁぁ!!!」

男は悲鳴を挙げ、向かってくる化け物から必死に逃げ出した。



「あなたも魔術師の端くれでしょう?

身の程が分かったのなら、大人しくあの世なりどこへなり行った方がよろしいのではなくて?」

男は、魔術師だった。


それも邪悪に堕した黒魔術師、大して才能も無いのに“本部”から無許可で脱出し、ただいま追手に追われている真っ最中だった。

それくらいならまだ捨て置かれるくらいには、彼は小物だった。


魔術師の業界でも冷酷無情と知られる“本部”なのだが、雑魚を一匹捕まえるのに網を放るほど暇ではないのだ。



しかし、彼は自らの力を驕った。

その結果、悪魔を召喚しようと生け贄を集めて、何人もの一般人を殺害したのである。


それはいけない。割と何でもありな魔術師の業界だが、魔術と言う神秘が世間一般に、少しでも興味を持たれるような事態になってはいけないのだ。

だから、殺す。徹底的に、殺し尽くす。


全員にとって、そう言う足を引っ張る奴は邪魔だから。




「まったく、なんで教会の連中の雑用なんか下請けしないといけないんでしょうね。

聖職者なんて聖書片手にぴーちくぱーちく鳥のように喚いていれば良いでしょうに。」

『仕方なかろう、我々は見逃して頂いている立場なのだ。こんな小物を相手にするほど、連中は人手があるまい。

そりゃあ、こちらにお株が回ってくるというものだ。』

あろうことか、追手たちは逃げ回る男を余所に、雑談に興じていた。

ホラー映画なら駄目だしを食らうだろうが、現実であるこの業界の悪夢を前にすれば、その恐ろしさはちっとも陰ることはないだろう。



男が生け贄の為に殺した人間は女と子供ばかりで、男は邪魔になって偶々殺しただけのが数人。

そうやって合計、11人もこの男は殺した。


そして、今日、男の命運が尽きた。

報いを受ける日が来たのである。



男は、敵の襲撃によって臆して逃げ出した。

“本部”が送り込んでくる刺客の恐ろしさは、誰もが知る所なのだ。



追手は、あろうことか男が先ほど仕入れたばかりの死体を使って、残虐な追跡者に仕立て上げたのである。

血まみれの男が起き上がって、鉈を振り回して、男を殺そうとしてきたのだ。


これを恐怖と言わず、なんと言えば良いのか。



「ヨクモオォォオオオ、ヨクモオオオオオォォォ!!!!!!」

絶叫を挙げて向かってくるのは、先ほど自分が殺した12人目の死体だった。

まだ温かい血を首からだくだくと流しながら、開ききった瞳孔がある目を見開かせ、人間とは思えない速さで男に飛び掛った。


もう死んでいるのだから、肉体がどうなろうと知ったことではないのだろう。

ありったけの強化の魔術の反動で、ぷちぷちと死体の筋肉が千切れる音が鮮明に聞こえてくる。



「うわ、ああああぁぁぁぁ、助けて、助けてくれええええぇぇ!!!!!」

だが、そんな身勝手な願いは聞き届けられるはずも無く。

怨念に満ちた復讐者は、男に飛びかかって背中から押し倒した。



ふと、その時、男の目の前に一人の男が立っていた。

古そうな背広姿で、背の高い中年の外人のようだった。


男は藁をも掴む思いで懇願した。



「助けて!!!頼む、助けてくれぇぇぇ!!!!!!!」

『ふむ、助けて欲しい、か。どうする? お前達?』

外人の男が振り返った先を見て、――――殺人犯は更なる絶叫を挙げた。




『ユルサナイ・・・』

『ユルサナイ・・・』

『コロセェエエ、コロセエエェェ!!!』

呪詛のような言葉を呟く声は、11。

まだ十に満たない少女、先日家庭を持ったばかりの若い女、目の前で妻を殺された男、――――全て、この男が殺した被害者達だった。


それが全て怨霊と化して、地面を這って男に近付いて来ているのだ。




『だ、そうだ。残念だったな。』

外人の男は苦笑して、肩を竦めた。

だが、男は気づくべきだった。その外人には、足が無かったということを。

更に言えば、体が透けて見えているということに、気づくべきだった。


彼は、亡霊だった。



そしてその瞬間、怨霊たちが死体によって抑え込まれた男に、まさに殺す勢いで押し迫った。


「うわあああああああぁぁぁ!!!!!があッ!!あがぁ・・・が・・・」

まだ生暖かい死体が、男の首を締め上げて悲鳴を挙げる事すら許さない。

尚も、被害者たちの呪詛は続く。


『シネ。』

『シネ。』

『シネ。』



『シネ。』『シネ。』『シネ。』『シネ。』『シネ。』『シネ。』『シネ。』『シネ。』

『シネ。』『シネ。』『シネ。』『シネ。』『シネ。』『シネ。』『シネ。』『シネ。』

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『シネ。』『シネ。』『シネ。』『シネ。』『シネ。』『シネ。』『シネ。』『シネ。』

