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Ⅴ:交われぬ愛

・禁則事項……会話文の使用禁止

・テーマ……憎悪





「カルラ……」

 彼は独り、小さく呟いた。

 その正体は、ソロモン七十二柱の魔神の一柱で約三十前後の軍団を率いる、序列五十七番の地獄の大総裁である。

 詰まる所の魔族、人間の名称で言う悪魔の種族に入る。 

 彼等は地獄における爵位を持ち、王・君主・公爵・侯爵・伯爵・騎士・総裁という階級の中では、オセはその最も低い総裁の十一番隊長で下には後、三隊長がいる。

 そんな立場であるオセが恋した相手が、カルラだった。

 愛しのカルラ――。

 二人はいつからかまるで、導かれる様に惹かれ合い恋に落ちた。だがお互いの立場は正に天地の差までに違う。

 それはカルラが天の御使いの存在であるからだ。人間の言葉を借りるなら、“天使”に等しい。

 彼女はヒンドゥー教に分類される、仏教守護神天竜八部衆もしく二十八部衆の一の立場であり、三人の最高神の一人ヴィシュヌに仕えていた。

 そんな宗派も種族も立場も違う二人は、常時周囲の隙を狙っては密かに逢瀬していた。だが肉交は愚か、口付けすら遂げていない。しかしその日が来るのは近い事を、二人は内心どこかで気付いていた。

 今日、彼女を抱こう。そうオセは決めていた。

 毎回下界で落ち合う時、先に下界へ降臨した方が相手を呪文で呼び出す様にしていた。その方が周囲や仲間に悟られ難いからだ。

 つまり二人は、禁断の恋を煩っていた。光と闇の立場同士が愛し合うなど、決して赦されない。敵対する種族同士が惹かれ合うなど、言語道断だ。しかしそうとは解かっていても、一度走り出した恋に、歯止めは利かない。

 悪魔であるオセは、彼女から魔法陣で呼び出されるのに対して、仏教神であるカルラは彼から手の印で呼び出す形式になっている。

 オセは腹式呼吸で息を整えると、一気に印を結びながらカルラ召喚の呪文――真言(マントラ)を唱えた。

「オン・ガロダヤ・ソワカ、オン・キシバ・ソワカ」

 すると大きな粒をした雫が落ちてきて、床で弾けたかと思うと同時にそこから突然、紅蓮の炎が渦巻くようにして立ち昇った。そして眩い閃光を放つと共に、一気にそれまでカプセルの様に渦巻いていた火炎が霧散し、中から大きな翡翠色の翼を背にしたカルラが現れた。

 彼女は目前にいる相手を確認してから、大きな翼を持ち上げると体躯を仰け反らせ、顎を突き上げ上を仰いだ。

 するとその翼がまるで骨を砕き、肉にめり込む様な音を立てながら背中に収納される。そして大きな息を吐くと、ゆっくりと顔を正面に戻しながら色っぽい声で囁きかけてきた。

「オセ。逢いたかったわ――」

 カルラの黄金の瞳が、真っ直ぐ彼を見据える頃には颯爽とオセは動き出していて、彼女の言葉が終わりきらない内にすっかりカルラの華奢な体は、オセの腕の中にあった。

「オ、オセ?」

 戸惑い尋ねるカルラに、体を離したオセがその愛らしい唇に人差し指をサッと当てて、シィーッと歯の隙間から息を漏らす。恰も言葉は要らないとでも、言うかの様に。

 オセが今回何を求めているかに気付くのは、その行為だけで充分だった。まるで当たり前かの様に、唇を重ね合わせる二人。

 熱く、濃厚的で艶かしい口付けは自ずと欲望に突き動かされる如く、互いに次の段階に進まんとばかり激しく体を求め合う。

 しかしそんな二人の愛欲に、突如水をさす者が現れた。

 視得ない力で一気に二人は引き離されたかと思うと、それそれ逆側の壁にお互い別々に叩き付けられ、磔にされるが如く強烈な力に押し付けられる。

 いつしか室内は、暴風雨と雷や閃光の嵐になっていて天と地から轟くばかりの別々の声が重なり、二人に向けられた。

『相反する立場である上に、よもや宗派まで異なる者同士が色恋に堕ちるとは、問答無用の大罪と知っての事か。うぬ等を今この瞬間から、決して結ばれぬ様呪いを与えたもう』

 直後、カルラの悲鳴が上がる。

 室内で荒れ狂う嵐の中、必死に目を凝らして彼女を確認しようとするが、なかなか見付けられない。

「――ルラ……ッ! カルラアアァアァァーー!!」

 力の限り、オセは彼女の名を叫ぶ。途端、嘘の様にピタリと嵐が止んだ。同時に、それまで壁に磔にされていたオセの体が床に落下する。

 真っ先に彼のオッドアイの双眸に飛び込んできたのは、翡翠色をした一羽の大鷹だった。それがカルラである事は、すぐに分かった。

 激昂の余り、強く食い縛ったオセの下唇から鮮血が赤い筋を作り、床に滴り落ちる。

「我が主バアルを怨み、カルラの主ヴィシュヌを憎む。キリストの神が唱えた、“隣人をも等しく愛せ”の言葉を知ら示してやる!」



 こうして昼間はカルラは神鳥(ガルダ)の姿に、夜はオセが魔獣の姿となり共に同じ人の姿で過ごせぬ呪いを、かけられる事となった。

 その呪いを解く為には、キリストが地上に残した聖餐杯が必要だった。

 気付けばすっかり日没し赤き豹に姿を変えたオセは、人の姿に戻ったカルラを背に乗せて、夜の闇を駆け出した――。



 

カルラの前身、ガルダは鷲だよと言う細かいツッコミはナッシングの方向で。

大鷹にしたのは、女性イコール見栄えの良さから当作品ではその様に設定しています。

 オセの能力設定も変更されているので、細かい事は抜き!!ww。


 最後に、セリフはあるけど会話はしていないので、禁止事項に触れていない事も伝えておきます(苦笑)。


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