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59.小母さんまで出てきたよ……(ニール)



「小父さんが何を言いたいのか分からない……です」


 エレンのことを考えれば、俺は邪魔じゃないのか? エレンの気持ちを優先するといっても、未来のことを考えれば諦めさせたほうがいいだろう。

 でも、小父さんの言い方はエレンの気持ちを優先して、俺と結婚させたいように思えてしまう。


 ……いや、俺の勝手な想像だ。俺の願望と言ってもいい。

 きっと、小父さんは確かめてるんだ。俺がそんな気にならないように。


「ニール君は自分の妻になる女性を()()()()()満足させられないから、誰とも結婚する気がないのかい?」

「……」

「まあ、平民なら結婚してもいいという娘はいるかもしれないね。貴族ではないけど上流階級に身を置くことができる。それに面倒な社交はしなくてもいいしね」

「……」

「そういうお嬢さんを探しているのかな? でも、上流階級に身を置いていれば、なかなか見つかるものじゃないね」


 図星だ。

 いまだに前屈みになっている状態で、小父さんの言うことに対して何も返事が出来なかった。

 俺が結婚できるなら、そういう女性と知り合うしかない。

 けど、もし出会ったとして、俺はその女性を好きになるだろうか?

 ……きっと、エレンに思い切り振られないと、踏ん切りがつかないんだろうなぁ。

 もう、サクッと振られるようにしようか。小父さんの考えはわからないけど、エレンの幸せを考えても無理なんだから。

 前屈みだった体を起こして、小父さんと視線を合わせる。


「俺は……エレンが好きです。でも、小父さんの言う通り、幸せにしてやる自信がありません」

「……」

「でも、俺の存在がエレンの婚約者選びの邪魔になるのなら、もうエレンに近づきません。俺は……エレンが幸せになってくれればいいから」

「……ふむ。昔のやんちゃ坊主はどこに行ったのかねぇ。子供のころの君は貪欲で『俺が』って前に出る子だったのにね」

「子供のころはその時だけを考えていれば良かったから。今みたいに、将来を考えて我慢する必要なんてなかったんです……」


 懐かしい子供のころの記憶。

 俺たち男兄弟にエレンが加わって、年の差や運動神経の違いがあったけど、遊びでもなんでも1番になることを考えていた。

 でも今は自分のことだけを考えていればいいわけじゃない。

 自分の立場、相手の立場――貴族というしがらみは思ったより窮屈で、すべてを捨てて1人になりたいと思うこともある。

 自分の力でどれだけのことが成せるのかは分からないけど。


「でも子供のころに不自由ない生活ができたのは俺が貴族だからで、だから、逃げちゃ駄目だと思ってます。不自由な将来が決められていても」

「ふむ。実に『貴族の子』らしい答えだね。とはいえ、そんな風に思っている子は少ないけどね」

「小父さん?」

「エレンが自覚が出たのはつい最近だよ。まったく君を見習って欲しいものだね」


 小父さんがため息交じりに呟いた。

 確かにエレンは変わった。

 俺はわからないけど、ローズさんの物を欲しがって間違って階段から落ちて怪我を負った後からという。


「まあ、とりあえずそこは置いといて。君も聞いていると思うが、ローズがなかなか難しい恋をしていてね」

「あ、ああ、そういえば……」


 相手はエアルドレッド侯爵令息で、嫡男だという。

 互いに跡取り同士、うまくいかない恋だと噂されている。


「ただ、ねぇ。エレンはエレンでアルドリッド公爵令息に目を付けられてしまって」

「そういえば……」


 長男のリアム・アルドリッドに絡まれていたっけ。

 エレンはすごく嫌そうだったけど。

 ところで、どうしてアルドリッド公爵令息に絡まれるようなことになったんだ?


「小父さん、エレンは――」


 疑問に思って小父さんに訊ねれば、ローズさんの恋を応援するためにエレンに後を継ぐようにしつこく言っていたらしい。

 そんな中、カフェで店員が怪我をしたのを、魔力だけで治したらしい。

 怪我と言っても、指先の切り傷だったらしいが。

 しかし、魔力だけであっという間に治してしまうのは、今までにない治療方法だ。

 アルドリッド公爵令息はそれを間近で見て、エレンに価値を見出したらしい。


「おかげでいきなり婚約の打診が来てね。しかも、今日顔合わせに公爵家に顔を出せと無茶を言ってきた」

「なっ!?」

「私も一緒に行けば話がまとまりやすくなるからと、エレンは1人でアルドリッド公爵家に向かったんだよ」

「そんな、無茶な……」

「まったく、あの猪突猛進な性格は誰に似たことやら……」


 小父さんはため息をつくと、ソファーの背凭れに背中を預けて深く座り込んだ。


「あの性格は妻に似ているのかもしれないな」


「あら、わたくし、あの子ほど酷くなくてよ?」


 奥の扉が開くのと同時に、小母さんが少し不機嫌な表情をしながら現れた。


「……お久しぶりです。小母さん」

「久しぶりね、ニール。格好良くなったわね」

「はあ」

「ところで、貴方。わたくしの居ないところであれこれ決めるのは如何かと思うのだけれど?」

「済まないね。なにせいろいろなことが急に起こったからね。君に相談までいかなかったんだよ。エレンの強い希望でもあったしね」


 小父さんが小母さんに言い訳しているのを聞いていると、小母さんも今の状況がよくわかっていないらしい。

 それにしても、さすがエレンとローズさんの母。40に届く年だろうにその美貌は衰えていない。

 クリフ小父さんが小母さんを広告塔に使うのがよく分かる。

 ただ、今はエレンと同じ目を引く蜂蜜色の髪をまとめ、今は少し険のある表情をしていた。


「でも、ちょうどいい。君にも聞いてもらおうかね」

「分かりましたわ、旦那様。隣よろしくて?」

「どうぞ、奥さん」


 小父さんはそう言って座っている位置をずらす。

 それにしても2人は仲がいい。さすがに政略結婚ではなく好き合って結婚しただけある。

 小母さん……フロスト侯爵家の出だったっけ。あそこも美形だらけだよな。俺たちと年齢が合う令息令嬢が居ないから交流ないけど。

 父さんから聞いた話では、小母さんが小父さんを好きになって猛烈なアタックをしてやっと成就したらしい。

 小母さんはフロスト侯爵家の末娘。家族に愛されていたから、なかなか認められなかったとか。

 ……ん? 小父さんはペイリー伯爵家の後継ぎなのに、なぜなかなか認められなかったんだろう?

 小母さんのような目を引く美しさはなくても、小父さんだって顔立ちは整ってるんだよな。今は恰幅のいい体つきと、年を経て出来たしわと温和な表情のせいか、一目で目を引く――というわけではないだけで。


「ニール、どうかして?」

「あ、いえ。小母さんはいつもお美しいなと」

「まあ、口も上手になったのね」

「いえ、その……」

「ふふ、まあいいわ。時間もないし始めましょう?」

「はいはい、奥さん」


 小父さんは観念したようにため息をつくと、話し始めた。


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