第18話 牛ダンジョンの街へ行こう
街の外へ出て、オーク皇帝の死体を出してみせた。
かつてオークエンペラー率いる大集団によって兄たちを失った4人は、しみじみとオーク皇帝の死体を眺めたあと、空を見上げて祈りだした。
「気持ちに区切りがついた。ありがとう」
「ようやく前へ進める」
「俺達の戦いは、今やっと終わったんだ」
「やっと兄さんたちの冥福を祈れるわァん」
積年の思い。察するに余りあるわ。
こんな時に掛ける言葉って、ひとつしか思いつかないわね。
「これからどうするの?」
尋ねると、4人は顔を見合わせた。
何やら視線だけで会話しているようね。
そして4人はアタシたちを見た。
「次は牛ダンジョンに行くだろ? 一緒に行っていいか?」
「そうだな。オーク皇帝を倒せる実力がどんなもんか、見てみたい」
「そこへ追いつくのが次の目標だな。
こいつは生涯の目標になりそうだ」
「生きているうちに追いつければ、胸を張って会いに行けるわァん。
無理でも『精一杯やった』と言えるように生きないとねェん」
前向きね。
確かに彼らは前へ進み始めたみたいだわ。
「アタシは構わないわ。
マックスは?」
「もちろんいいとも」
「ルナ、6人乗っても大丈夫かしら?」
「もちろんです。お任せください。
あの……その……全然大丈夫です」
詳しく聞くと、体重の半分ぐらいの重さまでは、持ったままでも普通に飛べるらしい。もとの大きさだと体重もクジラ並なので、今回だとアタシたちの重さは「普通に飛べる限界」の1割ほどだという。
それなら大きさを10分の1にしてもギリギリ普通に飛べるわけだから、誰かに見られて大騒ぎにならないように、大きさを制限して飛んでもらうことにした。
「じゃあお願いするわね。
あとは、いつ出発するかだけど」
「善は急げだ。今すぐ行こう」
マックスの目は、もう牛肉しか見えてないわね。
……いえ、マックスだけじゃあなかったわ。
「「意義なし」」
そういうことになった。
とんぼ返りね。
この世界にトンボって居るのかしら?
◇
「ぃやっほぉーう!」
ルナの背中で大喜びするマックス。
空を飛ぶと毎回こうなるわね。
竜人の憧れ。分からなくもないけど……。
ちなみに自分で飛ぶ魔法も練習していて、少しは上達したわ。10秒かそこらは飛べるけど、そのあとバランスを崩すのよね。自転車の「乗れるようになりかけ」とよく似た状態だわ。
「ぎゃあああああっ!」
「高い高い高い高い!」
「しがみつけ! 手がちぎれてもしがみつけェ!」
「冗談じゃないわよォーう!」
Sランクの4人は大騒ぎ。
高さってのは本能的な恐怖よね。
けどまあ、その甲斐あって到着まではあっという間だった。
「……ひどい目にあった……」
「地面だ……地面がある……」
「人類が空を飛ぶなんて間違いなんだ……」
「冗談じゃ……ない……わよォー……う……」
Sランクの4人は青い顔をしてルナの背中から降りた。
特に女装オカマのモリーは、息も絶え絶えだ。
「今度も豚ダンジョンの街みたいに、牛ダンジョンを囲んで街ができたのかしら?」
空から見た感じだと、そのように見えた。
円形の城郭都市。その中央にある広場。広場を囲む防壁。広場の中央にある構造物。
「基本的に同じ構造だな。
ただし、牛ダンジョンの街は、中心ほど高級店で、外側ほど格安店だ」
「あら? こっちは安全対策どうなってるの?」
豚ダンジョンの街では、ダンジョンから魔物が溢れた場合に備えて、中心は危険だから逃げやすい屋台ばかりになっていた。高級店は街の外側だ。
「掘ったんだ」
「掘った?」
「まあ、見たら分かる」
それなら楽しみにして街へ入りましょう。
ああ、そういえばサンドイッチ屋のバランさんの兄が、この街で牛丼屋をやっているという話だったわね。
「誰か、牛丼屋のアドンさんって知ってる?」
「知ってるぞ。あれはいい店だ。手軽に食えて、腹持ちがいい」
「早い・安い・美味いの3拍子そろってるよな」
「持ち歩くにはちょっと不便だけど、さっと食っていくには便利な店だな」
「場所はねェん……ほら、見えてきたわァん。あれよ」
指さす先に視線を向ければ、冒険者ギルドのすぐ横に店があった。この位置まで来ると、周囲に屋台は見当たらない。高級店と格安店の中間――大衆店が多い。
その例に漏れず、聞いていた屋台ではなく、しっかり店を構えている。看板には「牛丼屋アドン」と書いてあった。赤と黄色とオレンジ色で構成された看板は、謎に既視感がある。異世界でも同じような色が使われるなんて、色が持つイメージってやつかしら。
「屋台だと聞いてたけど……店を持ったんだな」
「そうらしいわね。今度バランさんに教えてあげなきゃ」
じゃあとりあえずアドンさんにご挨拶ってことで、いざ入店ね。




