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45.それはある荷物から始まりました



 次の日の朝、何をしようか考えてしまった。

 天気もいいから散歩もいい。だけど、外に出てしまったら、ニールから返事が来た時にすぐに気づけないし……。

 やっぱりここは勉強でしょうね。昨日、お父様に頑張るって言ったんだもの。

 そういっても、教えてくれる人がいないと何処から手を付けていいのか分からないわ。

 とりあえず、ライブラリーに行ってみよう。面白い本があれば、それを見てもいいし。

 思い立つとすぐ行動――はわたしの性分らしい。じっとしているのもつまらないので、ライブラリーに向かった。

 この世界ではすでに羊皮紙は廃れ、紙に変わってきている。そのせいか比較的安価に本も作られるので、貴族の家のライブラリーはそれなりのものになる。

 最近では若い子に向けた小説なんかも売っているしね。そういったのは自分の部屋に置いてあるけど。


 ライブラリーには誰も居なくて、わたしはゆっくりと部屋の隅からどのような本があるか見ていった。農業に関するもの、経営学、土木工事に関するもの……多岐に渡っているけど、どれも実用性のものばかり。代々、当主が必要としてきた本をその都度増やしていっているんでしょうね。

 どれに手を付けていいか分からなくて、背表紙を見ながら奥へと進んでいった。

 奥の方に行くと雰囲気が変わり、きちんとした書籍ではなく、ノートのようなものに変わった。


 気になって手に取ってみると、それは代々当主が行ってきた事業などをまとめた日誌のようなものだった。

 内容は道の整備や、貯水池を作ったりと、農耕が主体のペイリー領に必要な事を毎年少しずつ行っていたものを事細かに記してある。

 領用の税金は少なめにしているのに、それでも領民が少しでもいい生活を送れるようにと、毎年、何かしら領の整備を行っているようだった。


 そういえば、カントリーハウスがあるのは領都になるから、過ごしやすいのは当たり前だと思っていたけど、お父様に付いていった視察――わたしにとっては旅行のようなもの――で、田舎の道を馬車で通っても、それほどガタガタしないで移動しやすかった。雨の日にぬかるんで車輪が動かなくなるというアクシデントもなかったわ。


 また、領都は石畳で整備されていて、メインストリートは露店で賑やかだった。

 わたし1人で――本当は護衛が近くにいたんだろうけど――歩いても危険はなかった。露店をあちこち覗いては、お小遣いで買えるものを買ってお土産にしたりして……。

 それが当たり前だと思っていたけど、それは先祖代々、領民の事を第一に考えた政策を行っていたからなんだわ。

 そのせいか領の人たちも、お父様を初めわたし達に対して敬ってはいるけど、親しみもあった。

 特にお気に入りのお店などは、伯爵家の娘と知られているから、丁寧に扱ってくれたけど、同時に気安さもあった。「今日は◯◯がお勧めですよ」とか、口調が丁寧だけど、今日のお勧めを紹介してくれたりした。

 何気ない日常だったけど、幸せだった。


 ……と、思い出したら、ジャックのパン屋さんのパンが食べたくなったわね。

 日本のパンよりは硬くて素朴な味だけど、食卓にものぼる我が家御用達のパン屋さんなの。

 パンの味を思い出して、食べたいなーなんて思っていると、急にお腹が空いてきたわ。

 キッチンに行って、クッキーか何か小腹を満たすものでも貰ってこよう。


 日誌を元に戻し、ライブラリーから出てキッチンへと向かう。

 歩いていると、メイドが荷物を持って歩いていた。

 もしかして、ニールからの手紙もあるかしらと思い、声をかける。


「エレンお嬢様」

「途中でごめんなさい。わたし宛に何かないかしら?」

「お嬢様宛でしたら特にございませんが、こちらの御家はお嬢様と関わり合いがあったかと」


 メイドのアニスが持っている荷物の中から出したのは、前世で言えばA4サイズくらいの厚みのある封書だった。

 ニールが送ってくるようなものじゃないわね、と思いながら送り主を見ると、アルドリッド公爵家の家紋が目に入った。


 ……どういう事?


 気になるけど、開けてしまっても大丈夫かしら。

 ……お父様に相談したほうがいいわね。わたし宛じゃなくて、我が家に向けて、ですもの。

 でも、嫌な予感しかしないわ。


「お嬢様?」

「ああ、ごめんなさい。お父様は執務室に居るかしら?」

「はい。朝から籠っていらっしゃいます」


 籠ってって……と思ったけど、そこは突っ込むのを止めた。


「じゃあ、他に持っていくものはある? わたしが持ってくわ」

「その、お嬢様のお手を煩わせる訳には……」

「わたしがお父様に用があるの。だからついでに持っていくわ」

「……では、お願いいたします」


 アニスからお父様宛の荷物を受け取ると、そのままお父様の執務室へと向かった。

 そういえば、アニスは今シーズンになってからタウンハウスで雇ったメイドのせいか、さっきみたいな時にすごく意外そうで恐縮そうにするのよね。

 他の家はそんなに堅苦しいのかしら? うちはわたしだけじゃなく、お父様から全員都合がつくなら自分がやってもいいじゃない、という考えなんだけど。

 貴族と平民のいいとこ取りというのかしら。堅苦しくなくて楽なのよね。貴族意識バリバリだったら、どこかで耐えられなかったかも。前世は一般市民だったからね。選民意識が強い家でなくて本当に良かった。


 執務室の扉を叩いて「エレンです。入ってもいいですか?」と聞くと、すぐに「お入り」と返ってきた。

扉を開けて「おはようございます」と挨拶しつつ、お父様に荷物を渡した。


「珍しいね。エレンが続けて来るなんて」

「そうですね。来なければならない事態と言いますか……」


 そう答えながら、嫌そうにアルドリッド公爵家からの荷物を他の荷物の中から出して、お父様に手渡した。


「このようなものが届いていたのですが……もの凄く嫌な予感がします」


 わたしが嫌そうな表情でアルドリッド公爵家からのものを見せれば、お父様は「ああ、やっぱり……」と呟いたのだった。


「お父様?」

「見ていないから確信は出来ないけどね。多分、縁談の申し込みだよ」

「……は?」


 いやいや、何言ってんですか、お父様?



誤字脱字報告ありがとうございました。


年末の忙しさもありますが、最近会社で体調を崩してお休みされる方が多くなりました。

家族にも1人風邪っぽいのが居ますし苦笑

いろいろ流行っているみたいですしね。

皆様もお体には気を付けて。

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― 新着の感想 ―
とうとう来たか! 心配だな… 更新ありがとうございます! 毎回楽しみにしております
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