第5話 ドラゴンの巣に入ろう
草原を横切って、山へ。
目指すはドラゴンの巣。
詳しい場所は「行けば分かる」と言われたけど……
「――まさにその通りね」
折れた木の枝、踏まれた草、焼け焦げた跡……戦闘の痕跡がいくつも見つかった。
ドラゴンの巣へ向かおうとした冒険者たちの痕跡ね。アタシみたいな素人にもすぐ分かるほどハッキリした痕跡。そうと分かって見てみると、真新しいものだけでなく、少し古いものも見つけられた。
自然の修復力が追いつかないほど、大勢の冒険者たちがドラゴンの巣を目指しているということ。巣の前で2~3日待てば、また誰か来るんじゃあないかしら。
「……ここね。本当に分かりやすいわ」
痕跡が多い方向へ進んでいくと、やがて山肌に洞窟を見つけた。
その地面には、多数の足跡。
人間のものも、そうでないものも、たくさん。
「さて。それじゃあ作戦通りにやりましょうか。
まずはプロテクション。
それとブレッシング」
プロテクション――物理防御力を高める。
ブレッシング――最大HPを増大させる。
それと、パッシブスキルだから唱えるまでもないのが複数――魔法防御力上昇、状態異常抵抗力上昇、持続回復、状態異常解除など。
「じゃあ行くわよ」
メイスを手に取り、軽く素振りして。
アタシは、ドラゴンの巣に踏み込んだ。
◇
冒険者のランクは、AからFまでの6段階。
Sランクは存在しない。
なぜならAランク冒険者でも手に負えないのがSランク。あくまで民間企業である冒険者ギルドは、Sランクの仕事を受け付けていない。
ところが、運が悪いやつは居るもので、たまたまSランクの状況に巻き込まれてしまった冒険者たちが居る。しかも運よく状況を解決してしまった。
仲間を失いながらも生き延びた彼らは、その後の生活を立てるため――話題性を利用して稼ぐために、手を取り合って新しいパーティーを組んだ。
その名もずばり「Sランク」。あまりにも分かりやすいパーティー名だ。
「んぎゃああああ!」
「死ぬ死ぬ死ぬぅ!」
「走れ走れ! 足がちぎれるまで走れェ!」
「冗談じゃないわよォーう!」
ドラゴンの巣に挑んだ彼らは今、多数の魔物に追われて逃げ回っていた。
初めてドラゴンの巣に挑む彼らは、勘違いしていた。
ここにいる魔物は、もとの縄張りで負けて追い出され、ドラゴンの庇護を求めて集まった弱者たちだと。
しかし実際は逆。
噴火を続ける火山に住み着く弱者など存在しない。居たらそんなアホは焼け死ぬだけだ。ドラゴンの巣とは、つまり、それほどの危険地帯。ここに居るのは、ドラゴンというSランクの暴威に耐えられるほどのAランク――AからSへ片足を突っ込んだような強力な魔物ばかりだった。
◇
「ふんっ!」
右手に持ったメイスを振り下ろす。
スキルの効果でその動作に補正がかかり、片手でありながら鋭く重い打撃を繰り出せている。
直撃を食らった魔物は、うっかり踏んづけたトマトみたいに潰れて倒れた。
「……だんだん馴染んできたわね」
体の使い方が分かってきた。
初めて野球をやったときの事を思い出すわね。ボールを投げてもバットを振っても不格好で、ボールもバットも思った場所へ行かなかった。
その後、野球部に入っていつの間にか出来るようになっていたけど……ふふふ。なつかしいわ。
「んぎゃああああ!」
「死ぬ死ぬ死ぬぅ!」
「走れ走れ! 足がちぎれるまで走れェ!」
「冗談じゃないわよォーう!」
しばらく進んでいくと、奥から賑わしい声が聞こえてきた。
足音も近づいてきて。
そして現れる4人の冒険者と――それを追いかける魔物の群。
「あっ!? あんた逃げろ!」
「死ぬぞ!」
「走れ走れ!」
「冗談じゃないわよォーう!」
脇道もないし、こっちへ来るしかないわよね。
でも、いいとこあるじゃない?
「気にかけてくれるなんて、優しいのね」
プロテクションとブレッシングを4人にも掛けてあげましょ。
そして4人を見送って、左半身をとり、メイスは八相の構え。
しっかり両手で握るわよ。
「オラァ!」
スキルによる補正に頼らず、野球スタイルのフルスイング。
命中した魔物は――スキルの補正がなかったせいか――砕けなかった。
直撃した魔物が弾丸ライナーのごとく吹き飛んで、ピッチャー直撃コース――後続の魔物を巻き込んで、ボーリングのピンみたいに吹き飛んだ。ストライク!
ドラゴンの巣に轟音が響く。
……崩落、しないわよね? 大丈夫……なハズ。
「「ええぇ~っ!?」」
逃げていた4人が、足を止めて振り返った。
見事なエネル顔ね。
「この先は安全なはずよ。頑張って帰りなさいね」
アタシは4人に手を振って、さらに奥へと踏み込んだ。
目的は、アタシひとりでもマックスに見劣りしないと証明すること。
他の冒険者も挑戦するような雑魚じゃあ、いくら仕留めても話にならないわ。
◇
キラウエア火山の溶岩流を彷彿とさせる、赤い光に照らされた洞窟内。
赤熱する溶岩に照らされて、暗闇に巨体が浮かび上がる。
「グオオオオオオ!」
ドラゴンだ。
起き上がったドラゴンが、前足を振り下ろした。
――というより、前足で踏みつけようとしてくる感じね。
「あえて受けるッ!」
プロテクションとブレッシングの効果を信じて防御する。
耐えた!
アタシの足が地面にめり込む。すごいパワーね。でも問題ない。足場がしっかりしてて助かったわ。
ちょっぴり入ったダメージも、持続回復のパッシブスキルですぐさま回復した。依然問題なし。
すかさず、その前足に組み付いた。
「からの、背負い投げェ~!」
ドラゴンはあっさりとひっくり返った。
力加減もばっちり。メスドラゴンで重さを把握しておいたのが役立ったわ。
投げられた経験がないのか、ドラゴンはろくに抵抗もしなかった。
「グルッ!?」
驚いた様子でぐるりと回って「伏せ」の姿勢に戻ろうと――
――するのを、首根っこ捕まえて阻止。
「さあ行くわよ」
レベルとSTRの高さに任せて、生け捕りにしたドラゴンを引きずっていく。
外まで運んでからぶん殴れば、崩落する心配は要らないものね。
暴れたって今のアタシは防御盛り盛りの歩く要塞。びくともしないわ。
「あっ、ちょ……待って! 引きずらないで! 助けてくださいお願いします!」
意外と可愛らしい声が響いた。




