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48.始まります

明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。



 公爵家の中に入ると奥の方へと促される。

 その間、後に付いてきたエイダには控え室で待ってもらうように声をかけられていた。

 エイダがいなくなるとわたし1人になるため、エイダが難色を示すが、流石に顔合わせの場に入ることは出来ないでしょうね。


「エイダ、待っていてくれる?」

「ですが、お嬢様……」

「大丈夫よ」

「かしこまりました」

「では、エイダをお願いね」


 エイダが了承したので、公爵家の使用人にエイダを案内するよう促して、わたしは先に進むことにした。

 正直、1人というのは不安がある。エイダがいれば少しは安心できると思う。でも、エイダはあくまで使用人。公爵家の方たちに向かってわたしを庇うような真似をしたら、彼女の命が危ない。貴族の一部は使用人――平民の命をなんとも思っていない人たちがいるのは、悲しいけど事実だから。

 逆に1人で行けば、味方はいないけどわたしの言いたいことを止める人はいないという事でもある。

 ……うん、正直、なりふり構っていられないので、きっと言いたい放題になると思うのよね。それを理性的に止める人が居ると、言いたいことも言えなくなり、下手をすると話がまとまってしまう恐れがある。

 まさに特攻と言える状態です。

 だって他に道はないもの。




 無表情を努めながら歩いていくと、ドローイングルームに通された。

 うわぁ、この部屋を選ぶあたり、公爵家の本気度が知れるというか……。本来ならフロントルーム辺りで良さそうなのに。ドローイングルームに通されるほど、懇意にしているわけでもないもの。

 使用人が扉を叩くと入室を促す声が聞こえてくるのが分かった。その声に反応して、使用人がゆっくりと扉を開いていく。

 扉の中央に立っているわたしは、扉が開き切る前に一度深呼吸して。


「お初にお目にかかります。ペイリー伯爵家が次女――エレンと申します。この度はご招待ありがとうご存じます。ただ、急なことにより当主である父が不在なこと、誠に申し訳ございません」


 前もって考えていた挨拶の言葉を口にした後、カーテシーをした。

「硬くならなくても構わん。顔を上げてくれ」そう声をかけたのは、リアム様が年を重ねたらこうなるだろうなと思える男性だった。きっとアルドリッド公爵なのだろう。


「ありがとう存じます。閣下」


 カーテシーをやめて足をそろえて立つと、閣下がほぅと息をついた。


「ふむ。初めてしっかり見たが、噂通りペイリー伯爵家の姉妹は美しいな。しかも、しっかりしておる」


 よく言うわ。見た目は良くても中身は駄目だとさんざん言われてきたんですけどね?

 とはいえ、公爵にそんなことを言っても始まらないので、「――ありがとう存じます」とだけ返した。


「さあ、中に入って座ってくれ」

「……失礼いたします」


 中を見ると、公爵の隣は年齢からして夫人――王女だったのよね――、リアム様、ルカ様の4人が居た。家族全員揃っているわ。昨日の今日なのに、暇人なのかしら――なんて思ってしまう。

 促されるまま空いている椅子に座れば、夫人が口を開いた。


「ところで、お父様である伯爵はどうしたのかしら?」


 どことなく上から目線なのは、元王女という肩書と公爵夫人という立場からかしら。

 わたしは表情を崩すことなく。


「申し訳ございません。なにぶん、手紙が届いたのは朝でしたので、父は外せない来客があり、わたくし1人で伺うことになりましたの」

「まあ、我が家より大事なお客様なのかしら?」

「父は先に入れた予定を優先いたしますので。出来ましたら、先に予定をお訊ねくだされば、このような事にはならなかったのですが……」


 あんたらが自己都合でいきなり来いって言うからこうなったのよ――と言うのを、数枚のオブラートに包んだ言い方に変える。

 まあ、オブラートに包んでも分かっているでしょうけどね。リアム様が「くっ」と軽く笑ったのが分かる。

 まったく、誰のせいだと思ってるのよ⁉


「ま、まあ、良いお話ですからね。早いに越したことはないでしょう?」

「……」


 夫人が取り繕うが、わたしはそれに返さなかった。

 それよりも、公爵の方を見て、


「閣下、公爵家と我が家は特に御縁がありませんでした。なのに、何故このようなお話になったのでしょうか?」


 そう訊ねれば、夫人は無視されたと思い顔をしかめたが、すでに次の話に移ったので口を出すことはなかった。


「確かに、うちとペイリー伯爵家は特に親しくはなかったが、だからといって、この先ずっと続くわけではないだろう?」

「確かにそうですわね」

「それで、我が家には跡取りだというのに、未だに婚約者もいない身でね。そのリアムが1番親しい女性が君だと聞いて、親心で婚約の打診をしたのだ」

「左様でございますか」


 確かにリアム様の周辺は常に年頃の令嬢かわ集っていたけど、親しく会話をしている感じではなかったわね。どちらかというと、煩わしいという感じだった。

 でも、リアム様が未だ独り身だと言われても、わたしになんの関係もないのですが?


「それで、どうだろう? リアムと婚約は」

「我が家は伯爵家……公爵家と縁続きになれるのは、とてもありがたいお話かと思います。ですが、申し訳ございませんが、お受けすることは出来ませんわ」


 迷うことなく拒否すれば、「何故だね?」と質問が返ってくる。

 まあ、当たり前よね。

 公爵家からの婚約の打診を伯爵家が断れるわけがない。

 少し前のわたしなら派閥のことも知らず、ただ身分だけで考えて、頷くしかなかったでしょう。

 でも、お父様の思いを聞いてから、我が家の方針を変えるような話を受けるつもりはない。


「リアム様は公爵家嫡男であらせられるので、同じく伯爵家の跡取りであるわたくしは、このお話をお受けすることが出来ませんわ」


 この話は、お父様に他家に話してもいいか確認をとってある。

 お父様も断る口実に出来るのはこれくらいしかないと思っているのか、構わないと言ってくれた。

 だから最初から、この話は受けられないと面と向かって拒否したのだ。

 言い切った瞬間のリアム様の驚いた顔を見れた事で、少しだけ溜飲が下がったわ。



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