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第15話 帰る準備をしよう

 豚ダンジョンの街で食べ歩き。

 中心には屋台が集まっているけど、それより少し外側には大衆食堂が多数。メニューは生姜焼き定食みたいなのや豚汁といった、なじみ深い料理。

 さらに外側へ行くと高級店がズラリ。メニューは、しゃぶしゃぶ、ローストポーク、厚切りステーキなど。いかにもって感じね。日本にいた時でも食べたことない料理だったわ。


「どれも美味しかったわね」


「そうだな。しかし一番というと――」


「初日に見つけたサンドイッチ屋ですね。

 でも、あの……その……毎日リピートは、さすがにやりすぎでは?」


「仕方ないわよ。あの味は定住を検討するレベルだわ」


 そうも行かないから、毎日10個ずつ注文して、収納魔法に溜め込んでいる。

 移動しながらでも手軽に食べられるし、栄養バランスも悪くない。いろんな組み合わせで頼んだから味変もバッチリ。今後の携帯食はあれに決まりね。


「オーク皇帝を解体してもらったら、あのサンドイッチ屋に調理してもらおう」


「マックス……」


「うん」


「あなた、天才ね」


「そうだろうとも」


 マックスが渾身のドヤ顔。

 そこへ申し訳なさそうにルナが口を出す。


「あの……その……オーク皇帝は解体に出していませんが……」


「そこよねぇ」


「また今度だなぁ」


 今日で1週間。約束の日だわ。冒険者ギルドで解体済みの肉を受け取ったら、ドラゴンの売り先がどうなったか確かめに戻らないと。オーク皇帝の解体は、戻ってから頼んでみようかしら。別の街で解体に出すのがダメって決まりは無いものね。

 それに、豚ダンジョンでこれなら、牛ダンジョンや鳥ダンジョンも気になるわ。



 ◇



 というわけで冒険者ギルド。

 受付に顔を出すと、すぐに支部長室へ案内された。


「金額が金額だからな。良からぬ連中に目をつけられては面倒だろう」


 気遣いができる支部長だわね。

 そして差し出されたのは、拳よりもう少し大きいぐらいの革袋にぎっしり入った無数の金貨。

 この1週間の食べ歩きで、実は金貨を使うことは1度も無かった。なぜなら金貨1枚はおよそ10~30万円ほどの価値がある。武具でも買うのでなければ、個人の買い物で使う金額じゃあない。

 金貨というのは、商売人が仕入れのためにまとめ買いするだとか、お金がうなっている大商人が貴族への贈答用にするだとか、そういう規模の大きい場面で使われる。日本人の感覚でいうと、金貨を使うのは小切手を使うのに近い。


「数が多いからいちいち読み上げないが、内訳はこの通りだ」


 一覧を差し出された。

 どの魔物のどこの素材がいくら、というのがズラリと書いてある。

 最後の合計が、金貨100枚を超えているわね。


「肉は?」


 マックスが尋ねた。

 支部長は肩をすくめる。


「大金をかせいでも、興味があるのは肉か。

 Aランクともなると稼ぎがデカすぎて、金銭感覚がおかしくなるのかねぇ。

 ああ、肉だったな。肉はこのあと解体所で受け取ってくれ。収納魔法を見られるなよ?」


 確かに金銭感覚は麻痺してるわね。

 ルナの財宝があまりに多くて……金額にすれば数十億円かしら? 1000万円稼いでも1%未満ってこと。年収400万円のサラリーマンが1万円を見る感覚ね。安くはないけど、驚くほどの大金でもない。


「どうもありがとう」


 そのあと解体所へ。

 山のように積まれた肉を、収納魔法へ次々と放り込む。

 他の冒険者たちの目から隠すため、簡易的な仕切りを用意してあったのは助かった。



 ◇



 最後に、いつものサンドイッチ屋へ。


「そういうわけで、用事は終わったから帰るわ。

 でもサンドイッチは気に入ったから、またちょくちょく来るわね」


「どうもご贔屓にありがとうございます。

 豚ダンジョンをクリアなさったなら、牛ダンジョンにも挑戦なさるんでしょう?

 牛ダンジョンの街には、私の兄が牛丼屋をやってますから、食べてみてください。

 具材をバラバラに用意して、お客様の注文で組み合わせるっていう方式は、兄が思いついた商法なんですよ」


「そうなの?

 なんて名前の店かしら?」


 牛丼ということは、米が食えるってこと?

 これは期待大ね。


「うちと同じで露店なんで、店の名前なんかはまだ……。

 遅くなりましたが、私の名前はバランと申します。

 牛丼屋の兄はアドンといいますんで、探してみてください」


「分かったわ。探してみるわね。

 ああ、それと、こっちも名乗るのが遅くなったけれど、アタシは榎。

 こっちはパーティーメンバーのマックスと、アタシの従魔のルナよ」


「よろしく。いつも美味いサンドイッチをありがとう」


「あの……その……ごちそうさまです」


「これはこれは、ご丁寧にどうも。

 どうぞ今後ともご贔屓に」


「ええ、もちろん」


「なあ、エノキ。あの話を……」


「そうね……先に相談しておくべきかしら」


「あの話?」


「豚ダンジョンをクリアしたんだから、当然『少佐』よりも上のオークを倒したわけだけど。

 最後に倒したのがオーク皇帝。これがどんな味なのか興味があってね? せっかくだから美味しく食べたいじゃない? そしたらもう、知ってる限りで一番おいしい豚肉料理を作れる人に頼るしかないってわけ」


「つまり……その……私に?」


「ええ。まだ解体してもらってないけど、腐る心配はないから大丈夫。

 この1週間で解体してもらったのは、『三等兵』から『兵長』までで、それより上はまだまだ時間がかかるから今回は諦めたのよ。

 そのうち『中佐』から『皇帝』まで順番に持ってくるから、お願いしていいかしら?」


「ふ……震えが来ちまいますよ。料理人として、そんな挑戦をさせていただけるんじゃあ、もうお二人には足を向けて寝られませんね。

 腕を磨いて、楽しみに待ってます。どうぞいつなりとお持ち込みください」


「よかったわ。

 それじゃあ、そのうちに……よろしくね」


 こうして、後の楽しみを残しつつ、アタシたちは豚ダンジョンの街を出ることにした。

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