第20話 牛ダンジョンをクリアしよう
牛ダンジョン内部は各階層ごとに出てくる魔物が固定されていた。
ミノタウロス。
その三等兵から始まって、二等兵、一等兵、上等兵と順に強くなって、第5階層で中ボスの兵長。その後は3階層ごとに中ボスが出てきて、曹長、大尉、大佐、大将、皇帝。
要するに豚ダンジョンと同じだ。構成も同じなら戦法も同じ。オークもミノタウロスも、人型のパワーファイターである。
「ブモオオオ!」
多少違うのは、ミノタウロスの頭に角があって、下半身が牛のそれに近い形状であること。四足歩行による突進がやりやすい骨格で、角を武器とした突進攻撃をしてくる。
この点オークは、顔こそ豚だが首から下は完全に人型で、二足歩行に特化している。上半身の形状はよく似ているから、殴ったり掴んだり投げたりもできるのだろうが、攻撃手段のほとんどは披露される前に死んでいくのも豚ダンジョンと同じ。
「行くぞエノキ! そーれ!」
当然、攻略法も同じで、基本的にはマックスにお任せ。
アタシたちは後ろをついていくだけだった。
で、退屈したマックスが始めた遊びがコレ。
突進してきたミノタウロスをあえて受け止め、投げ飛ばす。
「かかってきなさいマックス! おりゃあ!」
ミノタウロス皇帝をぶん投げるマックス。
メイスで打ち返すアタシ。
つぶれたトマトみたいになってしまったミノタウロス皇帝。
本気で殴打すると砕けてしまうので、打って「返せる」ように手加減するのがポイントだ。
「ほっ……! っと……! よし! 今回は私の勝ちだな!」
打ち返されたミノタウロス皇帝を、マックスがキャッチできたらマックスの勝ち。できなかったらアタシの勝ち。
ただし打球()はマックスめがけて一直線。キャッチできるかどうかの難しい点は、マックスが相手を壊さないように優しく受け止めることができるかどうかだ。
この戦績はもちろんアタシが圧倒している。マックスは手加減が下手だから、ここまで9割以上のミノタウロスたちを砕いてしまった。今回はミノタウロス皇帝が頑丈だったからキャッチに成功したわね。
「ヒール」
いつも通りに回復魔法で治して、無傷に戻す。
あとは収納魔法へ。
手加減が苦手でいつも相手をバラバラにしてしまうマックスだけど、今回はバラバラにしていない。砕いているのはアタシ。でも今回のマックスは、戦闘行為としては加減しすぎ。ろくにダメージを与えていないんだから、結局マックスは手加減が苦手ね。
「何もかもメチャクチャだ……ちっとも参考にならねぇ……」
「ミノタウロス皇帝を投げ飛ばした?
あげく一撃で倒した?
俺は夢でも見てるのか?」
「死体にヒールで傷が治るのもメチャクチャだ。
なんで死体に回復魔法が効くんだよ……」
「こんなわけないわァん……! こんなに『世界』が遠いわけないわよォーう……! 冗談じゃないわよォーう……!」
呆然とするSランクの4人。
「やっぱり『2世』なのかしらね? 手応えがないわ」
「そうだな。ダンジョンの魔物は、全部倒してもまた発生するし、自分で進化したわけでもないんじゃあないか?」
話している間に、天井から光が降り注ぎ、床に宝箱が現れた。
「さて、ご開帳ね」
中身は予想通り、雫のような形をした何か。
豚ダンジョンで手に入れたものとぴったりフィットする。
ただし色が違う。
豚ダンジョンのものはピンク色で、牛ダンジョンのものは白と黒のまだら。
「これって、もしかして『どっちでもいい』のかしら?」
「どっちでもいい?」
「豚ダンジョンのものだけ3つ集めても、他のダンジョンのものと合わせて3つ集めても、てこと。
とにかく3つ集めれば完成する。ただし集めたものがどこのダンジョンのものかで、完成品の効果が変わる……て感じじゃあないかしら」
部品を集めて完成するタイプにしては、色が統一感なさすぎだわ。
だからこその予想。
もしかしたら、同じダンジョンのものだけ集めないと効果がないのかも。そっちの可能性のほうが高くなった気がするわね。
「とにかく3つ集めないと、てことだな。
それなら予定通り、次は鳥ダンジョンに行こう」
「そうね。そうしましょう」
単一のダンジョンを3周するのが正解だったとしても、豚、牛、鳥はコンプリートしておきたいわ。せっかくだものね。
「とりあえず、食事にしましょ」
帰る用の転移魔法陣みたいなものは無いので、来た道を引き返すしかない。
順調すぎるぐらい順調に来たので、食料には余裕がある。
「料理人だ。俺がやろう」
ドワーフのゴンツが言った。
盾と兜を外すと、他にもいくつか道具を取り出して、たちまち簡易的なキッチンを組み立ててしまった。
やっぱり、あの装備はそういう使い方をするのね。
「野菜と肉を出してくれ。
仕込みと解体なら俺たちも少しはできる」
「本職ほど上手くないけどな」
「ちょっとぐらい何かしないと、冗談じゃないわよォーう」
と残りの3人も言うので、収納魔法から適当に出してあげた。
たちまち2人ずつに別れて、ミノタウロスの解体と野菜の仕込みを始める。
「見事な連係ね」
「私たちが手を出す隙間はないな」
包丁の使い方ひとつ見ても、アタシたちとはレベルが違う。まるで機械のような正確さと素早さで、一気にガーッと進めていく。
趣味でたまにやる程度のアタシたちとは違って、毎日かなりの量をやり込んでいるのが分かる。
見て学び、その野菜をそう切ればいいのだと分かった時には、もう作業が終わっている。次の野菜はまた別の切り方をするので、本当に手を出す隙間がない。
「あとは煮込んでいくだけだ」
ゴンツが火魔法を使い、加熱を始める。
薪などは無いので、火魔法だけで加熱するようだ。
「焦がさないように、弱火でじっくりやるのがコツだ。焦がすと洗うのが大変だからな。ダンジョンの中では、料理を作るよりも片付けるほうが工夫が要る」
「ボス部屋は、ボスさえ倒せば他の魔物は湧かないから安全だよな。次にボスが湧くのは、戦った奴らが出ていってからだ」
ゆえにボスだけを狙って連戦はできない。
語りながら、エルフのローフが水魔法を出す。
運んでくるのは大変だけど、魔法で出せるならこれほど便利なものもないわね。
飲む、洗う、煮る――あらゆる場面で必要になる。
「さあ、もう出来たぞ。どうぞ召し上がれ」
30分ほども煮込むと、最後に塩を振ってゴンツが完成を告げた。
ケンタウロスのオドンと、女装オカマのモリーが付け分けてくれた。
スープだ。味付けは塩だけ。味噌かコンソメでも入れたら美味しくなりそうだけど、果たしてお味は――
「美味い……!」
「塩と火加減だけで、これほどの味になるのね」
想像以上に美味しいスープだった。
塩が後入れなので、味を濃く感じる割に、塩分量は控えめ。具材を大きめに切ると、中が薄味なのが分かってしまうでしょうけど、絶妙な大きさに切ってあるから食感を残しつつ、味もしっかりしているわね。
たっぷり堪能してから、出口へ向かうことにした。




