第22話 別れを惜しもう
「世話になったな」
「実力が離れすぎてて、まったく参考にならなかったけど」
「またいつか、どこかで会おう」
「惚れ直したわァん。追いつくのは無理でも、追いかけるのは続けるわよォーう」
Sランクの4人といっしょに夕食を済ませた。
この世界でこの稼業だから、また会えるとは限らない。
いったん別れて別の道を行くとなれば、互いを惜しんで送別会となる。
けれども、いかに惜しもうと、やがて終わりの時は来るのよ。夜は更け、送別会はおひらきに。火が消えたような寂しさがあるわね。
◇
翌日。
「おはよう、マックス、ルナ。
今日からまたアタシたちだけね」
「おはよう、エノキ、ルナ。
今日はギルドに素材を出して、差し入れを探すか?」
「おはようございます、エノキ様、ルナ様。
あの……その……中心街のほうに金箔をあしらった菓子を売っていると小耳に挟みました。ギルドへの差し入れにいかがでしょうか?」
ずっと一緒に居たのに、いつの間に。
ドラゴンの感知能力すごいわね。
「あら、食用の金箔? チョコレートか何かかしら。黒い食べ物にあしらうと高級感があっていいわよね。
一応聞いておくけど、銅や銀とか混ざってないわよね?」
工芸用の金箔には、色味の変化をつけるなどの目的で、銅や銀が大量に含まれている場合がある。そして銅や銀は、食べてしまうと人体に有害だ。
銅は食用金箔2回分ぐらいの量で有害症状が出るし、銀は排出されずに体の中に蓄積していく性質があるので繰り返し食べるとどんどん蓄積してしまう。
「申し訳ありません。
あの……その……もっと接近しないと、ここからでは感知できません」
「行ってみよう、エノキ。
大丈夫そうなら買っていけばいい」
「そうね。そうしましょう。
それと、もちろん牛肉料理の美味しい店も探すわよ」
というわけで、まずは冒険者ギルドへ。
◇
「じゃあお願いね」
素材を渡して、90分の猶予を得た。
今のうちに金箔のお菓子を売る店を見に行きましょ。
「こちらです。
あの……その……間違いありません。銀や銅は含まれていないようです」
店の前まで来ると、ルナが言った。
ドラゴンが言うなら間違いない。
アタシたちは店に入ってみた。
「いらっしゃいませー」
店内はまるで宝石店。
ショーケースに飾られた菓子は、どれも高級感あふれる洗練された形と彩りだった。
やたら小粒で、入れ物ばっかり大きいのもお約束よね。
「どんな味なのかしら?」
野菜市場で見た野菜を思い出して、アタシはマックスに尋ねた。
甘そうな見た目で辛い野菜とかあったし、これも見た目通りの味ではないのかも。
ちなみに、見た目はチョコレートそっくりの黒い塊。
「さあ? 食べたことないし、あっても味を説明するのは難しいな。気になるなら、買ってみたらいいんじゃないか?」
「それもそうね」
アタシの場合、〇〇みたいな味と言われても、その〇〇を知らないことが多い。
この異世界に来てから、まだ1ヶ月ほどなのよね。
というわけで、いざ実食。
「あら? ふーん……これは何かしら? フルーティーな甘さね」
チョコレートのような外見の通り、甘い菓子だ。
しかしチョコレートとは違う風味である。
桃味のカフェラテ、みたいな「これはこれで美味しいけど、アタシが知ってるアレじゃない」て感じね。
「あー……うん、何かの果物だな。
んー……この味は、食べたことがあるような気がするけど、何だっけ?」
「これはゴボタかと。
あの……その……おそらくですが」
「あー……! うん、ゴボタだ。言われてみれば確かに」
「……ゴボタって何かしら?」
まったく……こうなるから困りものよね。
ひどい置いてきぼりだわ。
「ゴボタっていうのは――」
「いえ、聞いても分からないから良いわ。
とにかく味は美味しかったし、差し入れに買っていきましょう」
そういうことにした。
それから冒険者ギルドに戻って素材を出して、また街を散策して……その繰り返しね。
90分ごとに戻らないといけないから、メリハリのある散策になったわ。こういう形式も、なかなか良いものね。
「うーん……結局、牛丼屋を超える感動はなかったわね」
1週間かけて屋台から高級店まで色々ためしてみたけど、馴染んだ味に勝るものはないわ。
美味しいは美味しいんだけど、結局同じところへ戻ってきちゃうのよね。
「そろそろミートピアに帰りましょうか」
「そうだな。次は鳥ダンジョンだ」
「お二方とも飛べるようになってきましたから、いいところまで行けるでしよう。
あの……その……なんなら乗せて飛ぶ形で戦ってもいいですし」
ちょくちょく練習してきた成果が出ているのよね。
だいぶ飛べるようになってきた。
けれども街乗りとレースは違うように、飛べるだけのアタシたちでは空中戦までは、まだ難しいはず。
鳥ダンジョンは、その練習場所として良さそうよね。楽しみだわ。




