第17話 次の目的地を考えよう
商人ギルドの支部長は、すごすごと帰った。
職人ギルドの支部長は、淡々と帰った。
錬金術師ギルドの支部長は、ニッコニコで帰った。
そして冒険者ギルドには、冒険者ギルドの支部長と支部長補佐、それとアタシたちが残った。
「ま、そういうわけで、これが買取額だ」
金貨がぎっしりの革袋がどっさり。
山あり谷ありだけど、最終的にはけっこうな稼ぎになったわね。
「それと」
複雑な顔をしていた支部長が、一転してニッコリと笑った。
「やってくれたな」
「豚ダンジョンのクリアね?
あっちのギルドでは『数百年ぶり』と言われたけど、本当なの?」
「本当だ。
ダンジョンをクリアするという偉業は、およそ400年ごとに繰り返されてきた。
彼らは歴史に名を残す英雄として知られ、その道を目指す者からは神聖視されるほどだ。
今回は、お前たちがそうなった……という事だな。実に喜ばしい」
それがうちのギルド支部から出てくれたのは名誉だ、という事でしょうね。
それを口に出さないあたり、気持ちのいい人物だわ。
「クリア報酬が現実離れしたものだといって有名なのだが、真実は誰も知らん。
それで興味本位なんだが、どんな報酬だったんだ? 子供っぽくてすまんが、これでも昔は本気でクリアを目指していた時期があってな……いや、若気の至りというやつだ。恥ずかしい」
「あー……それがねぇ……」
「なあ……?」
「なんだ? 歯切れの悪い……まさかクリア報酬なんて存在しないのか?」
「そうじゃあないわ。そうじゃあないけど……よく分からないのよね」
アタシはクリア報酬を収納魔法から取り出した。
それは雫のような形の、謎の物体。
何に使うのかも、使い方も、さっぱり分からない。
「なんだこりゃ?」
「わからないわ。それで困ってるのだけど、支部長は何か分かる?」
「いや……すまん」
「あの……」
と支部長補佐が割り込んできた。
胸元からペンダントを取り出して。
「こういうものではないでしょうか?」
支部長補佐が取り出したのは、ハートが割れたような形のペンダント。
その片方だけだ。
もう片方は、彼の大事な人が持っているのだろう、と想像できる。
「クリア報酬の『部品』ということ?
周回して複数集めればいいのかしら? それとも――」
「牛ダンジョンと鳥ダンジョンもクリアしろ、という事じゃあないか?」
アタシたちは視線を交わして、頷きあった。
豚ダンジョンにもう1度。あるいは牛ダンジョンと鳥ダンジョンも。
どっちにしても、行く理由が増えたわね。
「それはそうと、支部長補佐……お前、意外とそういう趣味があったんだな」
「妻とのアレではありませんよ? 5歳の娘とのペアです」
割れたハートのペンダントを、パカッと開く支部長補佐。
中には娘さんの肖像画が入っていた。
「ああ……」
「おませさんなのかしら? ふふふ……可愛らしいわね」
「今が一番かわいい時期だな」
ほっこりするけど。
その娘が、あと10年もすると「パパ臭い」とか言い始めるのよね。
けれど反抗期は親から自立するための大事な成長過程。
諸行無常だわ。
◇
「居たぞ! 居た居た!」
「おお! 英雄みーっけ!」
「やったなオイ! やったじゃないか!」
「本当よォ! やってくれちゃって! 冗談じゃないわよォーう!」
Aランクなのにパーティー名が「Sランク」の4人だ。
受付ロビーへ戻ったとたんに見つかった。
「豚ダンジョンをクリアしたんだって?」
「最下層まで行ったんだろ? オークエンペラーは居たか?」
「オークエンペラーは俺達にとっても仲間の仇だ」
「あんたたちが倒してくれたなら感謝しかないわよォーう!」
囲まれ、もみくちゃにされて、質問攻めにされながら、流れるように酒場へ連れて行かれて飲まされる。
良いことがあれば酒で祝い、悪いことがあれば酒で流す。
それが彼らの流儀らしい。
「さて、聞かせてもらおうか武勇伝」
「聞きたいぞ2人の武勇伝」
「その武勇伝を言ってくれ」
「2人の伝説の始まりよォん!」
「はいはい……まったく元気ね、あなたたちは」
「だいたいは私が倒したからな。たっぷり聞かせてやろう」
マックスが鼻高々ね。
その前に、アタシは気になっていたことを尋ねることにした。
「オークエンペラーとオーク皇帝って同じかしら?」
Sランクの面々が仲間を失ったのは「オークエンペラー」率いるオークの大集団。
一方で、豚ダンジョンの最下層に出たのは「オーク皇帝」だった。
おにぎりとおむすびみたいな単なる同義語なのか、それとも別物なのか。
「同じでもあり、別物でもある」
「オーク皇帝というのは『種族名』だ」
「オークエンペラーは、オーク皇帝の中でも、自分で存在進化した個体のことをいうんだよ」
「オークエンペラーは『初代オーク皇帝』ってことよォん。その子供は、全部じゃないけど生まれつき『オーク皇帝』なのよォん。だけど『オークエンペラー』ではないねェん」
「つまり『2代目』以降だと、力は強くても経験が足りないことがあるわけね?」
「そういうことだ。
俺達が撃退したやつは、目の前で進化しやがったからな。間違いなくエンペラーだ」
「ただでさえ手強い敵がさらにパワーアップするとか、あれは絶望したよな。
2人が倒したのがどっちなのか分からんが、それはどうでもいい」
「俺達は『撃退』しただけだ。『討伐』は出来なかった。
今の俺達でも無理だろう。あんたたちにしか出来ない事だ」
「本当に尊敬するわァん。そして兄さんたちの仇討ちを、ありがとう」
4人が一斉に頭を下げた。
これは、受け取らないわけにはいかないわね。
「見る? オーク皇帝の死体」
「「是非」」




