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Ⅷ:契約者のルール

・禁則事項Ⅰ……直喩法使用禁止

・禁則事項Ⅱ……固有名詞使用禁止


【テーマ】光景






 年齢も40歳を超えたこの独身未婚女の趣味は、他人の私生活を双眼鏡で覗く事。

 その女は夜、水商売の仕事をしていて毎日帰宅するのは、夜明け前だった。ベッドに入り眠る頃には、空も明るさを増している。

 そんな今日も、女が住むマンションの十二階の窓から寝る前の恒例として、こんな遅い時間まで明かりの点いている窓を見つけては、その部屋を双眼鏡で覗いていた。

 似た者同士、同じ水商売をしているものばかりが何故か集中している。それに当て嵌まる言葉もあるが。

 この界隈には、そういったアンダーワールドの職業を主とする人間ばかりが住んでいるので、人間鑑賞には事欠かない。

 同棲している女性にホテトルやピンサロをやらせて、彼女がまさに体を張って稼いできた金を、巻き上げる外道男。

 旦那に捨てられ女一人で子育てしている母親は、仕事で受けたストレスを託児所から連れ帰った、まだあどけない我が幼子(おさなご)に虐待で発散する。

 また寝る前の運動にとSEXに耽るカップル。女同士だったり、男同士だったり。探せばいくらでも目に入る、この世の汚物共。それはまさに、覗き見している女にとっては、絶景だった。

 そうして満足したところで、風呂に入って眠る為に双眼鏡を引き上げようとした、その時。一瞬双眼鏡の端に、不自然なものが映り込んだ。改めてそちらへ双眼鏡を向け直し、ピントを合わせる。

 するとそこには、この世の生き物としては見た事も聞いた事もない、真紅の色をした豹。そのすぐ隣には、真珠色の髪をした女が立っていた。

 二十階建てマンションの屋上で、巨大なお酒の看板を背後に夜明け前の街を、見下ろしている。看板を照らすライトがなかったら、そんなところに不自然な一人と一匹がいた事に、気付きもしなかっただろう。

 遠くの紺碧色をした空と、薄汚れた空気を纏った街の境界線から朝日が射し、空の色を朱に染める。その瞬間、女は信じられない光景を目にした。

 日を浴びて豹は赤毛を更に濃い深紅に眩く反射し、一緒にいた女の真珠色の髪も煌びやかに輝いたかと思った時には、互いの立場が逆転していた。

 いや。正確には状況は似ているが、姿が違う。

 赤毛の豹は黒髪の男に変化し、真珠色の髪をした女は翡翠色をした、美しい大鷹に変化していたのだ。


 ――これは面白いわ!


 覗き見の女は恐れる事無く、寧ろ喜んで口角を上げると、不自然な笑いを漏らした。無意識から、それは引き攣って聞こえる。しかし突然、双眼鏡は真っ暗になり、何も見えなくなった。

 驚いて女が顔を上げた時、目前に飛び込んできたのは左右色違いの双眸。更に一歩後退って全体の焦点を合わせると、そこにいるのが誰なのかすぐに分かった。

 肩に止まる翡翠色の大鷹。黒い髪をショートにした、紫と青緑の目をした男。明らかに異様だが、それ以上にこの十二階の高さがある窓辺に、今いたマンションの屋上から飛び移って来た方が、驚異だ。

「あんた達、何者なの!?」

「……――便利屋の、店主をしている者」

 男は胸に片手を当てて、軽くお辞儀をするが視線は足元に落としたままだ。

「人間じゃないでしょう!?」

「勿論お嬢さん。貴女がご覧になられた通り、我々は人間と異なる者。貴女のご希望は? どんな願いでも何でも叶えて、差し上げますよ」

 自分より若いであろう美しい顔の男に、“お嬢さん”と呼ばれて悪い気はしなかった。

「天の御使い? 悪なる魔物? 少なくとも化け物なのは確かね」

 女は両腕を組み、視線を上下させながら彼の前を行き来する。その女の動きに、彼の肩に止まっている翡翠色の大鷹が頭を動かし、後を追う。

「人間の味方だと、思って頂きたい」

「じゃあ何?この世を手に入れたいと言ったら、それも叶えられるわけ?」

 まさに立場を優位にし、すっかり女は上から目線である。

「貴女様がそう望めば」

 相変わらず男は、胸に片手を当てお辞儀をした姿勢のままだ。

「クスクス。面白いわ。じゃあ私を女王にしてよ! そして何人もの男をはべらせるの。女どもは、かしずかせてね! この世に君臨する女王よ!」

「それで宜しいのですね?」

「そうよ!」

「では、契約――成立」

 男はそれまで下げていた頭を上げるや、胸元に当てていた片手を差し伸べて女の前で、グッと握り締めた。

 その後に、ふと店主の男は思い出した顔をして、呟いた。

「まずい。彼女に代価の説明をするのを忘れていた。ま、いいか」

 そうして空に飛び立つ大鷹になった、真珠髪の彼女と一緒に男は空気の層を蹴り宙を滑空して、その場を後にした。


 女は正気を失っていた。

 しかしそれも気付かずに女は、自分は最高の地位からの素晴らしい光景に酔い痴れていた。女の見るもの全てが、女の思い通りの世界だったがそれは、便利屋の男の得意呪術である“幻覚”でしかなかった。

 周囲の誰もが、この女を狂人扱いにした。


 ただの人間風情が、“彼等”の正体を見知り詮索しては、決していけない……――。




 〆切時刻に間に合わず、大慌てで校正見直し一切なしに投稿したので、見苦しい点が多くあるかと思います。

その時はスルーせずに教えてください(汗。

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