『シネ。』『シネ。』『シネ。』『シネ。』『シネ。』『シネ。』『シネ。』『シネ。』




『シンデクレヨオオオオォォォ。オレタチト、イッショニィィィ!!!!!!!!』

その怨霊の怨嗟の絶叫と共に、男は恐怖に暮れて実に呆気なく事切れた。






「クッ」

その一部始終を見ていた少女が居た。

優雅な物腰で死んだ男に近寄る。


美しい金髪の持ち主であり、色白な肌や喪服のように黒塗りのイブニングドレスは、この場で唯一の生者なのだがどこか浮世離れしていた。

この死者達の宴にはふさわしくない儚さが有った。


彼女は口元を抑えたが。



「あは、ははははははは、なんです? あれは。

恐怖で死にましたわ。仮にも魔術師として魔術を学んだ身でありながら!!

あははは、あはは、くふふふ・・・・」

堪えなくなって笑い出したが、下品だと自覚して自重しているのか、彼女は必死に目に涙を湛えて笑いを堪えていた。



『そう言ってやるな、ルーシア。

精神防護を呪詛で剥がしてこんなB級ホラー映画のような状況に陥れば、な。』

ショック死ぐらい当然だ、と亡霊の男は苦笑しながら言ったが、そこに同情や哀れみなど一切篭っていなかった。




「さあ、もう済みましたでしょう?

恨みを晴らしたのだから、さっさと成仏なさい。」

彼女はそう言って、一言。



「『“消滅せよ。”』」

何の慈悲も無く、恨み言を言い続ける死霊達を霧散させた。

供養ではなく、さんざん利用した挙句の使い捨てだった。



『やれやれ、これで四人目。お前の実力ならこれ以上は不要だろう。』

「そうですわね、数だけ居ても防腐処理が大変ですし。

・・・・そろそろ、目的地に向かいましょうか、師匠。」

パチン、と指を鳴らすと、今し方死亡した男がムクリと起き上がった。



「たしか・・・・キガ市とか言いましたか?この国の原住民の言葉は概念が多すぎて理解が難しいですわ。」

『それも文化なのだろう。先に派遣された魔術師もこの国の出身だという。

全く、時代も変われば魔術師も変わるという事か。』

亡霊の男はどこか感慨深いように頷いた。


「まさか原住民ですの?

全く嫌ですわね。連中が我々を真似ようが、究極の彼方に到達するなど不可能ですわね。」

『さて、な。そればかりは分からないな。

あの『盟主』リュミスもパッと出の魔術師らしいがね。』

亡霊は少女の典型的な貴族型魔術師の施行に苦笑せざるをえなかった。


「ふん、あのような品性の無い無能者がなぜ本部の最高指導者なのでしょうか、甚だ疑問ですわ。」

『俺は良くやっていると思うがなぁ。』

「やる事成す事が殆ど裏目に出ていて何を言いますか。長生きだけが取り得の老女でしょうに。」

どんどん毒を吐く少女に、男は呆れたようにこう言った。



『この業界では、気に入らない相手でも耳触りのいい言葉を言わなければならない時が必ずやってくるだろう。

ルーシア、君のようなちゃんとした家柄の魔術師なら、まず魔術の知識より年上を敬うことを知るべきだ。特に“魔導師”連中に嫌われたら目も当てられないぞ。

私の知り合いの知り合いが“魔導師”の逆鱗に触れて報復に遭い、無残に死にざまを晒したと聞いたことが有る。』

「・・・・・・・・」

『おや?さっきまでの威勢は如何した。小娘め。』

くつくつと笑う亡霊の男に、彼女はふん、ともう一度鼻を鳴らして。


「死者は黙ってなさい。この国のことわざによれば、死人に口なしと言うそうではないですか。」

『使い方を完全に間違ってはいるがな。』

亡霊の男から逃げるように歩き出す少女に、二体の死体が付いて行く。




『やれやれ・・・・』

肩を竦める亡霊の男も、少女に憑いて行く。





―――――物語は、もう止まらない。














結構内容を変更した話です。

昔書いた話とはいえ、自分の構成力の無さと突然の展開は今よりずっとひどかったと痛感しました。

私も初心に戻れています。


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