第12話 豚ダンジョンを攻略しよう
「ふんふんふ~ん♪」
ドカッ!
グシャッ!
パァン!
「ヒール、ヒール、ヒール」
ご機嫌で魔物をぶっ飛ばしながら進むマックス。入口からずっとニコニコだわ。
その後ろをついて歩き、回復魔法でバラバラ死体をもとに戻して収納していくアタシ。忙しいったらないわね。
ルナにはドラゴンの感知能力を活かして警戒を任せている。アタシやマックスの感知能力では、敵は察知できても罠などは察知できない。その点ルナの感知能力は、敵も罠も財宝の位置までも感知できる。
「オークばっかりだわ。豚ダンジョンって、こういうことだったのね」
「あの……その……そこの角を右へ進んだ先に宝箱です」
「了解だ。ふんふんふ~ん♪」
進んだ先に宝箱。
そして開けてみると、中には豚肉。
このダンジョンは、宝箱の中まで豚肉しか出ない。
徹底的に豚ダンジョンだわ。
「そういえば、崩落の心配があって洞窟はちょっと……とか言ってたけど、大丈夫なのかしら? あんまり加減せずに戦ってるみたいだけど」
「ダンジョンは大丈夫だ。
並大抵の攻撃では壊せないし、壊せたとしてもすぐ再生するからな」
「そうなの?」
「ダンジョンそれ自体が、ひとつの強力な魔物だという説がある。
実際ダンジョンの魔物はダンジョンの中で突如として発生するからな。親から生まれるとかではなく」
リスポーン?
ゲームみたいな仕様ね。不思議な世界だわ。
「魔物を生み出す魔物ってことね」
……てことは、ダンジョンを討伐したら経験値が貰えるのかしら?
アタシのレベルはカンストしてるけど、その「カンスト」はゲームの中での話。そして、ここはゲームの中の世界ではない。つまり「カンスト」はもっと上かもしれない。
ただし、どれほどの経験値を獲得すればレベルが上がるのか分からないけどね。経験値テーブルって、一般的にレベルが高いほど多くの経験値が必要でしょ?
「エノキ。ダンジョンは討伐するものではなく、クリアするものだぞ」
「クリア? 最下層まで攻略するってこと?」
「そうだ。
過去に数回だけそれを達成した人がいる。他では得られない莫大な報酬が得られたという話だ。永遠の命だとか無限に財宝を生み出すアイテムだとか、様々な説があって本当のところは不明だがな」
「面白そうね。
……とはいえ、この豚ダンジョンはクリアしても『無限の豚肉』とかだと思うけど」
「それはそれで結構なことだ。肉に困らなくなるからな」
「まあそうだけど」
その後も順調に進んでいった。
洞窟タイプの階層は天然の迷路みたいなものだけど、ルナの感知能力にかかれば迷うこともない。どこかに階段があって下の階層に進める。
マックスはずっとご機嫌で魔物を倒し続け、アタシたちはどんどん進んでいく。
ひとつ下の階層に進むたびにオークが強くなっていったけど、ドラゴンを単独で討伐できるマックスには何の抵抗もできない。
「あら? ここは広いわね」
3つの階層を抜けて第4層。
そこは大きな広間だった。
「ボス部屋ってやつだな」
「あの……その……正面、オーク兵長の気配です」
オークの上位種、オークソルジャー。
そのオークソルジャーには、5つの種類がある。
三等兵、二等兵、一等兵、上等兵、兵長。
「はいはい、さっさと次行くぞ」
パァン! と小気味いい破裂音を響かせ、オーク兵長は一瞬で粉砕された。
アタシがヒールでそれを治して、砕けた死体をもとに戻す。
収納っと。
「まったく……手応えがなくてつまらないな」
言葉とは裏腹に、ニッコニコのマックス。
アタシに良いところを見せたいのかしらね。
その後も豚ダンジョン攻略は順調に進んだ。
第5階層からは、3階層ごとにボス部屋があった。
第5階層――オーク伍長。
第6階層――オーク軍曹。
第7階層――オーク曹長(ボス)。
第8階層――オーク少尉。
第9階層――オーク中尉。
第10階層――オーク大尉(ボス)。
第11階層――オーク少佐。
第12階層――オーク中佐。
第13階層――オーク大佐(ボス)。
第14階層――オーク少将。
第15階層――オーク中将。
第16階層――オーク大将(ボス)。
そして第17階層――
「ひときわ大きいわね」
「オーク元帥だ」
それでもパンチ1発であっけなく倒していくマックス。
竜人のパワーえげつないわ。
第18階層――オーク王。
第19階層――オーク皇帝。
「もはや巨人族ね」
「身長7mといったところか」
ただのオークは身長2mぐらい。それでもアタシたちに比べれば大きいのに。
伍長から軍曹まで、少尉から大尉まで、少佐から大佐まで、少々から大将まで、元帥から皇帝まで、という段階で1mずつ大きくなっていった。
「まあ、何であれ関係ないがな」
マックスが殴る。
オーク皇帝が変顔で吹き飛ばされた。
しかし砕けない。倒れただけだ。
しかもすぐに起き上がる。
「おっと? ここに来て初めて頑丈だな」
もう1発殴る。
オーク皇帝は顎の骨が砕けたようだ。
痛みに悶え、怒りのままに吠える。
「まあ、ほんのちょっぴりだがな」
マックスの第3撃。
すでに砕けたオーク皇帝の顎――その下の、喉仏へ鋭いパンチが突き刺さる。
よく見ると、同時に土魔法を発動しているわね。パンチに「重さ」を加えている。これでどうして「重力操作で空を飛ぶ」の発想が出てこないのか不思議だわ。
オーク皇帝は喉を潰され、声も出せずに悶えた。
呼吸器を潰され、オーク皇帝が窒息していく。
マックスは追撃せずに距離をとって窒息死を待った。
「さすがに可哀想だわ」
アタシはメイスを取り出し、オーク皇帝の頭を潰してあげた。
苦しむ相手にトドメを――武士の情けってやつね。
ま、現代の地球では違法行為として軍法会議にかけられるけど。それでも見るに見かねて「楽にしてやる」という兵士は出てくる。
違法だろうと何だろうと……戦場にも慈悲はある。たとえ「生かすことが倫理的」と画一化された世界でも、実際に目にした兵士は「慈悲」をかけずには居られない。アタシは「それ」を罰するべきじゃあないと思うわ。それこそが人間を「人間」たらしめる最後の砦じゃあないかしら。




