57.心配で堪らない(ニール)
しばらくニール一人称です。
『ニールへ
この間はごめんなさい。
あなたの立場も考えずに、勝手なことを言ってしまって。
一方的に会わないと言ったのに、相談したい事があります。
もし、少しでもお時間を頂けるのであれば、連絡を頂けないでしょうか?
エレン・ペイリー』
エレンからこんな手紙が届いた。
丁寧な言葉遣いに変わっていっているのが、彼女の心情なのかと思うと胸にずっしりと重いものを感じる。
丁寧な言葉は俺と距離を置こうとしているのかと思えてしまって。
今までエレンの手紙は気軽なもので、何日後の夜会に出たいからパートナーお願いね、という軽いものだった。
それが今回の手紙は……
変わってしまったのは、エレンの気持ちに答えなかったからだろうというのは、簡単に推測出来る。
でも、どう言えばエレンを傷つけずに済んだのだろうか?
俺には、その答えが出なかった。
俯いて、机をダンっと叩いた。
エレンの嫁ぎ先が決まった? そこが嫌だった?
いや、小父さんはエレンの幸せを願っている。家のためより、エレンの気持ちを優先するだろう。
では、どうして相談したい等という手紙が来るんだろう。
とにかく、話したいことがあると手紙を寄こすくらいだ。何かあったのは確かだ。
『もし、結婚するなら……わたしとは、駄目、かな?』
夜会の帰り、馬車の中でポツリと溢したエレンの気持ち。
それを聞いて、すごく嬉しかった。
俺も――と返そうとして、自分の立場を考えて踏みとどまった。
俺は子爵家の次男。家のために生きていく――そう、兄さんと約束した。
自分の足で立つことも出来ず、家にぶら下がっている状態。自分が自由になる金銭は、お小遣いがちょっと良くなった程度。
そんな中途半端な俺に、嫁に来て欲しいなんて言える訳がない。
エレンに気づかれないよう、そっと息を吐いて呼吸を整えた。
そして、やんわりと断った。
今はつらく思っても、きっと俺を選ばなくて良かったと。そう思うようになる。
エレンは年頃の令嬢より抜きんでて美しく、アルドリッド公爵令息さえエレンに声をかけているのだから。
そう、思い込もうとしていたのに。
こんな手紙は、今までなく初めてのこと。
気になって、俺は急いでペイリー伯爵家のタウンハウスに向かうことにした。
階下に降りると、ちょうど兄と出くわした。
「そんなに急いでどこへ行くんだ?」
「ちょっと……」
「ペイリー家に……か? 手紙が届いたと聞いている」
「……」
「なあ、ニール。お前は俺の補佐として家に残ってくれると言ったが、確実にやらなければならないというわけじゃないんだぞ」
「兄さん?」
「お前がうちのためにと思ってくれるのは嬉しい。だからといってお前の人生を台無しにする必要はないんだ」
「でも」
「大変でも、俺1人で何とかするよ。他の家だって当主1人でやるか、代理を立てる。うちもそうすればいいさ」
兄さんはそう言うと、俺の肩をポンっと叩いた。
「兄さん」
「一度きりの人生だ。家のためにと自分の幸せを諦めるなよ」
「いい、のか」
「俺がいいって言ってるんだ。父さんも母さんも同じだよ」
「……うん。ありがとう」
参ったな。俺の気持ちなんてお見通しってことか。
でも俺がよくても、エレンに不自由な思いをさせたくない。
なら俺はどうすればいいのか。宮廷官吏になるか、騎士団に入るか。どちらかになれば、ある程度安定した生活が手に入る。
けれど、今のような生活をさせてやることは出来ない。
そこまで考えて、エレンは他の令嬢と違って、身に付けるもの、身分に頓着ない性格だったことを思い出す。
とはいえ、今の生活から不自由な暮らしになったら、文句も出るかもしれない。
今はドレスや食べるものに困ることがないから言わないだけで、かつかつの生活になれば文句の1つも言いたくなるだろう。
俺はそれらを上手く受け止められるだろうか。逆にエレンに文句を返してしまうかもしれない。
そう思うと、その場から動けなくなってしまう。
「1人で考えるな。エレンちゃんに相談もせず1人で悩んだって解決しないぞ」
そう、兄に言われて、俺も腹を括る。
出たとこ勝負だ。
ここで悩んでいたって、エレンの気持ちはわからないのだから。
「行ってくる」
「しっかり話してくるんだよ」
「うん」
俺は兄さんに短く答えると、玄関の扉に手をかけた。
今日は父さんも母さんも出かける予定がない。馬車を借りてペイリー伯爵家に向かった。
王都ではペイリー伯爵家と離れているものの、貴族は上流階級の住む場所に限られている。
すぐにペイリー伯爵家に着いた。
そういえば、勢いで来てしまったけど、先に連絡くらいするべきだったなと思いながら馬車から降りようとすると、前に馬車が停まっていた。
誰か出かけるのだろうか? それなら、邪魔になる時間に来てしまったなと思っていると、ちょうど玄関の扉が開いた。
出てきたのはエレンで、お茶会にでも行くのかデイドレスを着てお洒落をしていた。
エレンに声をかけると、なんとなく憂鬱そうな顔をした。
次の言葉を口にしようと思っていると、メイドの――確かエイダと言ったか――が、急ぐようにと声をかける。
「ニール、来てもらって悪いんだけど、出かけなければならないの」
「出かける? 茶会か何かに呼ばれているのか? それなら、予定も考えずに悪かった」
手紙をもらって、居ても立ってもいられない感じで出てきてしまったからな。
やっぱり先に連絡するべきだった。
でも、茶会かと聞くとそうでもないらしい。
「そうじゃないけど、大事な用事なの。急に決まった事で……」
「何かあったのか?」
「うん、ちょっと。……不安だったから、ニールの顔が見られて安心したわ」
「エレン」
「来てくれてありがとう」
無理に作った笑顔を向けるエレンは、何か重大なことを1人で決めたようで、そのまま行かせていいのか迷う。
けど、エレンはもう後ろを振り向くことなく、馬車に乗って出掛けてしまった。
「せっかく来てくれたのに悪いね、ニール君」
「小父さん」
「でも、私も君に話があったんだ。エレンを待つ間、話に付き合ってくれないかね?」
「……はい」
小父さんが何を言うのか、想像はつく。
多分、婚約者を選ぶのにあたって俺が邪魔だから、エレンにもう近づかないよう釘を刺すつもりなんだ。
そう思うと、口元が引き締まった。
誤字脱字報告ありがとうございます。
二者面談始まりです。
お父様、ちょうどいいところに。щ(゜Д゜щ)カモーン
ニールは何を言われるか気になって緊張状態。((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル




