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42.我が家の夕食



 お父様の執務室から出たあと、自分の部屋に戻って机に向かった。

 ニールに手紙を書くためだ。

 なんて書こう。わたし跡取りになったの。だから、わたしと結婚してわたしを支えて――軽く考えて、頭を左右に振った。

 いやいや、いくらなんでもすっ飛ばし過ぎでしょ。

 うーん。



『ニールへ


 この間はごめんなさい。

 あなたの立場も考えずに、勝手なことを言ってしまって。

 一方的に会わないと言ったのに、相談したい事があります。

 もし、少しでもお時間を頂けるのであれば、連絡を頂けないでしょうか?


 エレン・ペイリー』



 結局、色気も何もない、ほぼ直球の手紙。

 ただ、最初に比べて、最後の方が丁寧な文章になっているのは、わたしの心情から来るものかしら。

 書き直そうと思ったけど、ニール相手に畏まった手紙はわたしらしくないと考え直し、新しい便箋に手を伸ばさなかった。

 もう、これでいいわ。開き直って、使用人を呼んでリントン子爵家に届けるように伝えた。


 リントン子爵家とは領地はお隣だけど、伯爵と子爵で差があるのか、タウンハウスはそれなりに距離がある。

 王城の近くに公爵家があり、王城から離れるほど、爵位が低くなる。

 なので、隣の家にちょっと御使い――という事にはならず、手紙の返事が来るのは、早くても明日になってしまうに違いない。

 最悪なのは、ニールが呆れていて手紙を返さないこと――ううん、そんな事ないわね。返事くらいはしてくれるわ。ただ返事の内容が会いたくない、だったらどうしよう。


 手紙を使用人に託した後も、そんな事を考えてしまってドキドキするのが止まらない。

 ヤバいなぁ。

 わたし、本当にニールのことが好き。自覚した途端、止められなくなっている。

 特にあの夜会の後、ニールにやんわり拒絶された時から落ち込んでいたのに、リアム様のせいでそんな事を考える暇も無かったり、お父様のおかげで持ち直したりと、感情のアップダウンが激しくて困るくらい。


 前世で恋くらいしたはずなんだけど、なんだか、久しぶりの感覚で。

 考えてみれば、エレンとしては初めての感情だから、こんな風になっても仕方ないわよね。

 生まれ変わったのだから、初恋をもう一度やり直しているんだわ。ドキドキしたって仕方ないわ。


 ……って、本当に考えることが止まらない。



 ***



 手紙がいつ届くのか、ニールは返事をくれるのか、手紙の返事にどれくらいかけてくれるのか――等いろいろ考えていたら、いつの間にかに夕食の時間になっていた。

 こんなに集中して考えていたのは久しぶりだわ。この集中力を勉強に活かせればいいんだけど。


 時刻になったので、ダイニングルームに向かった。

 自分の席に行くと、使用人が椅子を引いてくれるので、そのまま席についた。

 お母様とお姉様はすでに席についていて、残るはお父様のみ。


「お父様はお仕事で少し遅れるそうよ。先に頂いても構わないとのことだけれど」


 お母様がそう言うと、お姉様が「まあ、少しでしたらお待ちしますわ」と即座に答えた。


 ……お仕事で遅れるって、どう見てもわたしのせいよね?

 お父様、問題ないって言っていたから、安心していたのに。

 なんとなく嫌な汗が背を伝う。


「エレン?」

「あ、もちろんわたしも待ちますわ」

「そう、そういえば、最近ローズと一緒に勉強しているようだけれど、ローズに迷惑をかけていないわよね?」


 珍しくお母様がお姉様を慮る発言だわ。

 もちろんです――と答えたいところだけど、お父様との件を考えると、素直に頷けない。


「お母様、エレンはとても頑張り屋さんですわ。わたくしもエレンに教えることで復習にもなるので、できればこのままエレンと勉強したいですわ」


 お姉様がフォローしてくれた。


「そう、エレンが迷惑をかけてない?」

「もちろんです」

「なら、良いのだけれど」


 お母様は少しほっとした表情になって、息を大きくはいた。


「もう、この子は思い立つと周りの迷惑を考えずに動くことがあるから、迷惑だったらちゃんと言うのよ」

「はい、お母様」


 ちょ、それ酷い!

 ……って言いたいけど、過去を振り返ればその通りなので何も言えない。

 それにしても、今日のお母様はお姉様に対して気遣いを見せている。

 何があったのかしら?

 ……。

 まあ、いいか。だって、これが家族のあるべき姿だと思うから。


 それから、お父様を抜いた女性3人でお喋りをしていると、20分くらい遅れてお父様がダイニングルームにやって来た。


「遅くなって済まないね。先に食べててくれて良かったのに」

「お仕事中の旦那様を置いて先に食事など出来ませんわ」


 済まなさそうにするお父様に、お母様が答える。お姉様とわたしも賛同し、お父様が席について夕食が始まった。


 普段の夕食はコース料理ではないので、メインディッシュ、スープ、サラダ、パンが運ばれてきた。

 今日のメインはラムランプ肉を使ったステーキ。塩コショウのみのシンプルな味付けに。他のスープ、サラダ、パンはその日仕入れた食材を使って作るので、毎日少しずつ変わっている。今日のスープはポトフに近いコンソメスープ。メインじゃないので具材はポトフより小さい。

 基本的にシンプルな味付けが多いけど、素材の味がして美味しいので、不満はないのよね。

 食事が終わると、デザートの果物をカットしたものと、紅茶が運ばれてきた。


「今日は林檎なのね」

「はい、奥様。本日は林檎が安く手に入りましたので。明日のおやつはアップルパイにでもしようと思っております」

「そう。楽しみにしているわ」


 料理長が自ら安いと言ってしまうのが我が家の特徴。そして、それを良く思う両親。

 こんな感じなので、幼い頃から安いものは良いものだと思っていた。

 だから貴族のお茶会に参加して、「何処何処産の何々が高かったけれど、どうしても欲しくてお父様に強請っちゃったわ」というご令嬢に対して、違和感を持ってしまったこともあった。『安いほうがいいんじゃないの』って。口にしなくて良かったけど。

 口にしてたら……想像すると怖いわね。

 こんな風に、我が家はわたし達が幼い頃から、倹約が普通だと思わせるようにしていた。

 ただ、そのせいか、わたしは高価なものが欲しいというより、お姉様の物のほうが良いものに違いないと勘違いして、お姉様の物を欲しがってしまうようになったのけどね……。

 我ながら、困った性格だったわ。



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