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50.話は聞きましてよ?



 目を細め、値踏みするかのようにリアム様に視線を向ければ、当のリアム様よりも夫人のほうが「なんですって!?」と声を上げた。

 いや、だから、今理由を述べましたよね? 聞いていました?――と、夫人の理解力に疑問を持ってしまい、表情が抜け落ちた。


 そして少し視線をずらせば、肩を震わせているルカ様が目に入った。

 ……完全に面白がっているわね。

 でも、この中で、ルカ様が1番常識人かもしれないわね。

 いずれ、独立するかどこかの家に婿に入るか――どちらにしろ、公爵令息という肩書きは失うせいか、冷静に物事を見るようになっているのかもしれない。


「君は、その、なんだね。もう少し言葉を選ぶ必要があるのではないか? 目上の者に対して失礼だろう」


 不機嫌を隠そうとしない公爵の声に、肩を竦めた。

 オブラートに包んだ言い方をしていたら、この人たちは気づきもしないでしょうに。自分たちに向けられた言葉が真実ではなく、忖度されたものであるという事に。

 おそらく、今までだって同じような事はあったはず。だけど、立場を忖度されたり、事を荒立てるのを望まない人たちばかりだったのだろう。王族派の筆頭だしね。王族以外は皆彼らより身分が下になるもの。


「失礼いたしました。ただ、同じことを角度を変えて何度もやり取りするより、早く理解して頂けるようにと思ったまでですわ」

「なんだと?」

「『普通は身分が上の者からの話を、下の者は断れないものだが』と閣下は仰ったのですよ。そして夫人は『我が息子ながら自慢だと』わたくしに対して『ほかの令嬢に対して鼻が高いでしょう』と仰いました。プライドが高く、目下の者にそのような発言する方たちなのに、目下の者からの婉曲な言い回しではいつまで経っても伝わらなさそうでしたので」


 あら、きちんと説明したのに、公爵のお顔が歪んでいるわ。ほほほ、なんて思ったり。

 さて、この後どう繋げよう――と考えていると、ルカ様が堪えきれずに噴き出した。


「ふ、はっ、はははっ! 思った通りエレン嬢ははっきりしているね」


 ルカ様、大爆笑よ。

 笑いの沸点が低くないかしら?

 公爵たちはルカ様の笑い声にも顔をしかめたけど、ルカ様はまったく気にすることなく。


「これは父さんと母さんが悪いよね。自分たちが上、エレン嬢は下と見ていての発言だし、母さんは臆面もなく兄さんの自慢をしているからね。エレン嬢が嫌がっても可笑しくないだろう?」

「ルカ! あなたは何を言っているの!?」

「だからさぁ、エレン嬢が兄さんに好意を持っていなければ、傍にいて周りに自慢できるとか思わないって。エレン嬢の気持ちをまったく考えていない発言だよ」


 うん、ルカ様よく言ってくれたわ。

 とはいえ、夫人は不満たっぷりなようだけど。


「ルカ様、代弁ありがとう存じます」

「ううん、うちの家族が悪いね。急な呼び出しだけでも失礼なのに、当主が来ないことに文句を言ったりして。父さんたちは身分に甘えきっているよ。親族や同じ派閥の者を呼び出すような感覚でやられたら、エレン嬢たちだって戸惑うし、不満も出るってものだよ」

「ルカ!」


 公爵がルカ様の発言が気に入らないのか、顔を赤くして怒声を上げた。


「あのさ、エレン嬢の家――ペイリー伯爵家は我が家となんの関係もないんだよ? 同派閥の身分が下の家の者を呼び出すのと訳が違う。きちんと相手に予定を伺って、相手の都合のいい日に話をするものじゃないの?」

「だが、だな……」

「爵位で考えれば、ペイリー伯爵家が多少融通を利かせてくれるかもしれないけどさ。それって、相手に気遣いを強いてるって分かる? 本来、目上だと言うのであれば、手本になるべき行動をするべきじゃないの?」


 家族に対してなのか、遠慮のないルカ様。

 でも、わたしが言いたかったことを全て言ってくれたわ。

 少しだけ、スッキリとする。


「……んん、まあ、確かに性急過ぎたな。では、エレン嬢が後を継ぐというのであれば、ルカはどうか? 次男だし、婿入り先があると助かるのだが」


 やはりそう来ますか。

 多分、リアム様はわたしが使った治癒魔法――と言ってもいいの? くらいな些細なもの――が目的で、公爵のほうはペイリー家に王族派を送り込むこと。場合によっては乗っ取りもあり――と。

 だから、次にこの話が出ることは分かってはいた。


「そうですわね。ルカ様が我が家の決めたことに沿うこと、実家の意見を押しつけないのであれば、候補に挙げられますわね」

「なんだと? それでは家の結び付きに意味がなくなるではないか」

「あら、わたくしは意見を言っても構わないと思っていますわよ? ただ、それが我が家の総意になるかどうかは別だということです」


 言ってしまえば、入り婿の実家の意見が全て通ると思うほうが可笑しい。

 おそらく、わがままで頭がお花畑のようだという噂を信じているのでしょうね。実際、少し前までそうだったので否定はしないけど、目の前で話している人物が噂通りの人かどうかくらい、考え直すべきでしょう。

 自分で言うのもなんだけど、今は頭の中にお花は咲いてないので。


「王族派が中立派に入るのですもの。牽制されても仕方ないことだと思われますけれど? 閣下が身分を盾に上からものを言うように、我が家は派閥が違うから思う通りにいきませんよ、と前もって伝えているだけです。それでよければ、ルカ様をわたくしの婿候補として考えますわ」


 貴族の結婚なんて好き嫌いで決められるほうが少ないと思う。

 ルカ様のことを好きではない。

 でも、話が分からない人ではないし、好意的にも見ることが出来る。踏み込まなければパートナーとしてやっていくくらいは出来ると思えるわ。


「エレン嬢の言うとおりだね。僕はエレン嬢に忠告はするけど、それをもとに出した答えに異論は問わないよ」

「そう言って頂けると助かりますわ」


 笑顔のルカ様に同じく笑顔で答える。

 独立、もしくは入り婿になることを前提にしてきたせいか、ルカ様の答えは他の3人より柔軟で助かるわ。



誤字脱字報告ありがとうございました。


年明けの仕事始め1週間のデスマーチがなんとか終わりました…_( _´ω`)_ペショ

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