52.領民たちを思い出せますか?
「しかし、そんなものは証拠がないだろう」
「証拠……ですか」
たしかにこの世界、魔法はあるけど融通が利かないものが多い。前世の小説や漫画であった『無属性』と呼ばれるものが存在しない。収納魔法や、録音、録画機能のある魔道具とか。
ニュースペーパーとかは、魔道具ではなく輪転機を使用しているのよね。ここは魔法と近世欧州が混淆された世界と言える。
そのため、証拠といえる発言を残すことは出来なかった。
うん? 風で音を集めるのだから、それを納めることが出来る魔石があれば出来ないかしら? 現に冷蔵庫とかはあるわけで……。
この世界、魔法と科学があるから、どちらも中途半端な発展なのよね。まあ、時代的に18世紀後半くらいの発展具合だから、録音、録画ができなくても仕方ないのかしら?
でも――
「聞いているのか?」
「聞いておりますわ。そうですね、今日の朝、釣書と手紙が届いて、午後には父と訪問するよう書いてあったことは、証拠になるかと思うのですが?」
「手紙がどうしたというのだ」
「午前に届いて、午後には公爵邸に顔を出すように――とありましたわ。今までお付き合いのなかった家同士ですのに、あまりにも礼を欠いた招待状でしたわね」
友人同士なら多少なりとも『今日行くね』『今日うちに来てもらってもいい?』という話が出てもおかしくはないけど。
でも、アルドリッド公爵家は友人でもないし、家同士が親しいわけでもない。
一方的な呼びつけは、身分が上といっても十分に失礼な行為だわ。
「それは、以前私が出した手紙と間違えているんじゃないか?」
リアム様が証拠隠滅を図るかのように、以前出した手紙――ノーリッシュ・カフェに呼び出したこと――だと言い出した。
「それにしては、日が空きすぎていますわね。それに手紙には『本日の午後』とありましたわ。以前の手紙だとしたら、その時に父とわたくしが公爵邸に伺っているはずですが、そんなことはありませんでしたよね」
「それは……」
どう取り繕うとも、手紙の内容はおかしくなる。だって、『本日の午後』と書いてあるのだから。
というか、最初の手紙だって使用人たちのことに対する謝罪より、ヴィンス様とお姉様のためにと同じことをしつこく言われたものね。
「だが、公爵位からの話を伯爵位が断るのが、そもそも無礼だろう」
「……またそれですか。何度も言いますが、我がペイリー家はアルドリッド公爵家の一門でもありませんし、同派閥の下の身分の家でもないのですよ。話があるというのであれば、まずは相手の予定を尋ねることから始めるべきだと申し上げているのです」
「そもそもの前提が違うだろう。私が言っているのは――」
「違いません。公爵位をひけらかしたいのであれば、まずは上位者として手本を見せてくださいませ。義務を放棄し権利だけを主張するのは違うのではありませんか?」
ルカ様も言ったように、下の者が敬うような振る舞いが必要なのに。
それとも、別の派閥の下の身分だから、軽く見られているのかしら? ん? 逆にバレた場合、他の派閥に醜聞が広まるから、悪手よね? 分かっているのかしら。
それに――
それに、この家は身分だけにしがみつき、領民のことも考えていないんでしょうね。
「閣下」
「な、なんだ?」
「閣下は自分の領地の民がどのような顔をされているのか、すぐに思い出せますか?」
「何を藪から棒に……」
「お答えできないのでしょうか?」
「そんなこと……う、うむ……普通、だが。いきなりどうしたのだ」
おそらく、アルドリッド公爵家は領地のことは家令に任せきりなのでしょうね。領民がどのような生活をしているのかを把握していない可能性が高い。
おそらく貴族の世界しか知らない人たちなのだわ。
「閣下、わたくしはペイリー伯爵領の領民の顔を、表情をすぐに思い出せますわ。皆、穏やかで笑顔が絶えない者たちばかりです」
「な、何が言いたい?」
「領民の生活を保障すること。さらに言えばゆとりある生活を送らせること――それが、我が家の考えです。わたくし自身も父の視察について行き、領民と交流を持っていましたわ。それが当たり前で育ったのです」
遊び半分でついて行っても、どこかで勉強になるだろうとお父様は判断したのかもしれない。
そのおかけで、わたしは領民の様子を思い浮かべることが出来る。
お父様たちが話している傍らで、領民の子供たちに混ざって遊んでいたわね。皆、家の手伝いとかはあっても、勉強も遊びも楽しんでいたわ。
それに、貴族の娘だと遠慮することなく受け入れてもくれた。
「それがどうしたというのだ」
「自領の領民を思い出すことも出来ない公爵家と、領民第一に考えてきた我が家では、重なることがないのですよ。ですから、いつまで経っても平行線なのですわ」
ちなみに、リントン子爵家も領民を大事に思っている。
さらに言えば、リントン子爵家はうちよりも領地が狭いぶん、もしかしたら我が家よりも領民との垣根が低いかもしれない。
だからこそ、リントン子爵家とは交流があり、貴族の血統主義なアルドリッド公爵家とは今まで縁がなかった。
……いえ、お父様も縁を持つ必要を感じなかったのだわ。
そう伝えれば、図星なのか公爵は悔しそうな顔をしていた。
「だが、だから何だというのだ。民は我らが率いてやらねば力のない有象無象の集団ではないか」
「その考えが傲慢なのですわ。そして、我が家とは相容れない考え方です。そのような家と縁続きになるつもりはございませんわ」
公爵とこんなやり取りをしていて、お姉様のお相手――ヴィンス・エアルドレッド侯爵令息の家は大丈夫なのか心配になってきてしまった。
なにせ従兄弟同士だものねぇ。となると、親のどちらかが公爵ときょうだいになるということで……お姉様、本当に大丈夫かしら。
お姉様が好きになるくらいの方だから、大丈夫だとはおもうけど、それでも心配になってしまったわ。
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