47.行ってきます
公爵家に失礼のないような服装に着替える為に、自室へと戻った。
エイダを初めメイドの皆が、あれがいい、いやこちらの方が――等という声を聞きながら、何故会いたくない人のために着飾らなければならないのかと、溜め息をついた。
とはいえ、これを乗り切らなければ、わたしの未来はない。
気軽なワンピースからデイドレスに着替え、化粧もしてもらう。
エイダ達もわたしが公爵家に行くのを知っているので、いつもより念入りになっていた。
準備がやっと終わり、エイダ達は達成感に満足しているようだったけど、わたしはこれだけで疲労していた。
この後、公爵家の面々を相手にしなければならないと思うと、気が重くなって逃げ出したくなるわ。
逃げたい気持ちと、行かなければならないという気持ちの間でゆらゆら揺れるけど、時間は刻一刻と迫ってくる。
仕方なく椅子から立ち上がり、玄関に向かった。多分、お父様が馬車の用意をしてくれているはず。
階段を降ると、心配そうなお父様と目が合う。
「エレン……」
「……行ってきます」
「無理はするんじゃないよ」
「いえ、無理をしてでも、自由を勝ち取ってきますわ。あの方と婚約なんて冗談じゃありませんもの」
リアム様の顔を思い浮かべれば、段々腹が立ってきて、負けるものかという気持ちになってくる。
「行ってくるわ」
そう告げて、玄関から外に出ようとすると――
わたしが乗る予定の馬車の後ろに、もう1台馬車が付けられる。
どこの馬車? と思っていると、中から降りてきたのはニールだった。
「ニール……どうして……」
「エレンっ! ……って、その格好は……?」
互いに疑問を口にすると、その後はどう答えていいのか分からなくて無言になった。
何を言えばいいのか言葉を探していると、後ろからエイダに「そろそろ出かけませんと」と、声を掛けられた。
「ニール、来てもらって悪いんだけど、出かけなければならないの」
「出かける? 茶会か何かに呼ばれているのか? それなら、予定も考えずに悪かった」
お茶会か……それならまだ気楽なんだけどな。
「そうじゃないけど、大事な用事なの。急に決まった事で……」
「何かあったのか?」
「うん、ちょっと。……不安だったから、ニールの顔が見れて安心したわ」
「エレン」
どうして家まで来てくれたのか、何を言いに来たのか、色々訊きたいけどそんな時間はない。
思わず泣きたくなる気持ちを抑えて、ニールに向かって、
「来てくれてありがとう」
と、言った。
顔を見ることが出来た――それだけで、心が温かくなる。
「エレンっ!」
ニールは何か言いたそうに、わたしの名前を呼んだけど、もう時間がない。馬車に乗って、公爵低へ向かってもらう。
馬車の中で、気を抜くと涙腺がゆるむのを堪え、無表情になるように努める。
これから魔窟とも言える公爵家へ行くのだから、気を引き締めないと。
といっても、公爵家に関して知っている事はごく僅か。向こうの出方でどうするか決めるしかない。
そもそも、公爵家からわたしに縁談の申し込み自体があり得ない。
相手は公爵家であり、王族派筆頭よ。うちは中立派であり、爵位はそこそこ。
王太子殿下がすでにご結婚され、お子様もいらっしゃるので、この国で1番身分が高く未婚なのはリアム・アルドリッド公爵令息になる。そのため、令嬢方の間で人気がある。美形だしね。
が、その1番人気のある令息が、なぜわたしに……。
お父様は、切り傷を治した事が原因だと言っているけど、ほんの切り傷だし大きな怪我を治したわけじゃない。出来る可能性があるかも分からないのに、期待しないで欲しい。
魔法なんて便利なものがあるから、治癒魔法もしっかりあると思っていたのに。まさか、治療に薬草が必要なんて、そんな落とし穴があるなんて思わないわ。
絶対やらないと思っていた『異世界転生あるある』が、ここまで尾を引くとは思わなかったわ。
しかも、そのあるあるを1番厄介な人の前でやってしまうなんて、誰が想像出来るのよ!
はーっと、深い溜め息をつくと、付き添いのエイダに「大丈夫ですか?」と心配される。
「これからの事を思うと気が重いのよ」
「その、エレンお嬢様は、いい話だと思われないのですか?」
エイダは無駄口をあまりしないほうだけど、流石に相手が相手なのか、嫌そうなわたしに疑問を持ったのかもしれない。
「そうね、いい縁談を望んでいる令嬢なら、とても嬉しい話でしょうね。でも、わたしは嬉しくないの。その……好きな人がいるから。その人からじゃなきゃ、喜べないわ」
「左様でございますか」
他にも派閥の話とかあるけど、そこまで話す必要はないと思い、話を続けることはなかった。エイダもこれ以上何か言って来ることもなかったので、少しだけホッとした。
あと少しすれば、アルドリッド公爵家のタウンハウスに着く。
そう思うと、心が引き締まっていく。
目を閉じ、心を落ち着かせている間に、一旦馬車が停まり、再び走り出す。
きっと、公爵家の門を通り過ぎたんだわ――そう思っていると、しばらくして馬車が停まり、扉が開かれた。
「いらっしゃいませ。ペイリー伯爵……」
「伯爵である父は外せない用があり、わたくしだけで参りました。急ぎのため、当主不在で申し訳ございません」
お父様がいないのは、そちらの急な呼び出しのせいよ――というのを含ませると「左様でございますか」と少し困惑した声が返ってきた。
でも、そんなのは知ったことではないわね、
さあ、ここからが本番よ。気合を入れなきゃね。
誤字脱字報告ありがとうございました。
予定通りこの話で今年の更新は終わりになります。
続きは来年に。
先週風邪ひきました。
今は熱も下がりだいぶ良くなりましたが、まだ完治とまではいかないのでストックがほぼできず…
休みの間に書き溜めたいなぁ、と思ってます。
皆様、本当にお体にはお気をつけて。
それでは良いお年を(*- -)(*_ _)ペコリ




