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56.擦り合わせをしましょう

「コホン」


 わざとらしい咳払いが聞こえた。

 そして、やっとお父様が居たことを思い出し、慌ててニールから距離を取った。


「もう、いいかね?」

「すっすみませんっ」

「小父さん、すみません」

「仲が良いのはいいことだけどね。一応、時と場合を考えたほうがいいね」


 お父様が苦笑混じりに言えば、ニールと2人で赤面した。

 そうだった。これで終わりじゃない。アルドリッド公爵家でのことを話さなければならないのに。


「ニール、ありがとう。少し説明させてね」

「うん。アルドリッド公爵家で何があったのか、俺も知りたい」

「そうだね。1人で行くと言い切ったのだから、どう乗り切ったのかね?」


 お父様にそう切り出されて、わたしはアルドリッド公爵家での話をした。

 上位貴族であることを主張していたこと。

 後継ぎがお姉さまからわたしに変わったたのに、図々しくも戻せと言ったこと。

 親族でも同派閥でもないのに、まだ上からものを言い、話が平行線のままだったこと。

 弟のルカ様が間に入ってくれたけど、納得していないようだったこと、など。


「やはりねぇ。あの家は昔から変わってないね」

「やはり……とは?」

「うちはアルドリッド公爵家と隣り合っているが、付き合いがなかったね?」

「ええ」

「先代の時からそうで、現当主に至っては王女と結婚されたせいで、身分に固執するのに拍車がかかってね。うちとは全く考えが違うから、付き合いはなかったのだよ」

「やっぱり、そうだったんですね」


 昔から身分第一主義だったのが、王女の降嫁でさらに増したのか。筋金入りね。質が悪いわ。

 でも、あの家はそれだけじゃない気がするわ。

 そう……ルカ様の言葉が軽かった。

 自分たちに反対する意見だからというのもあるけど、なんだろう、それだけじゃない気がする。

 わたしが跡取りになったから、リアム様に嫁ぐのではなくルカ様を婿にするのならお父様に相談する――ということを言っても、納得していなかった。

 公爵のほうはともかく、夫人はリアム様ではなくルカ様を選ぶのかと、納得いかない眼差しを向けていた。


「なんとなくルカ様を軽んじているような気がしたのですが……跡取りではないからでしょうか?」

「かもしれないね。いずれ家から出ていく存在として――公爵より身分が下になるという意味もあるのかもしれないね」

「あまりいい気分ではありませんね」

「そうだねぇ」

「それを言うなら、うちは子爵で俺も次男だから貴族ではなくなる可能性が高いんだよな。ってことは、アルドリッド小公爵にとって、俺の存在って……」


 ニールが嫌そうに言うのを見て、否定したいけど否定できないのでなんと言えばいいのか迷う。

 お父様も同じなのか、渋面をしたまま口を開かない。


「ええと……わたしは貴族でも、いえ、身分が上でも敬える要素がなければ意味がないと思うわ。逆に尊敬できるところがあれば、平民でも称賛するわよ?」

「そうだね。我が家はそういう考えだからね。ニール君はエレンの婿になって上手くエレンを支えてくれるだろうと判断したから、話をしたのだけどね」

「小父さん……」


 そうよね。お父様はわたしの幸せを考えてくれるけど、伯爵家のことも重要。

 わたしが跡取りになって、きちんと支えてくれる人じゃなければ、ニールに声はかけないと思う。

「つらいだろうけど諦めなさい」と痛ましそうな表情で、わたしを諭すでしょうね。

 肉親と貴族の義務に挟まれて大変だけど、たくさんの命――領民を守るための道を選ぶに違いない。

 それが、きっとお父様の生き方。

 そして、わたしが見習わなければならない生き方だわ。


「エレン?」

「いえ。お父様の考えを自分なりに落とし込んでいただけです」

「そうかね?」

「はい。見習わなければならないことが多そうです。その、わたしはかなり感情的になってしまうので」

「そうだね。少し……いや、かなり猪突猛進してしまうからねぇ」


 お父様の言葉が思いっきりに胸に刺さったわ。


「アルドリッド公爵邸に1人で行くと言い切った時、どうしたものかと思ったからね。しかし、我が家のことを考えて自分1人で泥をかぶる気でいたとは……」

「お前、あの家の奴らによくケンカ売れたな」

「いや、あははは……」


 もともとリアム様にフラストレーションが溜まっていたからねぇ。

 ある意味、ここぞとばかりに吐き出してきたわ—―なんて言えない。


「ニール君、済まないがエレンを抑える役を頼んでもいいかね? でないと、この子は向う見ずに突き進んでしまうからね」

「わかりました、小父さん」

「え? 2人して酷くない!?」

「「酷くない(よ)」」

「やっぱり酷っ!」


 2人してハモったわ。しかも即座に切り返されている。

 この様子から、2人のわたしに対する見方が分かるというものよね。

 でも言われるようなことをしてきたから、強く反発できないわ、うん。


「さて、エレンがアルドリッド公爵家でどのようにしてきたか分かったから、そろそろ2人で話をしなさい。エレンも急でびっくりしただろうからね」

「……そうですね」

「はい、小父さん」


 ニールと2人でお父様の執務室を出て、パーラーに向かった。

 さすがに世間に公表していないので、わたしの部屋に……というのは駄目らしい。



 ***



 パーラーにあるソファーに座り、エイダが淹れてくれた紅茶とクッキーで一息ついた後、どちらが話をしようかと互いに探っているところだった。

 紅茶を半分ほど飲んだあたりで、ニールが先に口を開いた。


「エレン、この前の夜会の帰りのこと……悪かった。それに、あんな風にした後なのに、俺、小父さんが俺を選んでくれたことが嬉しくて、エレンにしたことを忘れて返事をしてしまった」

「ニール」

「ごめん。エレン」

「ううん。あの時、わたしのほうこそ何も考えずに言ってしまったわ」


 それからわたしは、お姉様のことを考えて代わりに後を継ごうと思っていたけど、まだ誰にも話していない状態だったから、ニールにも言えなかったと話した。

 あれから数日しか経っていないけど、アルドリッド公爵家のせいであれこれ動いて、お姉さまはエアルドレッド侯爵家に嫁ぎ、わたしが後を継ぐことに決まったのは、昨日のことだった。


「そうだったんだ」

「うん。その時にお父様に言われたわ。ニールの立場を考えたら、答えられなかったんじゃないかって。だから手紙を書いて、ニールの本当の気持ちを聞きたかったの。本当に駄目なら諦めて、他の誰かと結婚しなければならないから」

「俺が……俺がくよくよしていた時に、エレンは重大な決意をしていたんだな。ちょっと情けない」

「そんなことないわ。それより、それだけ考えてくれたってことでしょう?」


 ニールの立場は微妙だ。本人も言ったけど、家のために子爵家に残るなら、結婚は難しいと言っていた。

 馬車の中でニールに言った時は、わたしがどこかへ嫁ぐ前提だったのだから、ニールにしたら受け入れることが出来なかったのね。

 わたしは好きな人とだったら、貴族でなくなっても構わないと思っているのに。

 そう言っても、貴族としての生活しか知らないのだから、説得力がないわね。

 前世は平民だったけど、日本はここよりも豊かだったのだもの。





誤字脱字報告ありがとうございます。

次回はニール視点になります。


キーボードが打ちづらく、とうとうキーボードを買いました。

テンキーがなくて小さいの。

微妙に指の位置がずれてしまいます(;'∀')

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