第26話 ひとつの嘘で世界を救おう
「てことで、クリアしてきたわ」
街へ戻って、冒険者ギルドに報告。
もちろん鳥ダンジョンはクリアした。
「あっさり言ってくれる……。
いや、実際あっさりやってのけたのか。
こっちは魔物がうじゃうじゃ溢れてくると思って、戦々恐々としていたんだがな」
支部長がため息混じりに言う。
「あら? 漏れた?」
「いや。1匹も出てこなかった。
せっかく物資を集めて万全の体勢を整えたのに、肩透かしもいいとこだ」
「それは良かったわね」
「良かった……のか?」
「犠牲を出さないように準備して、犠牲が出なかったんだから、良かったじゃないの。
危機管理なんてのは、肩透かしが何よりだわ。達成感なんて要らないのよ。大げさにやって、何事も無かったら、それが一番だわ。良い訓練になったと思いなさいな」
「まあ、そうだな。
ところで、クリア報酬は何だった?」
「また例の雫型の物体だったわ。
他の2つと合わせると合体して1つになったけど、使い方が分からないのよね」
合体して三色パンみたいな形になった。
横並びの団子三兄弟みたいなやつじゃなくて、岐阜県みたいな形のやつね。
そういえば最近見ないから、若い人は知らないかしら? 10年ぐらい前にはコンビニにも並んでたんだけど。
「そうなのか。
使えないアイテムじゃあ、どうしようもないな。残念だが仕方ない。そういう事もあるさ」
「素材の解体をお願いできるかしら?」
「ここの解体場は、あんまり処理能力が高くないぞ。
挑戦する冒険者がほとんど居ないからな」
「でもダンジョンを囲んで街ができてるってことは、ダンジョンから得られるものが豊富ってことじゃないの?」
「逆だ。
溢れないように領地軍が常駐していて、定期的に殲滅作戦を実施している。
それを支えるために商人やら職人やらその家族やらが集まって大きくなった。
今回はしばらく前に豚ダンジョンが溢れた影響で、しばらく殲滅作戦ができなかったから危なくなったわけだが」
「そういうことだったのね」
Sランクの4人が元のパーティーメンバーである兄弟を失った事件ね。
領地軍も対応に出て、大勢が犠牲になった。
そして軍隊というのは、集団戦をやるための訓練が必須だから、すぐには補充できない。
各地のダンジョンを管理する領主たちは、こうして苦労しているわけね。
「それじゃあ鶏肉グルメ探索ツアーってわけにもいかないかしら。
すぐにミートピアに戻ったほうが良さそうね」
領地軍の食事は、領地軍で調理しているはず。
となると、領地軍を支える商人や職人が集まってできた街としては、軍需産業が中心になる。品揃えとしては、自衛隊の需品科や、駐屯地の中にある売店みたいな感じかしら。
グルメを含めて、観光客向けの商品ってのは期待できないわね。
「そうだな。
あっちのほうが解体場の処理能力も高いだろう」
「すまんな。せっかくクリアしてくれたのに、役に立てなくて」
「規模が規模だから仕方ないわ。
第一、ミートピアの冒険者ギルドだって今回の素材を解体するのにどれだけ時間がかかることか……」
「そうだな。
3箇所もクリアしたし、素材の解体が終わるまでのんびりしてもいいだろう」
「のんびり? しないわよ?」
「魚ダンジョンか……」
「当然っ!」
「やれやれ」
「何がやれやれよ? 張り切って行きなさい、マックス。
魚なんて、あんたの馬鹿力で水面を殴ったら一発よ」
石を打ち付けて衝撃波で魚を気絶させる漁法がある。
日本では禁止されているけど、ここは異世界だし、相手は魔物。
つまり遠慮することはないわ。
マックスのパワーなら、石なんて使わなくても水面を殴るだけで再現できるわよね。空中ですらブレスもどきの拍手ができるんだから。
◇
というわけで、空の上。
今アタシたちはミートピアに向かって飛んでいる。
「良かったのか? クリア報酬のことを秘密にして」
マックスが尋ねた。
実はクリア報酬の三色パン()は、使い方が分かっている。
支部長に「分からない」と言ったのは嘘だ。
「いいのよ。あれは危険物だわ」
効果は、各ダンジョンで出現する魔物をどれでも自由に出現させる。
つまり万能スポーンエッグってわけ。
使いまくれば魔物の大群を生み出すこともできるし、自動的に処理する仕組みを作って値崩れするほど大量に素材を売ることもできる。ダンジョンの中では1体しか出ない皇帝を大量生産することさえできてしまう。
個人的に食べるぐらいの量を出すならともかく、大規模に使うと経済的にも軍事的にも危険だわ。しかも短期的には「自分だけ得をする」というのが可能だから、欲しがるバカは多いでしょうね。
「でも捨てたり壊したりするわけじゃあないんだな」
「食糧難になったときには、とても役立つわ。災害とかあったら、ぜひ欲しいアイテムよね。
幅広いレベルに対応した訓練にも使える。冒険者ギルドでも軍隊でも、これは便利だわ。
要するに使い手次第なのよ。
死蔵するけど、捨てたり壊したりするのは、ちょっとね」
――他では得られない莫大な報酬が得られたという話だ。永遠の命だとか無限に財宝を生み出すアイテムだとか、様々な説があって本当のところは不明だがな。
かつてマックスが言っていた話は、本当だったというわけね。
永遠の命というのは不老不死になるという意味ではなく、いくら倒してもリスポーンできるという意味で。
無限の財宝というのはスポーンさせた魔物を倒せば素材として売れるということ。
400年も前の情報にしては、むしろ歪みが少ないことに驚くレベルね。
「魚ダンジョンのクリア報酬も同じものだったらいいわねぇ。
魚食べ放題……うふふ……じゅるり」
「魚ダンジョンだけで3周するつもりか……」
「やる気ですね、あれは。
あの……その……諦めましょう」
「マックス。魚ダンジョンを3周したら、結婚しましょうか」
「なぬっ!? 本当か、エノキ!?」
「ええ。それから家を建てる場所を探しに行きましょう。
肉と魚がいつでも無限に得られるなら、あとは農作物が安い場所がいいかしらね?
バランさんのサンドイッチ屋の近くとか、アドンさんの牛丼屋の近くってのも捨てがたいけど、飛んでいけばすぐだからあんまり気にしなくていいかしら」
「おお……それは夢が広がるな。
場所はエノキに任せるとして、家は財宝まみれにしたい。セキュリティをどうするか……意外と誰も来ないような人外魔境のほうがいいのか?」
あれこれ話しながら飛んでいく。
お祭りは準備が一番楽しいと思うのはアタシだけかしら? 楽しい時間って、それを待つ時間が一番楽しいわよね。
さあ、ミートピアが見えてきたわ。
これからが楽しみね。
この物語はここで終わりです。
読んでくださった方、ありがとうございました。
楽しんでいただけたら幸いです。
2月1日から「2」の連載を始めます。
「Sランク」の兄たちが犠牲になったオークエンペラーはどうなったのか、牛ダンジョンの街の深すぎる空堀はどうやって造られたのか、「Sランク」オドンの長兄アドンと牛丼屋アドンの関係とは――




